緊急報告:10月1日、カタルーニャ独立住民投票《一皮むけばフランコ独裁時代のスペイン》
- 2017年 10月 4日
- 時代をみる
- 童子丸開
この記事はまだウエッブにアップしていません。書きかけですが、とりあえず10月1日にカタルーニャで起こった出来事についての報告だけをしておきます。今日10月3日(火曜日)はカタルーニャ中でスペイン政府と警察当局の蛮行に抗議してゼネストを決行しており、ほとんど全ての労働組合や商業団体、文化団体、学校、美術館、博物館と音楽施設、映画館などが参加しています。バルセロナ市内はほぼ全てがストップしています。なぜそのようになったのかの経過は、以下の報告をお読みください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
緊急報告:10月1日、カタルーニャ独立住民投票《一皮むけばフランコ独裁時代のスペイン》
2017年10月1日にカタルーニャ中で繰り広げられた惨劇は、スペインが1978年以来うわべを取り繕ってきた西欧型民主主義の薄皮を吹き飛ばし、その下にあるフランコ独裁政権時代の姿そのままに残された社会と国家の構造を鮮やかに浮かび上がらせた。私は当サイトでこの国の真の姿について方々で採り上げてきた(『スペイン現代史の不整合面』、『終焉を迎えるか?「78年体制」』を参照)。そしてそのファシズム国家の姿が全世界の人々の目に曝されることとなった。決して独裁時代の政治が「復活」したのではない。元からそれは「民主主義」の皮の下に横たわっていただけのことだ。人間でも国でも追い詰められたときに本性を現す。10年前に始まった経済危機とともに「カタルーニャ問題」がこの国を追い詰めてしまったのである。
小雨の降る10月1日の早朝、私はカタルーニャの独立を問う住民投票の投票場の一つとなっている自宅近くの学校に出かけてみた。そこには2日前から子供たちを含む大勢の住民が泊まり込み、警察当局による投票場の閉鎖を阻止していたのである。カタルーニャ州警察は国の内務省から投票場閉鎖の命令を受けていたのだが、警察署長のジュゼップ・リュイス・トラペロは「騒乱状態が予想される場合には強制的な撤去はしない」と明言し、州警察の警察官は人々が集まっている様子を見回りに来るだけだった。しかし、バルセロナとその周辺には全スペインから集められた1万8千人近い国家警察とグアルディアシビル(国家警備隊)が配備され、マドリードの中央政府はすでに、武装警官隊を使って投票場を閉鎖し投票箱と投票用紙を没収して、住民投票を阻止すると決めていた。当日、泊まり込み部隊に加えてまだ真っ暗な朝5時から数百人の住民が学校の入口付近の道路に集まった。人々は自分たちの投票場を武装警官隊による強制的閉鎖から守るために身を張る覚悟を決めていたのだ。
投票が開始される予定は午前9時だったが、8時前に投票箱と投票用紙が運び込まれた。警察に見つからないように用心深く乗用車の中に隠して運んできたのだ。9時近くになっても、集まった住民に占拠された道路に自動車が入れないように整理する市警察の女性警官以外には見えなかった。しかし国家警察とグアルディアシビルの武装警官隊がいつ襲ってくるか分からない。9時になって、少し離れたところの道路を10数台の国家警察の車両が走っていくのが見え、人々に緊張感が走ったが、それらはそのまま通り過ぎていった。たぶん他の投票場を襲撃する予定なのだろう。しかしここも次に来る部隊の標的になっているかもしれない。緊張が続く。
投票場が開かれる時間になってもなかなか投票が始まらない。実は、前日に中央政府の命令でグアルディアシビルが州政府のコンピューター・システムを強制的に停止させ、投票者の名簿が手に入らない状態になっているのである。しかしその魔手を逃れた他のシステムとデータベース、インターネット回線を使って、9時30分くらいに何とか投票が可能になった。まず車いすや杖をついてやってきた高齢者たちに優先的に入ってもらい、それから整然と投票が続けられた。投票を済ませた人々は高齢者と幼い子供を除いてほとんどがその場に残った。いつ襲ってくるかもしれない国家警察やグアルディアシビルから投票箱を守るためだ。
