護憲の中身を決めるときがきた
- 2017年 11月 21日
- 評論・紹介・意見
- 憲法改憲阿部治平
――八ヶ岳山麓から(241)――
2017年衆院選では、急ごしらえの立憲民主党が気を吐いたけれども、護憲・リベラルとでもいうべき「立憲民主党+共産党+社民党と市民連合」は3分の1に至らず惨敗となった。今後、安倍晋三氏率いる改憲・加憲派はいよいよ攻勢に出る。これに倣って産経・読売系メディアは、テレビ・新聞・インターネット上でいままで以上に強力なキャンペーンを打つことは確実だ。
9条改憲に反対する議論には、おおまかにつぎの四つの流れがあるとおもう。
①改憲せず、日米安保条約は将来破棄する。9条を文字通りに理解して、一切の「戦力の不保持」「交戦権の否認」をつらぬく。急迫不正の主権侵害にはもてる限りの手段をもって抵抗する。
②改憲せず、将来日米安保条約を破棄するのは①と同じ。ただし現行憲法の下でも個別的自衛権があるものとし、急迫不正の主権侵害には自衛隊をもって対抗する。
③日米安保体制を認め、防衛力増強もはかり、将来の改憲を視野に入れる。ただし、新安保法制下の(あるいは安倍政権下の)集団的自衛権・海外派兵を容認するような憲法9条の改定には反対する。
④改憲し、個別的自衛権・専守防衛に厳格に限定した自衛権を憲法に書き込む。すなわち②と同じ論理を改憲によって実現しようとするものだが、憲法9条改定に及ぶので、①②の護憲派にはなかなか受け入れられない。
以上四つの間にはさまざまなバリエーションがあるし、議論も錯綜している。
そこでさきにあげた3党について日米安保体制および自衛隊を含む防衛問題にたいする姿勢を見ると、次のようになる。
立憲民主党は、民進党綱領を引継いで「私たちは、専守防衛を前提に外交安全保障における現実主義を貫く。我が国周辺の安全保障環境を直視し、自衛力を着実に整備して国民の生命・財産、領土・領海・領空を守る。日米同盟を深化させ、アジアや太平洋地域との共生を実現する(立憲民主党綱領2017年10月2日)」という。同党は年内には新綱領をつくるらしいが、これと大きな違いが生まれるとは思えない。
というのは、憲法9条については党代表の枝野幸男氏は、10月9日のBuzzFeed NEWSのインタビュー記事で、「私は護憲派ではない」「いまの日本国憲法が持っている価値観を発展させるなら、改憲は大いにあり」と明言する。同時に「そのことといま憲法9条を変えるべきかどうかは、切り離して考えるべきだ」ともいっている。
結局、さきの衆院選での立憲民主党の公約は下記のようになった。
「専守防衛を逸脱し、立憲主義を破壊する、安保法制を前提とした憲法9条の改悪に反対。領海警備法の制定と憲法の枠内での周辺事態法強化で専守防衛を軸とする現実的な安全保障政策を推進する(10月7日、福山・長妻両氏による)」
立憲民主党は、冒頭の③の路線と見ることができよう。国会を中心にみるかぎり、立憲民主党が改憲反対運動を主導せざるを得ない。枝野幸男代表に揺らぐことなきを祈るのみ。
これと対照的なのは旧社会党である。①で述べたように旧社会党は憲法9条を文字通りに理解し、「非武装・中立」をとなえた。中立とは、米ソ冷戦時代は日米安保体制からの脱却を意味した。急迫不正の主権侵害に対しては、警察力やストライキでこれを排除し国民の安全を図るとした(それでもなおやられたら「降伏」という選択肢もあるといった社会党幹部もいた)。
当時は自衛隊は違憲という主張だったが、委員長村山富市氏が首班となった内閣では「合憲」とした。内閣としては、自衛隊を現下の防衛力とするかぎり、違憲とするわけにはいかないからだろう。
社民党に看板を変えても、政策の大筋は変らなかった。2006年の「社民党宣言」では、違憲状態にある自衛隊は縮小を図り、国境警備・災害救助・国際協力などの任務別組織に改編・解消して非武装の日本を目指す。また日米安全保障条約は、最終的に平和友好条約へと転換させ、在日米軍基地の整理・縮小・撤去を進めるとした。
