「福島原発震災」をどう見るか――― 私たちの見解(その2)
- 2011年 4月 8日
- 時代をみる
- 放射能汚染柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会福島原発事故
「福島原発震災」をどう見るか ――― 私たちの見解(その2) 2011年 4月7日 柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会 〒160-0004 東京都新宿区四谷1-21 戸田ビル4階 事務局携帯 070-5074-5985 http://kkheisa.blog117.fc2.com/ E-mail kk-heisa@takagifund.org 郵便振替口座:00140-0-687327 加入者名:柏崎刈羽・科学者の会 |
事故から3週間余。福島第一原発の危機は続き、長いトンネルの向こうは見えません。たとえ、格納容器や圧力容器の大破、大量の放射性物質の爆発的流出という最悪の事態が避けられとしても、今後、長期にわたる放射性物質の流出は続くでしょう。すでに汚された現場周辺の大気、水、土はさらに汚され、汚染地帯は広がります。この「暗い絵」から目をそらすことは許されないと、私たちは考えます。
この間、危機と闘いながら必死に働いている現場作業員が酷い被曝を被っていること、高濃度の放射能を帯びた大量の水が原子炉から流れ出し、海洋を汚していることが報告されました。農畜産物や水産物が汚され、あるいは売れなくなり、仕事ができなくなった農民・漁民の苦境も連日報道されています。原発事故がいかに人々の生命と生活を破壊するか、私たちは、その現実を目の当たりにしています。
私たちの会、そして原発を批判する多くの人々が、大地震・津波が起これば、このようなことが起こるかもしれないと警告してきました。にもかかわらず、国と事業者、それに連なる学者たちは、「原発は絶対安全」「CO2を出さない原発はクリーンエネルギー」といった無責任なプロパガンダを止めず、今日の事態を招いたのです。
今、福島原発でなにが起きているか。「第二の福島原発震災」を起こさないためには、何が必要か。私たちの見解をここにまとめました。 (当会では3月23日に最初の「見解」を発表していますのであわせてご覧下さい)
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1.福島第一原発は今どういう状態にあるか
事故は新たな様相をみせ、長期化しつつある。地震から一ヶ月近く経った今も収束の見通しはたっていない。
1-1タービン建屋地下での作業員の高線量被曝
3月24日には、3号機タービン建屋地下でケーブル敷設作業をおこなっていた3人の作業員が高濃度の汚染水に浸かり、180mSv(ミリシーベルト)の全身被曝をした。足に浴びた放射線量は2〜6Svと推定されている。後で述べるように、原子炉圧力容器からの高濃度汚染水が格納容器外へ流出していることが把握されていたのにもかかわらず、このような被曝労働がなされていたことに強い憤りを感じる。さらに、線量計を持たずに作業させられていたという法律違反の劣悪な作業環境も報道されている。緊急時の対応とは言え、作業員の安全と健康の確保は、事業者の当然の義務であることを忘れてはならない。
1-2原子炉圧力容器の破損
この3号機タービン建屋地下の汚染水は、390万ベクレル/ccの高濃度で、しかも半減期8日のヨウ素131を多量に含むことから、燃料プールではなく、原子炉内の核分裂生成物(いわゆる死の灰)が漏れ出たものと考えざるを得ない。28日には、380万ベクレル/ccの放射能が1号機タービン建屋地下で検出された。2号機では、水表面で1Sv/h強という10分ほどで急性障害が生じるほどの汚染が観測された。これらの事実は、運転中の3つの原子炉とも、圧力容器内の燃料棒が破損・溶融し、燃料棒中の核分裂生成物を含む炉水が格納容器外へ流出するというきわめて深刻な状況に陥っていることを示している。
なお、2号機のたまり水から高濃度(29億ベクレル/cc)のヨウ素134が検出されたとの原子力安全・保安院の発表があったが、その後取り消された。ヨウ素134は、半減期53分の短寿命核種であり、それが高濃度で検出されるということは、再臨界が起こって核分裂反応が再開したことを意味する。そのような最も重要な情報が、その意味も検討されず、測定者の誤認がノーチェックで東京電力の発表になり、保安院の発表になるという判断能力の低さ・無責任体制に驚くばかりである。
原子炉内の温度、圧力、水温として東京電力が示している数値は、原子炉圧力容器が少なくとも部分的に破損しているか、圧力容器に直接つながっている配管が破損していることを示している。 3月20日から23日にかけては、1号機の原子炉圧力容器底部外壁に設置されている温度計(熱電対)が最高400℃を示し、19日から20日にかけては3号機で同じく350℃を示した。このとき炉内の圧力は水の平衡蒸気圧よりはるかに低い3〜4気圧程度であり、底部にもほとんど水がなかったことを示していると考えられる。その後、温度計の指示は140℃〜110℃程度に下がったので、注入された水が一部底部にたまり始めたと推測される。東電の測定(注)によれば、約4メートルある燃料棒の中程の水位以下になっている。燃料棒が今でも原形をとどめているとすれば、その半ば以上が水面上にむき出しになっていることになる。上部給水ノズル部の温度が依然として高いのは、そのふく射熱によるものと考えられる。