11時近くになっても武装警官隊は姿を現さなかった。私はもう一つの投票場に行ってみることにした。カタルーニャで最大の投票場となった工業学校である。ここでの投票者数はおそらく5万人を下らないだろう。十数個の投票箱を置いた机が用意されており、これらを没収されるわけにはいかない。おそらく五千人を超えると思われる人々が武装警官隊の襲撃に備えて周辺を固めていたが、ここもまた特別な困難の起こることなく夜8時の投票終了をむかえることができた。しかしカタルーニャ全体で約50か所、バルセロナとその周辺だけで30か所以上の投票場に国家警察とグアルディアシビルの武装部隊による激しい襲撃が起こっていたのである。(夜間に無人だった個所を含めると92か所が強制的に閉鎖された。)
もう、言葉が出ない。投票場に集まった人々はテロリストでもなければ何かの運動の活動家ですらない。大多数が老人、子供を含む大勢の一般の市民である。人々は投票箱と投票用紙を守るためにスクラムを組み、2~3の例を除いて暴力もふるっていない。次の写真を見てもらいたい。写真1、写真2、写真3、写真4、写真5、写真6、写真7、写真8、写真9、写真10、写真11、写真12、写真13、写真14は投票者を投票場から排除しようとする武装警官隊である。次に、写真15、写真16、写真17(この女性は掴まれて指を一本一本折られたうえに胸を触られた)、写真18、写真19、写真20(この男性はゴム弾で目を負傷した)、写真21、写真21、写真22、写真22、写真23を見れば分かる通り、武装警官隊は老人も女性も子供も、見境なく殴り蹴り引きずり押し倒し、大勢を傷つけた。
さらに、 カタルーニャ州ではゴム弾の使用が禁止されているにもかかわらず、国家警察は無防備な人々に至近距離からゴム弾を発射し多くの重軽傷者を作った(写真24、写真25、写真26)。またこちらとこちらの写真は投票場に押し入って投票箱を押収する国家警察の武装部隊である。こちらの写真は市民を守って武装警官隊とにらみ合うカタルーニャ州消防隊員たち。2日の州政府の発表によれば、この武装警官隊の暴力によって893人が重軽傷を負った。
次にビデオだが、これは既にYouTubeにアップされているものから選んだ。たとえばビデオ1(5分11秒)、ビデオ2(8分26秒)、ビデオ3(13分24秒)、ビデオ4(16分01秒)、ビデオ5(10分57秒)・・・。もう十分だろう。カタルーニャ中でここで見るような武装警官の蛮行が繰り広げられたのである。もちろんだが、無事に投票日を過ごすことができた投票場も多い。なお、ビデオ4には途中でCNNニュースの映像があり、英語でのアナウンスがあるので分かりやすいだろう。カタルーニャ州政府が昼過ぎに行った発表によると、この朝に警官隊による攻撃を受けなかった投票場にある投票机の数は、予定していた数の73%に当たる4561だった。これが正しければ、約4分の1の投票場が強制的に閉鎖させられたことになる。
票の集計は困難を極めた。州政府の住民投票用のデータベースとともに集計用の通信網が破壊され、警官隊による妨害を受けなかった場所でもお互いの連絡に非常に手間取っていたからである。翌朝の未明にようやく出てきた集計結果によれば、カタルーニャ州全体で2,262,424票であり、その約90%の2,020,144票が「独立賛成」だった。州政府によれば約77万票が国家警察とグアルディアシビルの襲撃のために失われたそうである。また州政府は全有権者数を5,343,358人と発表していたので、これらの数字が正しいのなら、投票率は42.34%となるはずだ。
ただし、これらの数字はどこまで信用して良いものか分からない。中央政府の妨害のために、正式な選挙管理委員会を置くことができず国家統計局のデータを基にした正確な有権者名簿を作ることができなかった。さらにインターネットによる通信網を妨害されたために集計や確認などの作業がどこまでできたのかわからない。実際に、発表された「賛成、反対、白票」の数字を足すと全人数を超えてしまう。おまけに、警察力によって投票を妨害された地区の人々のために、身分証明書を持っていけばどこででも投票できるようという措置をとったのだが、この措置を利用して複数の投票場で投票した人たちの存在が確認されている。どこまで「誤差」とできる範囲を広げるかにもよるだろうが、これらの数字は「仮のもの」と考えた方が良いだろう。
