しっかり眉に唾を付けよう。「アベ・9条改憲」案のたくらみに欺されてはならない。
- 2017年 12月 25日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
自民党に「憲法改正推進本部」という部門がある。ここが党としての改憲案を作ることになる。前任の本部長保岡興治が引退して、先月(2017年11月)に細田博之がそのトップとなった。細田は、安倍晋三が所属する党内最大派閥「清和政策研究会」(細田派)の領袖でもある。
12月20日、その憲法改正推進本部が全体会合でこれまでの検討結果をまとめて「憲法改正に関する論点取りまとめ」を発表した。お世辞にも充実しているとは言いがたい、憲法改正推進本部のホームページだが、ここでその全文が読める。
https://www.jimin.jp/news/policy/136448.html
もっとも、このPDFはコピぺができない。コピぺ可能な全文を、本日の当ブログの末尾にも貼り付けておく。批判のたたき台として、引用に活用していただきたい。
改憲論議は、当面この「論点整理」の文書をめぐって行われることになり、改憲反対派は当面この文書の批判に集中することになる。
さして長くないこの「論点取りまとめ」は、下記の改憲4項目を整理したもの。
(1)自衛隊について
(2)緊急事態について
(3)合区解消・地方公共団体について
(4)教育充実について
その内、(1)の自衛隊問題と、(2)の緊急事態対応については、各2案の併記となっており、「党内の意見集約が間に合わないとしてのこと」と報じられている。
最大の焦点が。「(1)自衛隊について」の「9条改憲」であることは論を待たない。この点の整理が、
①「戦争放棄を定めた9条1項、2項を維持した上で『自衛隊を憲法に明記するにとどめる』」とする案と、
②「9条2項を削除して『自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行う』」との案の
両論併記となった。
いうまでもなく、①は本年(2017年)5月3日唐突に出てきた安倍晋三案である。よく知られているとおり、これは右翼組織「日本会議」幹部案でもある。②は2012年4月の「自民党憲法改正草案」を基調とした従来タイプの改正案。
東京新聞は今後について、「推進本部は来年1月に全体会議を再開し、衆参両院の憲法審査会の議論が本格化するとみられる春までに、一本化を図る見通し」と記事にしている。
今回の両論併記は、誰が見ても暫定的なステップに過ぎない。全体会合では石破茂が「9条2項残置論」への反対意見を述べたことが報じられているが、早晩①案(「安倍9条改憲案」)でまとまることになる。
この両論を比較して、「②案の危険性は明らかだ。①案ならまだマシではないか」などと印象をもつ人が出てくれば、そこがアベの思う壺。目眩ましにはまることになる。悪得商法並みの姑息な手口に欺されてはならない。
安倍9条改憲案には、両面がある。
(a)「これ以上は望んでも現実的に無理」「やむをえず今はこの線で、我慢しよう」という側面と、
(b)「実は、これだけでも成功すれば相当なことになる」という側面。
安倍は、この両面を都合よく使い分けるだろう。
国民への説得は、もっぱら(a)面を使う。「この改憲によっては、自衛隊が日陰の存在から憲法に規定された日向に出て来るだけのこと。実質的に何も変わりませんよ。」と強調する。友党や、ふらふら中間政党の説得にも、同様だ。
しかし、自民党内に向けては、特に右派にはこう言う。「この改正が実現したら、9条の構造はがらりと変わる。既に、自衛隊は集団的自衛権行使まで容認された組織だ。それを憲法に書き込めば、9条2項は安保法制によって上書きされて死文化する」「個別的自衛権と集団的自衛権の両者を行使できる自衛隊が憲法上の根拠をもてば、まさしく一人前の軍隊となる」と解説することだろう。
さらに、右派の世論には、こう言うのだ。
「冷静に情勢を見つめれば憲法9条の抜本改正は直ぐには無理なのです。2項の削除提案は危険で得策ではありません。むしろここは『急がば回れ』で、2段階で行う確実な作戦をとるべきなのです。今回はその第1段階」
2017年9月2日の毎日新聞朝刊はこう言っている。
「自民・船田氏 『憲法9条2項 首相、次は削除』」という見出し。首相(アベ)は「次の段階で、9条2項削除を考えている」という記事。
「自民党の船田元衆院憲法審査会幹事(註 現本部長代行)は(9月)1日、宇都宮市で講演し、憲法9条改正を巡り、安倍晋三首相は2度の改正を経て、戦力不保持などを定めた2項を削る『2段階論』が念頭にあるとの見方を示した。
