多発する山岳遭難と犠牲者(続)
- 2018年 5月 31日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
前稿「多発する山岳遭難と犠牲者」末尾から四行目「尾瀬まで登るか」中の「瀬」は、明らかに誤字で、「根」の間違いでしたのでお詫び申し上げまして、「尾根」と訂正させていただきます。
勿論、全国何処からでも「尾瀬」まで登られれば有難いのですが、如何にしても無理ですので、謹んで訂正させて頂きます。
さて、前稿では、自然に親しむこと、就中、登山の危険性のみに触れましたので、本稿では、自身の経験を踏まえまして、危険を避けながら大自然に親しみつつ、その保全をも考えることの重要性にも触れてみたいと思います。
私は、生まれは大阪でしたが、バブル経済華やかなりし時期に奈良市の近郊団地に住んでいたことがあります。 団地は、日本住宅公団(現:独立行政法人都市再生機構)が造成した賃貸住宅でした。 団地の周囲は、未だ未開発の丘陵地で、里山も多く、野池もあり、陵墓もある地域もあり、未だ未だ自然環境に恵まれた地域でした。
休日に近郊の里山を訪れて、ため池や野池の畔で小鴨の集団や鵜を観ていました。 里山に入り、キジやヤマドリに見惚れたこともあります。 身近で見ますと本当に綺麗なのは、ヤマドリでした。 また、小鴨の母さんが小さい小鴨を多数引き連れて山道を横切るのに出会い、暫し歩みを止めたこともありました。
一種の趣味として、野鳥観察をするようになり、図鑑を片手に野山に出かけることが多くなりました。 また、子供の頃から園芸が好きでしたので、自然と野草等の植物にも関心が向きました。
自然の成り行きで、自然保護団体に入り、自然環境保全の運動に参加することが多くなりました。
時は、バブル経済の頂点にあり、全国至る処で開発が盛んでした。 土地成金が肩で風切って天狗になり、開発反対の旗は幾らで売るのか、と値踏みをする有様でした。
出生以来、負け戦をする命運が自分に有るのかも知れない、と諦めながらも里山で見たヤマドリのために環境保護の旗は降ろさず、今に至ります。
上記のように、自然の中で動植物に触れることは、貴重な体験であり、また、楽しい思い出になりますが、動植物でも危険なものがあるのも事実なのです。 例えば、里山にも毒蛇はいます。
大阪にある生駒山は、頂上に遊園地がある程に人に馴染んだ山ですが、其処にもマムシはいます。 毒蛇は人に出会っても逃げずに向かって来ることがありますので、とても危険ですが、有毒では無い蛇との見分けがつかない人が多いのです。
また、野草、山草では食べられる物がありますので、採取されて自宅で調理し召上る方も多いのですが、食べられる野草、山草と良く似た毒草があるので採取には、注意が要ります。 特に、キノコの類は、採取し食用にされるのは絶対に禁物です。 地元の古老でも、食べられるキノコに似た毒キノコを食べて中毒になる方も居る程ですので、一般の人に区別がつく訳がありません。
そもそも自然の中では観察程度に止めた方が自然保護の観点からは好ましいのです。 例えば、私も、一度、山里でヤマユリの花が咲いているのを見た時には、感激した程に今日では、貴重になりました。 一時的に山野草が園芸ブームになることもあり、そうした時期には、違法に山野草を採取する人々が争って取るようです。 野鳥も違法捕獲されています。
この国では、自然保護のために違法行為を取り締まる処か、反対に自然破壊を行うのですから一般人へのしめしがつきません。
例えば、林野庁です。 戦後間もなくの植林事業が失敗の典型です。 これは、自分が山野を歩いていて気がつきました。 杉の植林地では、倒壊の危険がある如く見える樹林が密集している、と。
園芸家ならば、実生の樹木と挿し木の樹木との差異をご承知でしょう。 ご承知でなくとも、鳥が運んだ実から出た苗木が強くて、邪魔なので切っても、また、芽を出すことを。
それと同じことなのです。 つまり戦後植林された杉の木は、園芸木のように挿し木でしたので、根が浅く、とても倒れやすく、また、枝払い等の管理を怠ったために、今では、倒れるのが目に見えている程ですし、実際に、台風等で倒れていますし、そのために災害になっています。
眼を海外に転じて、欧米の自然再生の技法を観れば分かります。 一定地域の自然再生には、野鳥を呼び込む工夫から始めるのが一般的なのです。 詰まり、上述のように実生の樹木で森林を再生することを目的として野鳥を呼び込もうとする訳なのです。
何とも息の長い試みですが、自然の営みは永遠に続くとの真理に基づくのでしょう。
私も、自宅に庭は無いものの、隣家との間に野鳥が運んだ実から出た琵琶の木が根付いてしまいましたので、毎年枝を払いながら、何とか育てようとしています。 一度は、切り倒したのですが、実生の樹木は強いので、また枝葉を茂らせたのでした。 こうなると切るのが可哀想ですから。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7692:180531〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。