APECでインド太平洋?
- 2018年 2月 3日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
昨年の11月10日、ベトナムのダナンでアジア太平洋経済協力―Asia-Pacific Economic Cooperation (APEC)の首脳会議が開催された。各国の新聞やテレビがトランプと習近平(シー・ジンピン)の発言を大きく取り上げていた。国際政治の駆け引きの場に国内事情がすけて見える。すけて見えるならまだしも、首脳を含めたその国民の知的レベルやその背景にある歴史的な無関心が露見することがある。
露見が無関心を超えて無知にまでいってしまうと、大手マスメディアは報道したいという気持ちがあっても、どうあつかったものかと躊躇するのかもしれない。気がついた限りでは、BBCとシンガポールのThe Straits Timesがトランプの知識レベル、ひいては知能を疑わせる発言を報道した。
BBCとStrait TimesのWebニュースのurlとトランプの「Indo-Pacific」という発言は下記のとおり。
<BBC>
『Apec summit: Trump and Xi offer competing visions for trade』
「He said America would make bilateral agreements with “any Indo-Pacific partner here who abides by fair reciprocal trade”,……」
http://www.bbc.com/news/world-asia-41937426
<Straits Times>
『US will no longer tolerate trade abuses: Donald Trump』
「Although he was addressing a meeting alongside the summit of Asia-Pacific leaders, Trump repeatedly referred to the Indo-Pacific region and mentioned the importance of India in his speech.」
Asia-Pacificの会議でIndo-PacificにIndia。なんか変だと思って、「Indo-Pacific」についてWebで見てみた。ウィキペディアは、Indo-Pacificを次のように説明している。
「インド太平洋(インドたいへいよう)とは、生物地理学上でインド洋から太平洋(特に西太平洋)にかけての暖流域を指す用語。英語”Indo-Pacific”の訳語で、原表現に合わせて「インド-太平洋」とハイフンを入れて記すこともある。海洋学や海洋生物学などの自然科学分野でしばしば用いられる」
「アフリカ東部沿岸およびマダガスカル付近から、二つの大洋の間にあるフィリピン、インドネシア周辺の海域を経て、オセアニアの東縁までの範囲で、太平洋の周辺部にあたる日本海などの極東の暖流域を含むこともある」
urlは下記のとおり。
https://en.wikipedia.org/wiki/Indo-Pacific
説明には、わかり易い地図までついている。それをみると、アフリカ大陸東岸から東太平洋の島々におよぶ広範な領域だが、日本や中国に韓国は含まれていない。台湾がかろうじて含まれるか含まれないかのボーダーラインに位置している。それにひきかえマダガスカルからサウジアラビアやイエメン、パキスタンとインドが含まれている。これらの国々はAPECの参加国でもないし、その可能性が将来的にあるとも思えない。
「Indo-Pacific」(インド-太平洋)と「India」(インド)の言及が、なんらかの政治的目的があってのことなのか、それとも単にトランプやアメリカ政府の無知と歴史的無関心が露見したものなのか、本当のところはわからない。
ただ今までのトランプの度重なる不見識な、しばし舌禍に近い発言から考えると、考えられることはいくつもない。可能性としては、トランプの無知が露見しただけで、中国をけん制するためにインドを持ち出そうとしてのことではないだろう。
それにしてもAPECの首脳会議で、Asia-Pacific Economic CooperationのAsia-PacificをIndo-Pacificと混同したと思われるであろう発言、アメリカ大統領とその閣僚連中の知的レベルが疑われる。二十一世紀にもなって、アメリカ大陸をインドと思い込んだコロンブスのころと似たような知識でアメリカファースト、日本の中学生のほうがよっぽどあてになる。
若いときに知り合ったアメリカ人のなかには、地図を開いて中国を指差して日本だといったのもいれば、フィリピンを指して日本だといったのもいた。広大な国土に豊かな自然、そこに生まれ、よそのことになんの興味も関心もなく、自分たちが一番だと思って育って、何を考えるわけでもなく人様に迷惑をかけていることに気がつかない。みんながみんなそうとは思わないが、限られた経験からは大勢はその程度の人たちとしか思えない。決して悪い人たちではない。いい人たちなのだが、付き合わないで済むなら付き合いたくない。どうしても付き合わなければならないなら、はなからその程度の人たちと割り切ってにしないと、ろくでもないことに巻き込まれる。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7321:180203〕
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