共産党は1960年代後半から90年代前半くらいまでは、「中立・自衛」を提唱した。自衛とは他国からの侵略から国民の生命と生活を守るという意味である。だから共産党が目指す安保条約廃棄の民主連合政府は、国民の多数の意見の同意があれば自衛隊を解散し、その後改憲して自衛力を再建するとした。
ところが1994年党大会で「中立・自衛」の解釈を変え、社民党と同じく、憲法9条に「先駆的な意義」みとめ、軍隊をもたなくても主権は保てるといいだした。
さらに2015年9月新安保法制が国会を通過したとき、志位委員長は臨時的政府を提案して、日米安保条約は「凍結」、新安保法制は廃止、日本に対する急迫不正の主権侵害に対しては、自衛隊は新安保法以前の自衛隊法で行動すると発言した。当時の山下書記局長も、政党としては自衛隊違憲論は変えないが、反安保連合政府としては合憲という立場で臨むとした。
いまのところ、地方レベルの改憲反対運動の足になるのは共産党である。だが日本には共産主義に対するアレルギーがあるから、これが出過ぎたとき、支持者が減る危険がある。
憲法9条と自衛という二者対立的な論理を統一しようとすれば、社民党以外は複雑でわかりにくい政策にならざるを得ない。この点は、自民党だって同じことだ。敗戦直後の憲法制定議会では吉田茂氏は自衛権を否定したが、やがて警察予備隊をつくり、保安隊に至って「戦力なき軍隊」といい、自衛隊になってからは専守防衛・個別的自衛権を主張した。
安倍晋三政権に至って、「非戦闘地域」とか「駆けつけ警護」とか「後方支援」といった屁理屈をこね、ついには閣議による解釈改憲という奇手を使って自衛隊の海外派遣を正当化した。だがいま安倍晋三氏の願う国家実現のためには、現行憲法の解釈改憲ではもはや限界、改憲は必至という段階に至った。
ところで、従来の改憲反対論には国際的観点が少しばかり欠けていたように感じる。安倍内閣が掲げる新安保法制や集団的自衛権、さらには憲法9条改定などの震源地は間違いなくアメリカである。護憲派は将来アメリカとの関係をどうするか。これを議論しなければならない。
今次総選挙では、安倍政権は国際情勢を上手に利用した。トランプの北朝鮮に対する威嚇と悪罵に同調して対北朝鮮の日米軍事演習をやり、Jアラートを鳴らして作為的に緊張を煽り、北朝鮮の「挑発」と「国難」を宣伝した。
だが「北」が日韓に先制攻撃をかけたら「北」は壊滅する。このことは金正恩委員長は百も承知している。彼の気が触れでもしないかぎり、「北」には攻撃意思はないと見るのが自然である。当の韓国では人々が冷静だというのに、日本では安倍政権ばかりかメディアも、いまだ「挑発」を連発し危機を煽っている。だいたい日本海沿岸に原発をぞろぞろ並べておいて北朝鮮の脅威もないものだ。
中国の習近平政権は、今後もナショナリズムを煽りつつ、軍事力に経済力を加えて勢力を拡大し続ける。国内矛盾が高まれば当然のように尖閣問題も過熱させるだろう。タイミングよくこれがおきれば、安倍政権にとっては願ってもないことである。我々はこれも警戒しなければならない。
今日、改憲・加憲勢力の間に意見の相違がある如く、護憲・リベラルを掲げる人々にもそれぞれ異なった見解がある。なにがなんでも9条を守り戦力は保持しないとするか、自衛隊は合憲だが憲法にはその存在を書きこませないとするか、日米安保を認めるが、安倍政権のもとでは改憲には反対だとするか、それともアメリカから自立した専守防衛の自衛権を憲法に書き込めというか。
もし希望の党の改憲慎重・新安保法制反対の人々までも含めた野党共闘をはかろうとするなら、どのような意見をひっこめ、どこで妥協するか、互いに身を切る努力が必要である。
日本人は、現状が気に染まなくても仕方がないとあきらめがちだ。改憲に反対という人でもかなりが「自衛隊はなくては困るが、憲法9条の改定まではどうかとおもう」という漠然とした気分である。これは韓国の「ローソク革命」に現れた主権者意識とは著しく異なる。我々は運動の中で、この長いものには巻かれる気分をどうしても克服しなければならない。
これに成功するか否かで日本の歴史的方向が決まる。
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