中央政府の首相マリアノ・ラホイは1日の夜の会見で、“住民投票を止めさせるために厳正な措置を取った”ことを語り、武装警官隊の暴力について“唯一の責任者は法を犯した者たちにある”と、違憲判決を受けながら投票を強行した州政府および独立主義者を非難した。同時に彼は国家警察とグアルディアシビルを“法の執行と自らの任務を果たした”と賞賛した。さらに、これはなぜかスペイン国内の大新聞の記事では見出しにならなかったのだが、“住民投票は存在しなかった”と断定したのである。確かに、正式な選挙管理委員会も正式な有権者名簿も無く(作らせず)、投票箱は透明な正式のものではなく(警察がほとんど取り上げた)、数字や投票者の確認ができず(インターネット回線を遮断した)、おまけに多数の投票場で投票できない(警察の暴力で不可能にした)状態が起こったわけだから、「(正式な意味での)住民投票は存在しなかった」ことになるだろう。しかしいずれにせよ、200万を超えるくらいの規模の投票が実際に行われたのである。
翌日のマドリード系の主要新聞にある一面大見出しは次のようなものである。El País「政府は不法な住民投票を実力で阻止」、El Mundo「プッチダモンは2,3日内に独立宣言をするだろう」、La Razón「クーデターに断固たる姿勢」、Abc「スペインを傷つける住民投票は失敗」。警官隊の暴力に対する言及は一語も無い。La Razón紙が言う「クーデター」という言葉は、カタルーニャの独立住民投票に対して、政府与党の国民党やしれを支持するシウダダノス、そして保守派の論客から社会労働党の一部の幹部に至るまで、常に使用する用語だ。
要するに、マドリッド政府に逆らう者は叩き潰すのが当然だ、という論調である。スペイン外相アルフォンソ・ダスティスは、バルセロナの現場に立った英国スカイニュースのレポーターが“このようなことは21世紀のEUでは受け入れられない”と詰め寄った際に、武装警察部隊の行動を“相応なことであり、暴力は全く無かった”、“君は人々が平和に投票の権利を行使していると思っているだろうが、問題は、いわゆる住民投票が憲法裁判所で違法と定めたものだということなのだ”と述べた。「憲法裁判所が違法と定めたことをやっている犯罪者」だから武装警官隊の行動は「暴力には当たらない」ということにでもなるのだろう。
いまのスカイニュースのリポーターは、20世紀の途中で消えて無くなったと思われていたフランコ独裁主義が生きていることを、目の当たりに見せつけられたのだろう。今後、彼の言うような「(スペインは)21世紀のEUでは受け入れられない」という世論が、この10月1日の出来事をきっかけに欧州の各国で盛り上げられていくかどうか、この点がポイントになりそうだ。カタルーニャ以外のスペイン国内でも、50年か60年前にいきなり引き戻されたような気持ちを抱いている人が意外に多いのではないか。
また、大勢の無実の市民が負傷したことについて、政府与党国民党の広報担当者フェルナンド・マルティネス・マイジョは次のように語った。“800人も負傷者が出たというのはすべて全面的にでっち上げであり嘘である。怪我をしたと言っている者たちは次の日に街を歩いている。入院しているのは4人だけだ。”先ほどの写真とビデオを確かめてほしい。国民党に言わせると、傷を縫い内出血の場所に湿布をして街を歩いていると「負傷者」ではないということらしい。逆にスペイン内務省は、国家警察とグアルディアシビルの隊員に431人の負傷者が出たと主張している。あれだけ武装していてそんな怪我をするほどスペインの武装警官は弱いのだろうか??
(この続きは、まとめ次第ご報告いたします。3日のゼネスト中にもまた大きなアクシデントが発生するかもしれません。スペイン全土からカタルーニャに集まって来ている武装警官たちと住民との間に、激しいにらみ合いが続いているからです。)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4210:171004〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。