子どもたちが「香害」で苦しんでいます(上) シリーズ「香害」第5回
- 2018年 3月 10日
- 評論・紹介・意見
- 岡田幹治香害
各地の学校で、少なくない児童・生徒が「香害」に苦しんでいます。
仲間の子どもたちや教師が放散する柔軟剤の成分や、塗り替えられたペンキから放散される成分で、「化学物質過敏症(MCS)」や「シックハウス症候群(SHS)」を発症したり、悪化させたりする子どもたちです(注1)。
中には、登校できず、自室に閉じこもりきりの小学校6年生、校舎に入ることができず、異常寒波が襲ったこの冬、校庭の片隅に机と椅子を持ち出して個別指導を受けた小学校2年生もいます。
幼い香害被害者たちの実態を上・下に分けて報告します。
注1 MCSは、(多くの人が何も感じないほど)微量の化学物質にさらされると、頭痛・思考力の低下・目のかすみ・息苦しさなどの症状が出る病気。重症になると日常生活も仕事も続けられなくなる。SHSは、建物内の空気汚染が原因でMCSと似た症状になる病気。その建物を離れると、症状は和らぐ。
◆柔軟剤のニオイが満ちた授業参観日
南関東のある市の市立小6年のAくん(12歳)は、化学物質に敏感で、幼稚園児のころ近所の医師にSHSの可能性があると言われたことがあります。
軽いMCSの症状がある父母が、無垢材と漆喰づくりの自宅を新築。Aくんは幼稚園年長組のころからそこで暮らしてきました。
異変が起きたのは小2のときです。給食当番が着る給食着のニオイが気になるようになり、給食着がくさくて給食が食べられないこともありました。給食着は当番の子が週末に持ち帰って洗濯し、翌週の当番に引継ぐのですが、香りが長続きする高残香型柔軟剤を使う家庭が少なくないのです。
校内には児童や教師の衣服から放散される柔軟剤などのニオイが漂い、Aくんはそれを吸い込み続けたとみられます。柔軟剤臭は衣服などに移りますから、帰宅後、すぐに着替えなければなりません。
症状は徐々に悪化し、小5になると、体がいつもだるく、朝、なかなか起きられないようになりました。帰宅すると、すぐに横たわってしまいます。
そんな体調で迎えた4月下旬の授業参観日。教室内は子どもたちと参観する父母たちでいっぱいになり、柔軟剤のニオイが立ち込めました。Aくんの母は活性炭マスクをして参加しましたが、頭がくらくらし、壁を支えにやっと立っているほどだったそうです。
Aくんの体調はさらに悪化し、その日を境に登校できなくなりました。
◆自室に閉じこもって1年4か月
教育委員会の勧めもあり、自宅から車で10分ほどの小規模校に転校。9月に通学を始めると、他の学年に柔軟剤臭の強い子がおり、近づくと反応が起きます。夏休み中に校内でワックスがけが行われたことも影響しました。
校庭の片隅に机と椅子を出し、アシスタントティーチャーから個別指導を受けるようになったのですが、近くの農家がゴミなどを焼く煙が流れてきて、反応します。学習の場を図書室に移して間もなく、Aくんは突然、手足がマヒして動けなくなり、父が迎えに行く騒ぎになりました。以来、登校していません。
Aくんは嗅覚過敏が進み、ほとんどのものに反応するようになりました。自宅の周辺は柔軟剤などのニオイが漂っているので、外出もできない。反応の出ないパジャマを着て自室に閉じこもり、パソコンに向き合う日々がもう1年4か月も続いています(注2)。
注2 両親はAくんを東京の専門クリニックまで安全に連れていく自信がなく、まだ確定診断は受けていない。
◆校内のペンキ塗り替え後に発症
暑い夏も寒い冬も、校庭の片隅で個別指導を受けているのが、大阪府堺市の市立小2年のBくん(8歳)です。
Bくんは4歳のとき、母の実家で衣料用防虫剤がタンスにたっぷり置かれた部屋で寝た翌朝、まぶたが腫れあがり、全身に蕁麻疹(じんましん)が出て救急病院で手当てを受けたことがあり、やがてMCSになりました。
母が入学前にMCS児のための特別支援学級(病弱・身体虚弱教室)を設置してほしいと要請したところ「診断書が必要」と言われ、あちこち探した結果、ようやく入学式当日に高知市の病院の予約が取れました。母と子は入学式を欠席し、決死の覚悟で高知市へ飛び、診断書を書いてもらって提出しましたが、要請は聞き入れられませんでした。
洗剤・柔軟剤などのニオイに悩まされながら、普通学級で学んでいたBくんは、1年の3学期(昨年1月)に授業で紙粘土(樹脂粘土)を使った影響で、40度もの熱を出し、しばらく微熱が続きました。
春休み中に回復して4月に登校したとたん、春休み中に塗り替えられたペンキに反応して発熱や体調不良が続くようになりました。京都市のクリニックでSHSと診断され、「入ることのできる教室での個別指導、一時的な転校などの配慮も必要と考える」との診断書を提出しました。
◆校庭の片隅で個別指導
そこで始まったのが、校庭の片隅での個別指導です。普段はスクールサポーターが指導し、先生は時間の空いたときに見てくれるだけ。担任の先生に1週間も会わないこともありました。テント張りは禁じられており、降雨や強風のときは休まざるをえません(注3)。
注3 母は(Bくんが通学する)指定校の変更を考え、8~12月に3校を見学したが、それぞれ難点があったうえ、市の教育委員会から「指定校を変更するなら、一切のサポートを受けない一般児童として教室に入ること」などの条件をつけられ、あきらめた。
昨年12月でサポーターは打ち切りになり、今年1月からは特別支援学級の介護補助員と手の空いている教師(担任、支援学級などの教師、教頭・校長など)が指導する体制になっています。
寒い冬の間、Bくんは、綿のトレーナーにセーターやダウンコートを重ね着し、マフラー・手袋・ひざ掛け・使い捨てカイロを身につけて個別指導を受けています。
◆教育現場の配慮は不十分
Bくんを診察したのは、国立病院機構高知病院で2005年からMCS患者の診察を続ける小倉英郎医師です。定年退職し、現在は非常勤の小倉医師は、こう話しています――。
統計は取っていないが、MCSを発症する子どもたちが徐々に増えている印象がある。保育園や学校に通うようになり、合成洗剤や柔軟剤を使う家庭の子どもたちと接触したことがきっかけになる場合が多い。高知県では、MCSの児童は専用の特別支援学級に入って担任から個別指導を受けている。しかし、こうした配慮をしている地域は非常に少ないと聞いている。
◆岡田の3月の講演予定
▽生活のなかの化学物質
第1部 広がる「香害」 岡田幹治
第2部 化学物質過敏とつきあう 宮田幹夫
3月18日(日)午後1時30分~4時20分
ウィルあいち(愛知県女性総合センター)大会議室(名古屋市)
問い合わせ:化学物質過敏症あいちReの会(fax 052-938-3557)
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