No Pasaran(ノー・パサラン)! 奴らを通すな!
- 2018年 5月 10日
- 評論・紹介・意見
- 北朝鮮小原 紘平壌宣言韓国
韓国通信NO556
スペイン内戦(1936年7月~39年3月)でフランコ軍と戦った人民戦線政府のスローガンNo Pasaran。 40年くらい前、この言葉を口にした記憶がある。チリのアジェンデ政権をクーデターで倒したピノチエット政権に危機感を募らせた時だったような気がする。
5月3日、我孫子の駅前で「アベ政治を許さない」のプラカードを掲げていたら、多くの人から前文部次官前川喜平さんの講演会場の場所を尋ねられた。前川さん本人もプラカードに気づいて会釈をして通りすぎて行った。
「前川さん、講演料はとらないそうですよ。立派ですねェ」と、一緒にプラカードを掲げた相棒が言うので、「僕たちだって金を貰わずにこうして立っているのだから、別に偉いとは思わないけど」と冷たく突き放した。講演が始まる直前に会場にでかけ、入場を申し込んだが「定員オーバー」と断られた。仕方なく駅前に戻り、相棒と「いくら講演を聴いても、行動がともなわなければダメだ」などとグチをこぼしあった。この日は憲法記念日なので特別に2時間、終わってから近くのスポーツクラブに立ち寄った。
「大型連休なのにスポーツクラブしか来るところはないのか」と顔見知りを冷やかしたら、「お互いさま」と言われてしまった。参加した「ZUMBA(ズンバ)」はラテン音楽中心の自由ダンスで、インストラクターを見ながら腰を動かしたり、絶叫したり。50分で12曲ぐらい、水分を補給する時間以外は踊りっぱなしなので汗も結構出るし、ストレス解消になる。週に2回、始めてからもう8年になる。踊った曲に「No Pasaran 」があった。自由を求める民衆の歌だ。インストラクターがせめて「ファシズムはダメ。自由がいい」くらいの説明をしてくれたら最高の憲法記念日になったはずだ。
<「理想主義」を笑うな>
駅前でプラカードを掲げていると、そこにある銅板レリーフの白樺派の文人たちに励まされている気持ちになる。「理想主義」「人道主義」は私のような貧乏人には、青春のある時期を除いて無縁であり続けた。我孫子に住むようになって彼らの存在が気になり始め、小説を読み直したり、柳宗悦の民藝運動にも関心を持つようになった。
なかでも小林多喜二と志賀直哉の交流、「種まく人」のプロレタリアート作家金子洋文と武者小路実篤の交流から白樺派の「理想主義」「人道主義」がプロレタリア作家にとても近い存在だったことに気づいた。彼らが生きていたら、「どぶ」のように汚れ、放射能に汚染された手賀沼を何と言うだろうか。明治時代のような「富国強兵」を叫ぶ政治家たちが「美しい日本」を主張する政治状況、物が溢れていても幸福感の薄い社会を彼らは何と思うのだろうか。
「理想的な生き方とは? 理想的な社会とは?」。駅頭に立つ短い時間、いつもそのことを考える。
「森友」「加計」問題、公文書の「改ざん」、セクハラ問題が続き、「アウト」と思っていた安倍政権は根強い3割の支持で粘り腰を見せている。3割支持のトランプ大統領とそっくりだ。北朝鮮との戦争まで匂わせたトランプと一体感を印象付けた安倍首相だが、米朝首脳会談が実現しそうになって梯子を外された。望みの綱は米朝会議の「不調」だが、会議の場所の設定にまで話が進むに至って、突如、金正恩委員長との会談を言いだした。バスに乗り遅れたくない焦りだろうか、これまで、拉致問題だけにこだわり続けてきた政府の方針転換である。文在寅大統領を介して日朝会談の可能性が伝えられると、晴天の霹靂、安倍首相が「平壌宣言」(2002)を持ち出したことに耳を疑った。
<「平壌宣言」で墓穴を掘る?>
小泉元首相の随行員として平壌に出かけた安倍晋三官房副長官(当時)は、拉致問題を理由に、平壌宣言の実行どころか北朝鮮敵視を15年間も続け、政治家として成功を収め首相にまでなった。この宣言は当時、日本でもまた韓国でも驚きをもって迎えられた画期的な内容だった。
今でも「宣言」は有効と安倍首相は主張するが、彼が内容を理解しているのか疑問に思える。改めて「宣言」を読み直した。
前文で「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立」を謳い―
1項で「信頼関係に基づく早期の国交正常化交渉」の再開と決意を表明。
2項で日本は、「過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明、無償資金、長期借款の供与と人道支援を約束」。国家賠償でなく「資金援助・協力」という点は日韓条約と同じだが、植民地統治時代の反省とお詫びは日韓条約にはない。安倍首相の口が裂けても出てこない歴史認識だ。さらに「在日朝鮮人の地位問題、文化財の問題の解決」が盛り込まれた。
3項は拉致問題に関わるもの。「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとること」を確認。拉致問題は先延ばしされたが、正常化後、拉致の真相と実態が解明されることが期待された。事実、正常化交渉前に一部の人が帰国を果たした。
4項では「朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守」と「核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進する」必要性と「ミサイル発射のモラトリアム延長」を表明。
全文が外務省のホームページに掲載されているので一読をお勧めしたい。「平壌宣言」を意図的に無視し続けため、今日の深刻な日朝間の緊張関係と核問題が生まれたのは明かだ。その責任はひとえに安倍首相にある。「拉致の解決抜きに国交正常化はない」と、目的と前提を逆転させ、拉致被害者家族と日本国民と北朝鮮を騙し続けてきた。
ここにきて「平壌宣言」を持ち出した唐突さに驚くが、遅きに失したとしても原点に戻って国交正常化するとなら歓迎すべきことかも知れない。
しかし、「北朝鮮憎し」で固まってきた安倍首相と側近たちが対北朝鮮政策を180度転換するのは考え難い。日本だけが乗り遅れそうになって慌てて「平壌宣言」を引っ張り出した首相のなりふり構わない自己正当化ぶりがまたもや明らかになった。北朝鮮の「脅威」をひたすら煽り続けた「失われた15年」。 国民を騙し続けた安倍首相は速やかに退場すべきだ。No Pasaran!
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7627:180510〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。