「4.20 あたりまえの社会を考えるシンポジウム―貧困格差の現場から―」に参加して
- 2018年 4月 26日
- 評論・紹介・意見
- ちきゅう座会員石川愛子
ちきゅう座の催し物欄でも案内したが、このシンポジウムは、去る4月20日(金)北とぴあさくらホールで6時半から1000名の参加で行われた。安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合が主催し、総がかり行動実行委が協賛している。
初めて知るような現実、あまりに悲惨で重い、まとめきれないと思ったが、だからこそ伝えなくてはと、遅くなってしまったけれど、ユーチューブを見直しながら綴ってみた。
元SEALDsの諏訪原健さんが司会で、山口二郎さん(法政大教授)の挨拶ではじまった。
「日本社会のすさんだ状況を直視して、そこからどう希望を取り戻すか、考える時間としたい」
コーディネーターの本田由紀さん(東京大学教授)は、♯MeTooを表現し黒い上着で登壇された。
「今の政治状況は末期症状である。政治が壊れて社会が壊れている。政治の無為無策の罪が大きいこんな時だからこそ私たちが未来の見取り図をもっておく必要がある。戦後の日本社会、90年代の前と後でガラッと変わった。人々の生活を成り立たせる仕事、家庭、教育」と三角の図を示しながら、二重のセーフティネットを提言された。
シンポジストの前川喜平さん(元文部科学省事務次官)は、
「現役時代、自分は憲法26条に基づき、経済的理由による学習機会の差をなくす方向を目ざしてきた。大学進学率は、いまや80%になっているが、児童養護施設出身者は2割台、生活保護家庭は3割台と経済格差は歴然としている。公財政支出が必要。給食費や社会科見学費用などの就学支援をする就学援助制度というのがありますが、これが課題。これまでは国が財政援助していたのですが、三位一体改革で地方で負担ということになります。財源のある自治体ほど就学援助を必要とする人は少なく、財源のない自治体ほど就学援助を必要とする人は多いわけですから、すべてを地方にというのでなく、社会全体で支えるという制度が必要です。イージスアショア一機分のお金あれば何とでもなるんですけどね。教育扶養控除も高額所得者ほど恩恵が大きく、教育贈与非課税制度も金持ち優遇でおかしい。」と。
つづいて、赤石千衣子さん(しんぐるまざあずふぉーらむ理事長)のお話。
「高校入学時に制服や教科書など20万円かかります。私どもの会は入学お祝い事業もやっていますが、申し込み多数で決めるのに心痛めています。困っている人があまりに多い。QECDの調査で、ひとり親家庭の貧困率は北欧の10%に対して日本は54%、何と先進諸国で最低となっている。日本よりGTPの低い国々だってこれほどひどくない。母子家庭の81・8%は就業し、就業率はかなり高い。ですが平均年収200万円、これで2,3人の子を抱えてやっている。30代女性は、非正規雇用になるしかない。日本では、昔からの女性は家庭でという制度が貫かれていて、これだけ女性が働く時代、労働者不足と言われる時代になり、ダブルワーク・トリプルワークをしても貧しい。所得が、200万円から400万円になる非正規から正社員になるルートがないんです。男女が同じように働ける社会を!」
雨宮処凛さん(活動家・作家)はコーディネーターの本田さんと対談の形で問題提起された。
「75年生まれの私の世代は就職氷河期で、『生きさせろ』を書いたのですが、その後、友人のY君がフリーターから就職するときには、〈ボーナスでない、残業代は出ない、労働組合に入らない〉これで良ければ雇うと言われた。まさに、最低賃金を下回る正社員。周りにも自殺者が多。その世代がアラフオー(35から44歳)になって中年化するにつれて雇用破壊が起きてます。アラフオーの非正規雇用、男性9・数%、女性52%です。平均年収172万円。自分も単身で中年でフリ-ランスですが、賃貸物件を借りようと思ったら、父親は65歳過ぎて保証人になれない、番ってないと社会的信用0なんですね。結局保証会社に毎月7000円払って保障してもらって借りています。貧困な人ほど生きるコストが高くなるんですね。最低賃金が、1500円になったら何がしたいと若者に聞いたとき、趣味や旅行と返ってくると思ったが、病院に行きたいというんです。健康保険証も持ってなくて、友人のを使いまわしているんです。」
つづいて、山崎一洋さん(下野新聞真岡総局長)最近『貧困の中の子ども』という本を出されている。これは、下野新聞に連載されたもので、「希望って何?」というテーマで、子どもの未来を考えたいと手さぐりでとりくんだものだそうだ。
「一般の高校進学率は98%ですが、生活保護家庭は84%です。子どもの貧困は見えにくいと言われるが、確かによく見ようとしないとわからない。困窮家庭は、母親が昼も夜も働いている。日本ではそれも自己責任と言われる。ですが、イギリスに行ってみて、貧困は親が悪いからというなら、貧困率の少ない北欧よりイギリスの親が悪いということになってしまう。そんなことはない。だから支援の制度を作っている。それを見て、やりようだと思いました。」
こんなふうに壊れてしまった社会に、本田さんは言います。
「もがきながら手を伸ばして人に、それは自業自得、能力がないなら仕方ないね、そういう思考の癖が出来てはいませんか。『火垂の墓』の死んでいく兄弟に、同情もなくなっている社会になっていると思います。仕事にも教育にも、セーフティネットにも問題だらけです。この社会に生きている全員が自分のこととして考えていかなければならない。貧困の問題に取り組まない社会に未来はない。多くの方が四方八方からとりくんでいただきたい、そして政策にしろ、制度にしろと突き上げていただきたい。」
最後に、総がかり行動実行委の小田川義和さんが挨拶された。
「日本という社会の底が抜けたように貧困が広がっている。それだけに富の配分を重視する政治への転換が急がれている。OACDの所得統計によると2000年を100とすると2015年には84となり16ポイントも下がっている。所得の少ない方の10%の年間所得は、1996年の162万円から2014年134万円と28万円も下がっている。2012年からの5年間で、貯蓄0世帯は466万世帯増加し、1億円以上の世帯は30万世帯も増加している。貧富の差が増大している。安倍首相はくらしの悪化は年金生活者が増えたからと国会で説明していたが、述べていない所に問題が隠されている。安倍政治が腐敗の元凶、政治と行政が腐り始めている。安倍政治を終わらせよう!」と結んだ。
参照 「ユーチューブ 4・20 あたりまえの社会を考えるシンポジウム」
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7588:180426〕
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