放射能生体蓄積量のまやかし/再録 原発解体
- 2011年 4月 5日
- 時代をみる
- 近藤邦明
(2011/04/04)
放射能生体蓄積量のまやかし
さて、TVや新聞報道でもこのところさすがに内部被曝の問題が紹介されるようになりました。しかし、ここでまたしてもとんでもない説明が横行しています。
最近の報道でよく聞くようになったのが放射性物質の半減期あるいは生物学的半減期です。これについては既にNo.547『外部被曝と内部被曝』で説明したとおりです。今回の説明で必要な部分を再掲しておくことにします。
半減期
放射性物質の半減期とは、放射性物質が原子核崩壊を起こし、その量が半分になるまでの時間のことである。放射性ヨウ素Ⅰ131の場合についてその減少の様子を次の図に示す。放射性ヨウ素Ⅰ131の半減期は約8日であるから、8日後には1/2になり、16日後には(1/2)2になり、24日後には(1/2)3・・・・と減少していくことになる。
生物学的半減期
生物体を構成する物質はある期間で代謝する。生物体を構成する物質の半分が入れ替わる期間を生物学的半減期と言う。体組織の部位や物質の種類によって生物学的半減期は一定ではない。
実効半減期
放射性物質の半減期と生物学的半減期の双方の効果から、体内に一度に取り入れられた(追加の定常的な摂取が無いとした場合)放射性物質の残留量が半分になる期間を実効半減期と呼ぶ。
No.550『ヨウ素131は無害か』で触れたとおり、この半減期という数値は、ある瞬間に一定量の放射性物質を生体が取り入れ、それ以後は一切放射性物質を取り込まなかった場合に、体内に存在する放射性物質がどれだけ減るかを示しています。
しかし、現在問題となっているのは生活環境に放射性物質が拡散して、汚染された生活環境で暮らす人が環境から定常的、連続的に放射性物質を取り込む場合において、生体内にどれほどの放射性物質が存在するのかという問題なのです。
これは、ちょうどこのホームページで長らく取り扱ってきている大気中のCO2濃度の決定方法と同じ構造を持つ問題です。
上の図を生体が取り込む放射性物質量の時間変化を示すグラフだと読み替えてください。ある短い時間dtの間に環境から体内に取り入れられる放射性物質の量はq(t)×dt(上の図の斜線の面積)になります。もし、それ以後放射性物質を取り込まないとすれば、下の図のように体内に残留する放射性物質の量は減衰していきます。
ところが、既に放射性物質が生活環境に拡散している場合には、生体は環境から継続的に放射性物質を取り込み続けることになります。ここでは問題を単純化するために、生体が環境から単位時間当たり(ここでは仮に1日当たりとしましょう。)取り入れる放射性物質の量q(t)=q(一定)とし、減衰の特性を表す数値kも変化しないものとすると、生体内に存在する放射性物質量はある定常値Qに収束します。その値は次の通りです。
Q=-q/k
kは、放射性物質の減衰の特性を表す数値です。
q・dt・ek(t1-t)=0.5q・dt ∴ek(t1-t)=0.5
上式を満足する時間(t1-t)が半減期になります。放射性ヨウ素131について考えることにしましょう。
ヨウ素131の実効半減期は7.7日でした。これからkの値を求めてみます。
e7.7k=0.5 ∴7.7k=ln(0.5) , k=-0.09
(ln は自然対数, lnA=logeA)
になります。したがって生体内に蓄積し続ける放射性ヨウ素131の量は、
Q=-q/k=-q/(-0.09)=11.1q
つまり、生体内には生体が一日に取り込むヨウ素131の量qの11日分が定常的に存在し続けることになるのです。
生活環境が既に放射性物質に汚染されている場合、生体はどのように注意しても必ず少量の放射性物質を取り込み続けることになります。
例に挙げたヨウ素131の場合には、環境中のヨウ素131の量が半減期8日で減衰していきますから、qの値が急速に小さくなっていくことになります。ところが、セシウム137の半減期は30年になりますから、環境から取り込まれる放射性物質の量qは短期的にはほとんど変化しないと考えて差し支えありません。セシウム137について計算すると
