安倍首相を不作為罪で告発できないか ― 佐川証言で安心させてはいけない
- 2018年 4月 5日
- 時代をみる
- 安倍森友田畑光永
森友問題は先月27日の佐川前国税庁長官に対する証人喚問でなぜかヤマを越えたムードになってきた。
丸川自民党議員「総理からの指示はありませんでしたね」
佐川証人「ございませんでした」
こんな質問と答えで、総理の「潔白」が証明されたかのように自民党は振るまい、野党側は攻め手を失ってしまった。総理夫人を証人として呼ぶべし、という声も聞こえるが、実現させる手立ても別にないようである。
財務省における決裁文書の改ざんは役人のモラルとして由々しき事件ではあるが、これは不正が行われた後の本省と出先の間の証拠隠滅行為であって、それに安倍首相や麻生財務相を結び付けようとしても無理である。彼らがそんなことに関わっているはずはないからである。
だからその点に関しては、彼らは胸を張って「無関係」を主張し、それが事件全体の幕引きムードにつながっているのではないか。しかし、それでは困る。モリ・カケは田中元首相のロッキード事件よりはるかに悪質な「首相の犯罪」であり、文書改ざんはその余震にすぎないからである。
安倍首相は昨年2月の国会答弁で「私や妻がこの事件に関係していたら、首相どころか国会議員も辞めますよ」と大見えを切った。そこまで言うところをみると、直接、「森友をたのむ」とか「加計をよろしく」とは周りの役人たちに言っていないかもしれない。
しかし、そこが安倍首相の悪質なところなのである。彼は加計学園の理事長や籠池夫妻との関係を隠そうとはしていなかった。隠すどころか、むしろ親密さを誇示していた(「腹心の友」発言や夫人の名誉校長就任容認)。また彼らが行政の力を利用して、それぞれの目的を達成しようとしていることにブレーキをかけることもなかったはずだ。
これは安倍首相にとって理想的な状況である。何も言わなくても、周りの役人たちはみな事情が分かっている。前川前文科事務次官に役人の首相補佐官が「総理が言えないから私が言うのだ」と加計問題の処理を早めるよう迫るといったことが、「総理の知らないところで」発生するのである。
ただ口に出さないですむということは具合のよいことばかりではない。今度の財務省の文書改ざんはその1つの表れであろう。本省(佐川理財局長・当時)は近畿財務局も事情は承知のはずと思っていた。しかし、改ざんされた決裁文書を見ると、出先の近畿財務局は籠池の図々しい要求を唯々諾々と受け入れていいものか否か、おそらく危惧があったのであろう。だから口をはさんできた政治家や安倍夫人の名前を書類に残して「政治マターとして扱っていますよ」と本省向けに自分たちのアリバイを残したのであろう。
また土地の値引き交渉にしても、交渉の直接当事者としては、はっきり命令されたわけでなく、それこそ忖度で処理したことを後で責任を追及されてはたまったものではないから記録に残した。
しかし、それらは本省の佐川氏にとっては、まったく言わずもがな。「なぜこんなことをいちいち書くんだ」と怒り心頭ものの文書が続々書かれたのであろう。その行き違いが自殺者を生んだ悲劇の原因ではなかったのだろうか。
そこで本題――
刑法には「不作為の罪」というのがある。なにかをしないことが悪い結果を生むことを知りながらその行為をしなかった場合に適用される。保護責任者遺棄致死罪とか不退去罪、あるいは多衆不解散罪などというのもある。
私は法律の素人だからとんだ見当違いかもしれず、その時は恥じ入るばかりだが、不作為を罪に問えるなら、安倍首相は絶対にクロである。何をしなかったか?加計にしろ、森友にしろ、自分の親しい友人が行政の審査を受けたり、行政の手を借りようとした場合、たんに「よろしく頼む」と言わなければいいのではなく、自分から関係省庁に「ゆめ手心を加えるな。厳正公平に処理せよ」と言うべきなのに、それをしなかったことである。
「私が関係していたら、首相どころか国会議員も辞めますよ」という言葉が本心なら、行政機構のトップに立つ首相がその影響力を自分の知り合いの便宜を図ることにつかってはいけないと、安倍首相もよくわかっているはずである。それなら、関係省庁にその存在が知られているような人間の場合、自分から言いいさえしなければ、黙っていていいというわけにはいかない。行政をねじ曲げてはいけないなら、それを自ら念押しすべきである。特に内閣人事室によって高級官僚の生殺与奪の権を握っている人間が、黙っていることは「便宜を図れ」と言っているのに等しい。
文書改ざん問題は検察の捜査が進んでいるそうだから、いずれは結論が出るだろう。しかし、どのような結論が出るにしても大きな期待は持てない。むしろ、安倍、麻生といった政治家を免罪することになりかねない。
モリ・カケの張本人が誰かはそれこそ天下周知のことなのに、そこへ手が伸びないというのはなんとももどかしい。不作為の罪、ではだめだろうか。
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