2項を含む現行の9条を維持し、自衛隊を明記する首相提案を実現した上で『次は2項をなくす2段階論を深めるのが首相の考えだ。われわれの考えにも近く、その方向で進めたい』と語った。」
何のことはない。アベ9条改憲案は、小さく産んで大きく育てる、その第一歩なのだ。この「安倍9条改憲」が実現すれば、さらに次は、「実体は何も変わりませんからご安心を」として、「自衛隊」を「国防軍」に変更するだろう。幾つかのステップを経て、憲法9条を虐殺し、名実ともに軍事大国化への憲法整備をしようというのが、アベの魂胆と見なければならない。
**************************************************************************
東京新聞が一昨日(12月22日)の社説で取り上げている。「自民論点整理 『改憲ありき』では困る」という見出しで、 説得力のある論説になっている。
「自民党憲法改正推進本部が提示した改憲四項目に関する論点整理は、改憲を前提としているが、それでいいのか。改憲しなければ本当に対応できないのか。根源的な議論に立ち返るべきである。
論点整理は同本部でのこれまでの検討結果をまとめたもので、10月の衆院選で政権公約の重点項目に掲げた、
▽自衛隊の明記
▽教育の無償化・充実強化
▽緊急事態対応
▽参院の合区解消
の四項目を取り上げている。
焦点の九条については、一、二項を維持したまま自衛隊の存在を明記する案と、戦力不保持と交戦権の否定を定めた二項を削除して「自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行う」案を併記した。前者は安倍晋三首相(党総裁)の意向に沿った案、後者は党が野党時代の2012年にまとめた改憲草案に近い内容である。」
「戦力不保持の二項を削除する九条改憲案に比べると、維持したまま自衛隊を明記する案は、より穏当に見えるかもしれない。それが首相の狙いなのだろう。
しかし、本当に九条改憲が必要な切迫した状況にあるのか。
歴代内閣は、専守防衛に徹する自衛隊は戦力には該当せず、九条の下でも合憲と位置付けてきた。憲法に自衛隊の存在を明記しないことが活動領域や予算の膨張を防ぐ歯止めとなったことも現実だ。
安倍内閣は「集団的自衛権の行使」を一転容認したが、このまま自衛隊を憲法に明記すれば、歴代内閣が違憲としてきた活動が許される存在として、自衛隊を追認することになってしまう。」
「憲法について議論するのなら、そもそも改正が必要なのかという問題意識を常に持つべきだろう。自民党が一方的につくる議論の土俵に、安易に乗ってはならない。」
また、12月23日赤旗「自民の改憲論点整理 断じて認められない」は、小池晃書記局長の会見での発言を紹介しているが、その記事の中で、「自民党の船田元・憲法改正推進本部長代行が『2回目には2項は削る』という9条の『2段階』改憲に言及していることにもふれ、『ねらいははっきりしている。頭隠して尻隠さずだ』と批判」している。
「アベ9条改憲論」は、いま市民と立憲野党とが作っている9条改憲阻止のスクラムを壊そうというたくらみである。現在の改憲阻止共闘スクラムの中から、「自衛隊存置肯定」派や、「このくらいの改正で済むならならやむを得ない」派、あわよくば「専守防衛」派などを、切り崩そうというもの。
この「改正」実現だけで影響は甚大であり、しかも、次のステップはなお大きな危険を抱えている。その意図を見抜いて、断固はね返さなければならない。「なにも現状を変えるものではない」というアベのウソに、けっして欺されてはならない。かけがえのない平和を守るために。
**************************************************************************
憲法改正に関する論点取りまとめ
平成29年12月20日
自民党憲法改正推進本部
1 これまでの議論の経過
(1) 自由民主党における憲法論議
日本国憲法は、本年5月3日に施行70周年を迎えた。この間、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義など憲法の基本原理は定着し、国民の福祉、国家の発展に大きな役割を果たしてきた。一方、70年の歴史の中でわが国内外の環境は大きく変化しており、憲法の規定の一部には今日の状況に対応するため改正すべき項目や追加すべき項目も考えられる。
自由民主党は結党以来、現行憲法の自主的改正を目指し、「憲法改正大綱草案」(昭和47年)、「日本国憲法総括中間報告」(昭和57年)、近年では「新憲法草案」(平成17年)、「日本国憲法改正草案」(平成24年)などの試案を世に問うてきた。これらは、党内の自由闊達な議論を集約したものである。