e70k=0.5 ∴70k=ln(0.5) , k=-0.0099 , Q=101q
つまり、環境から1日に取り込むセシウム137の量の101日分が体内に存在し続けることになるのです。
これを考えると、現在行われている環境の放射線レベルを計測して『安全だ』などというのではなく、生活環境の土壌がどの程度放射能によって汚染されているのかを調査する必要があるのです。
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(2011/04/03)
日本が原子力発電に着手して以来、廃炉・解体工事が完了した商業発電用の原子炉はまだありません。ただ1件廃炉実験が完了したのは日本原子力研究所(原研)東海研究所の動力試験炉(JPDR)だけです。
その後、日本国内最初の商業発電用原子炉の廃炉・解体工事として2001年12月に着手されたのが現在進行中の日本原電の東海発電所(炭酸ガス冷却型/電気出力16.6万キロワット)の原子炉です。これは日本の商業発電用原子炉としてはごく小型です。この原子炉の解体工事が開始されたときに書いたNo.026『商用原子炉の廃炉』(2001/12/04)を再録しておきます。
国内商用原子炉第一号である、日本原電の東海発電所(炭酸ガス冷却型/電気出力16.6万キロワット)の解体作業がこの12月から始まります。
この原子炉は1966年7月に操業を開始し、1998年3月に既に運転を停止しています。32年間の寿命でした(稼働率を考えると、正味の操業期間はどの程度なのでしょうか・・・?)。これから始まる解体作業は、原電の工程表によりますと終了するのは2017年、実にまる15年後になります。
このような長期間を要するのは、いかに原発が扱いづらい発電システムであるかを象徴しています。それどころか、放射性廃棄物の最終的な処分技術さえ未だに確立していない今日、この原電の工程がそのまま実行できるとは考えられず、実際にはより長期間を要すると考えるべきでしょう。
廃炉の解体処理実験は日本原子力研究所(原研)東海研究所の動力試験炉(JPDR)で行われています。1981年から解体に着手し、実際の解体は86年から開始され、96年に終了しています。しかし、解体作業が終了しても、それで全てが終わるわけではありません。原研では放射性廃棄物のうち、極低レベルのものは敷地内に埋設し、50年間程度管理する実験を行っています。その他の放射性廃棄物は処分方法が決まらないまま、施設内に保管されています。そのほかにも莫大な『非』放射性廃棄物が残されることになります。このJPDRでは、24,440トンの固体廃棄物が発生し、解体費用だけで230億円を要しました。放射性廃棄物の管理費を加えると途方もない処理費が発生することになります。
今回の東海発電所の原子炉は、商用の原子力発電所としては極小規模なものですが、それでも177,300トンの固体廃棄物が発生すると見込まれています。最終的な安全な処理方法の確立のみならず、処理費の経済的な負担を一体どうするのかも、大きな問題です。
明らかなことは、原発の発電コストは極めて高価なものであること、放射性廃物による環境汚染が避けられないということであり、私たちは、将来世代のために少しでも早く原子力エネルギーから脱却すべきであるということです。
<東海発電所 廃止措置計画の概要>
1. 廃止措置の全体計画
(1)計画の概要
・ 東海発電所の原子炉、附属設備及び建屋を解体撤去し、更地の状態に復することを基本とする。
・ 原子炉領域については、約10年間の安全貯蔵の後、解体撤去する。
・ 原子炉領域以外の附属設備等は、安全貯蔵期間開始時点から順次解体撤去する。
・ 廃止措置は、長期(約17年間)に亘る計画であるため、工程を(2)の通り分割し進めていく。
(2)工 程
第1期工事 平成13年度~17年度(約5年間)
