東京マラソン「東京がひとつになる日」―ならば路上生活者を排除しないでください
- 2018年 3月 6日
- 評論・紹介・意見
- ちきゅう座会員村尾知恵子
スタート地点、午前9時、気温6度。今年も約32万人の応募があり、抽選倍率12倍の難関を突破しないと走れない人気だという。走れる事を嬉しそうに語っている。やる気満々、それを応援する人々、ボランティア団体の人、主催者側のスタッフなどなど、都庁前広場は熱気を帯びた人々で埋め尽くされている。物品を並べる所もいっぱいだ。けれども私は寒い。心も寒い。
活気の溢れている広場からもうひとつ道を挟んだ所に仮設トイレがずらりと並んでいる。そこは路上生活者のダンボールハウスが並んでいたところだ。仮設トイレを並べる為に、そこのけそこのけと追い立てられていたのだ。ここだけではない。おにぎりパトロールの途中で新宿駅から中央公園、都庁周りの広範にわたり、2月になって以下のような警告メッセージが出されているのを見た。
「この物件の所有者は至急撤去してください。」
「22日までに撤去しない場合は不用なものとして処分します。」
マラソン大会が終了すれば戻れるが、「移らなきゃならないよ~」「面倒だよ~、これ全部まとめるからな」「腰が痛いし運ぶのも大変だよ・・・」と、65歳以上の方がほとんどだから無理もない。激しい怒りをぶつける人には会わなかった。「東京オリンピックがあるから」「あと1年くらいしかいられないかな」とも語っていた。
移動は初めてではないが、新しい場所では壊されたり、傷つけられたり、危険な状況にあうこともあった。仲間同士、これまでと一緒に隣り合わせに暮らすというわけにはいかない。小さなコミュニティも移動している間はなくなってしまう。
東京マラソンくらいはしてもいい、東京オリンピックはお断りしたいが。
とにかく路上で人が暮らしている事実を無視しないでもらいたい。排除するだけでなく東京都は顔を合わせてひとりひとりと話し合って欲しい。
数は相当減ってきているが、ここでも高齢化は深刻である。路上生活者は施しを求めているわけではない。これまでの様々な事情があってのことだ。個人の責任としたり、その家族や親せきにまで面倒みれないかと突っ込んでくるのは筋違いというものだ。日本の公的支援政策の不充分さを当事者から聴いて欲しい。行政と当事者との様々な関わりが選択肢を増やし自立してゆくきっかけとなる。これまでの活動からの答えだ。
以下は、3月4日の新宿連絡会「おにぎりパトロール」で手渡したチラシの写真と、本文の書き起こしである。
『いつもの春を』
季節は変われど、季節の変わり目は健康管理が意外と大変。
冬に疲れた身体をゆっくりと癒していこう。
仲間たち。
3月へとカレンダーをめくると、なんだか一気に春めいてきた。花粉も舞って、インフルエンザの次は花粉症と、同じマスクでも季節は変わる。しかし、これで油断をすると、季節の変わりは失敗する。今週は啓蟄ではあるが、週の半ばあたりに寒の戻りがあるようで、天気も崩れる予報である。晴れていれば暖かいが、さすがに雨が降ると冷え込みがきつくなる。ようやく三寒四温となったと考え、そんな感じでの生活を心がけたい。
花粉症は、最初に目や鼻に来ることが多いので、風邪、インフルエンザとの区別は案外とつく。こちらのほうもかなりの量の花粉が、気温が高くなったここ数日で舞ってしまったようなので、その体質の人は対処に苦慮しているところだと思う。しかしながら、空気清浄機が効いている部屋に1日篭っていることなど、この生活では尚更不可能だし、特効薬もないので、こちらはこちらで、このシーズンが過ぎるのを待つしかないのかも知れない。
その他、いろいろな病気が暖かくなると出てきたりもするので、季節の変わり目は健康管理はいつもよりも気をつかってもらいたいものである。お金がなくて保険証がない(あっても切れている)場合は、福祉事務所やら「とまりぎ」で相談をすれば、福祉の話であるとか、指定病院への通院であるとかの話になる。急病の場合はもちろん救急車を呼ぶなりの対応が必要である。年齢であるとか、病気の状態などにもよるが、必要な仲間には泊まる場所も提供してもらえる。病気の種類によるが、野宿しながら長期通院というのは、今はあまり薦められない。健康を守るためにも、生活の基盤をしっかりとした上でないと、治る病気も治らないからである。人、それぞれ生き方はあるが、病気の時はそれなりの対応を。自力では出来ない場合、支援策を活用してでもやっていかないと、寿命を縮める結果となる。
暖かくなったから仕事を探そうとする仲間も多いと思う。そんな仲間はこれからが意外とチャンスであったりもする。ご存知の通り、東京では仕事量が多い。現場労働やらサービス系など、俺らが出来るような仕事もかなりある。「働き方改革」と言いながら、日雇いは駄目、派遣は駄目と労働を差別するような風潮の今日ではあるが、俺らは決してそんなことは考えていない。日雇いだろうが、派遣であろうが、働ける時に働き、より稼ごうとするのが、ある意味普通であり、健全である。安定した仕事なんてものはもはやこの世にはないのであるからして、そんなものに期待しても時間の無駄遣いである。なかなか次の仕事が見つからず、お金や住所がなくなった場合でも、働き、稼ぎ、自分の「城」を確保する。そんな当たり前のことが可能な支援策は東京には多くある。野宿状態の仲間なら、自立支援センターがあるが、自立支援センターは支援が厚い分、常雇用(正社員)しか認めないので、自立支援センターはもう嫌、常用雇用はちと自信がないと云う仲間なら、新宿区が独自で実施している自立支援ホーム(馬場ハウスの半年版)と云うものもある。いろいろと相談をして、まずは仕事を探せる条件、普通の暮らしに戻れる条件とやらを作り出していこう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7415:180306〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。