(2) 憲法改正推進本部における議論の状況
平成28年の初めから、憲法改正推進本部は具体的な改正項目を検討するため、総論的なテーマを掲げた有識者ヒアリング(平成28年2月~5月)、各論的なテーマを掲げた有識者ヒアリング(平成28年11月~29年6月)を行い、知見の集積及び整理を行ってきた。
こうした知見や議論を踏まえ、本年6月以降8回の推進本部会議において以下のテーマが優先的検討項目として議論された。わが国を取り巻く安全保障環境の緊迫化、阪神淡路大震災や東日本大震災などで経験した緊急事態への対応、過疎と過密による人口偏在がもたらす選挙制度の変容、家庭の経済事情のいかんに関わらずより高い教育を受けることのできる環境の整備の必要性など、わが国が直面する国内外の情勢等に鑑み、まさに今、国民に問うにふさわしいと判断されたテーマとして、
①安全保障に関わる「自衛隊」、
②統治機構のあり方に関する「緊急事態」、
③一票の較差と地域の民意反映が問われる「合区解消・地方公共団体」、
④国家百年の計たる「教育充実」の4項目である。
現段階における議論の状況と方向性は、以下の通りである。
2 各テーマにおける議論の状況と方向性
(1) 自衛隊について
自衛隊がわが国の平和と安全、国民の生命と財産を守る上で必要不可欠な存在であるとの見解に異論はなかった。
その上で、改正の方向性として以下の二通りが述べられた。
①「9条1項・2項を維持した上で、自衛隊を憲法に明記するにとどめるべき」との意見
②「9条2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行うべき」との意見
なお、①及び②に共通する問題意識として、「シビリアンコントロール」も憲法に明記すべきとの意見が述べられた。
(2) 緊急事態について
国民の生命と財産を守るため、何らかの緊急事態に関する条項を憲法上設けることについて、以下の二通りが述べられた。
①選挙ができない事態に備え、「国会議員の任期延長や選挙期日の特例等を憲法に規定すべき」との意見
②諸外国の憲法に見られるように、「政府への権限集中や私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定すべき」との意見
今後、現行憲法及び法律でどこまで対応できるのかという整理を行った上で、現行憲法体系で対応できない事項について憲法改正の是非を問うといった発想が必要と考えられる。
(3) 合区解消・地方公共団体について
両議院議員の選挙について、一票の較差(人口比例)への対応により行政区画と選挙区のずれが一層拡大し、地方であれ都市部であれ今後地域住民の声が適切に反映されなくなる懸念がある。このため47条を改正し、①両議院議員の選挙区及び定数配分は、人口を基本としながら、、行政区画、地勢等を総合勘案する、とりわけ、②政治的・社会的に重要な意義を持つ都道府県をまたがる合区を解消し、都道府県を基本とする選挙制度を維持するため、参議院議員選挙においては、半数改選ごとに各広域地方公共団体(都道府県)から少なくとも一人が選出可能となるように規定する方向でおおむね意見は一致している。同時に、その基盤となる基礎的地方公共団体(市町村)と広域地方公共団体(都道府県)を92条に明記する方向で検討している。
(4) 教育充実について
教育の重要性を理念として憲法上明らかにするため、26条3項を新設し、教育が国民一人一人にとっての幸福の追求や人格の形成を基礎づけ、国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑みて、国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する方向でおおむね意見は一致している。
89条は私学助成が禁止されていると読めることから、条文改正を行うべきとの意見も出されている。
3 憲法改正の発議に向けて
憲法改正は、国民の幅広い支持が必要であることに鑑み、4テーマを含め、各党各会派から具体的な意見・提案があれば真剣に検討するなど、建設的な議論を行っていきたい。 以 上
(2017年12月24日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.12.24より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=9659
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7219:171225〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。