:準備工事、使用済燃料冷却池洗浄・排水、燃料取替機・タービン他附属設備撤去 等
第2期工事 平成18年度~22年度(約5年間)
:熱交換器他附属設備解体 等
第3期工事 平成23年度~29年度(約7年間)
:原子炉本体解体、各建屋解体 等
(3)着手予定時期
平成13年12月4日
(4)放射性廃棄物の処理処分方法
・ 解体で発生する放射性廃棄物は性状に応じて減容、固化等の処理後、容器に封入し、最終的には埋設処分する。
・ 埋設処分先は第3期工事(原子炉本体等解体工事)前までに確定することとし、確定できない場合は、安全貯蔵期間を延長する。
・ 第1期及び第2期工事で発生する放射性廃棄物は少量であり、既設の貯蔵設備で第3期工事を開始するまで一時保管を行う。
2.第1期工事の計画
・安全貯蔵措置
主ガス弁等の閉止などの系統隔離により原子炉領域の安全貯蔵措置を行い、期間中は安全貯蔵領域の解体は行わない。
・解体準備工事
解体工事に必要な電源設備改造などの整備工事を実施する。
・使用済燃料冷却池洗浄・排水工事
使用済燃料冷却池内の水中機器を洗浄し撤去した後、冷却池壁面を洗浄しつつ排水する。
・附属設備撤去工事
燃料取替機・タービン他附属設備撤去などを実施する。
・放射性廃棄物の処理
第1期工事で発生する放射性廃棄物は僅かであり、容器に収納し既設の貯蔵設備に保管する。
3.廃止措置に要する費用
・見積り総額は、約930億円。
以上
このように正常に運転を終了して原子炉を廃止する場合でも、解体工事を行うだけで15年間もの期間が必要になるのです。解体工事中の日本原電東海発電所の原子炉は僅か出力16.6万kWの小型原子炉ですが、それでも解体工事費用は計画段階で930億円、固体廃棄物の量は177,300tにも及びます。
しかも、今もなお放射性廃棄物の最終処分方法は決まっておらず、最終処分施設の建設、そして長期間に及ぶ(高レベル放射性廃棄物では1000年以上)管理に対して今後一体どのくらいの費用が必要なのか、まったく見当もつかないのです。
福島第一原発は、1号機の出力46万kW、2~4号機の出力は78.4万kWであり、通常の廃炉・解体作業であったとしても、一基当たり数千億円の解体費用が必要であり、全部で数兆円が必要になるでしょう。固体廃棄物の量は数100万トンにも及ぶことになります。
重大な事故を起こした福島第一原発の場合は更に難しい作業になることが明らかです。仮に幸運にもこのまま炉心の冷却に成功したとしても、スリーマイル島原発では原子炉の中を確認できるまでに6年程度の期間が必要であったことを考えれば、福島第一原発でも同等以上の期間が必要になるでしょう。しかも固体廃棄物は炉心の破損によって通常では考えられない高レベルの放射能に汚染されています。
放射能汚染レベルを考えれば10年オーダーの冷却期間をおいたとしても、作業員によって通常の解体作業が行える可能性はかなり低いのではないでしょうか。結局通常の解体作業は行われず、チェルノブイリ原発同様、冷却しながら周囲を『石棺』で覆い、数十世代(?)にわたって管理し続けることになる可能性が高いと考えます。その費用は想像もつかない額に膨れ上がることになります。
もし途中で管理を放棄すれば高濃度の放射性物質を環境中に漏洩することになるのです。チェルノブイリ原発では現在も汚染された石棺を維持するためだけに数1000人が被曝労働を続けています。石棺が建設されて25年が経過し、既に劣化が激しく更に石棺の外側を覆う工事が必要となっています。おそらく福島第一原発も同じような経過を辿る可能性が高いと考えられます。何と憂鬱な負の遺産なのでしょうか。
『環境問題』を考える http://env01.cool.ne.jp/index02.htm より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1313:110405〕
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