(注)原子炉内の水位は、圧力容器上部の汽水分離器下端の圧力と、燃料棒下部の高さ位置での圧力との差によって測定している。しかし、東電の発表データでは、1号機では3月13日以降、温度計が400℃を示した時期を含めて、その水位は、-1800から-1600ミリの範囲を動かず、3号機でも3月22日以降-2250から-2300ミリの範囲に止まっている。水位計が壊れている可能性が高い。
1-3格納容器の閉じ込め機能の喪失
タービン建屋地下に高濃度の汚染水が流出したという事実は、格納容器が破損した、ということを示している。格納容器の目的は、こうした事故時に、放射能を外部に漏洩させないように閉じこめる最後の砦であった。
高濃度の汚染水は、原子炉圧力容器の底に、溶融した燃料が到達し、制御棒や中性子計測器挿入孔の溶接金属(ニッケル合金)が反応して溶け、その穴から汚染水が噴き出したか、圧力容器配管に破損が生じてそこから噴き出したか、であろうと考えられる。本来、閉じ込め機能を果たすべき格納容器の境界を越えて、高濃度の汚染水が外部へ流失しているということはきわめて重大な問題である。3月16日以降の東電発表によれば、格納容器内の放射線量は1〜3号機とも50〜100Sv/h(最大値)にも達する異常に高いもので、圧力容器内の燃料が相当量溶け落ちている可能性を示唆している。
1-4放射能汚染水の海への大量放流
原子炉炉心の冷却水は循環しておらず、炉心へ注入された水は、高濃度汚染水となって格納容器内に流入し、その破損箇所からタービン建屋など敷地内に大量に流出している。31日現在、満水になった各号機の復水器の水をサージタンクと呼ばれる貯水槽に移し始めているが、冷却水の放水が続くかぎり、遠からずそれも満水になることは明らかである。私たちは、バージ船を集めて、それらの水を運び出すことを政府に具体的に提案した。しかし、対策は後手後手にまわり、4月4日には、溜めてあった敷地内の低濃度汚染水を海に放出するという非常手段を実行するに至った。
1-5事故はいつ収束するのか
原子炉内にある燃料棒は、冷却水によって冷やし続けねばならない。その冷却水がたれ流しにならないためには冷却水の循環システムが回復されねばならない。そのためには、ポンプに動力(電源)と水が供給され、循環系統(原子炉本体や配管)に穴があいていないことが必要である。しかし、現状は、圧力容器の底か配管が壊れていて水の循環はできない。高い放射線レベルの現場でその修理は不可能であり、冷却水の循環が回復する見込みはきわめて薄い。
崩壊熱の放出量は徐々に下がってゆくが、冷却水が必要でなくなるには年単位の年月が必要であると考えられている。使用済み燃料プールにある燃料棒の崩壊熱について
もほぼ同様で、冷却水の循環が回復できるかどうかがポイントである。今後、不測の事態が起こらなくても、事故が長期にわたって続くことは避けられず、その間に続く環境(大気と水)への放射性物質の放出は膨大なものとなる。その放出量の多さは、チェルノブィリ原発事故(1986年)と並ぶ可能性がある。
2.放射能汚染はどこまで拡がり、いつまで続くか
2-1福島県の危機的な状況
20-30km圏区域は、屋内退避から自主避難勧告へと変ったが、人びとの生活に支障や混乱が生じているという事態に変りはない。30km圏内やその外側でも避難する人びとが増えている。現在続いている汚染状況は十分予測可能であった。圏外への避難勧告は、当初からなされているべきであったし、一刻も早くなされるべきである。
次の問題は50km圏内外である。この範囲には福島市(人口29万人)、郡山市(34万人)、いわき市(35万人)など地域の中核都市がある。4月2日に福島県が発表したデータによれば、福島第一原発から北西へ約63km離れた福島市での放射線量は、3月29日から4月2日の間で2.39〜3.31μSv/h、西へ約61km離れた郡山市では2.27〜2.79μSv/hとなっている。5日間昼夜ほぼ同レベルの高い値である。この数値は、福島市では3号機建屋の水素爆発があった翌日の3月15日夜の最高値22.8μSv/hから徐々に低下したが、郡山市では当初の3μSv/hから、いったん1μSv/h台に下がった後、再び2μSv/h台に増えている。一方、南へ約43kmのいわき市では、3月21日に5.04μSv/hという高い値を示したがその後は0.6μSv/h程度に下がってきている。これら3市間の違いは、原発からの距離だけでなく、風向きや地形などの気象条件が大きく影響していることは間違いない。
3月15日から4月2日までの福島市での累積線量は、3mSvを超えている。また、今後、現在の状態が変らず続くとすると、そこに住み続けた場合、年間被曝線量は、22mSv(=2.5μSv/h×24h×365日)になる。この数値は非常に高いもので、妊婦・乳幼児・子供が住み続けるには危険なレベルである。大人でも、できうるならば住み続けないという選択が望ましいレベルである。
ここに住む人たちがどういう行動をとるべきなのか、政府も自治体も、またわれわれも明確な解答をもたないが、予防的な見地から、特に妊婦・乳幼児・子どもについては、「学童疎開」などの措置を、自治体において検討すべきではないか。大人についても、放射線モニタリングのデータを注意深く監視しながら、危険な地域を明確にして退避勧告をするのが望ましいが、対象地域は福島県の人口200万人の半ばを超えており、非常な困難が待ち受けている。すでに事態はそういうレベルに達したということをわれわれは認識すべきであろう。
2-2 ICRPによる被曝限度引きあげの提案
このような汚染の拡がりに対処するため、居住者の被曝限度をゆるめようという動きがある。ICRP(国際放射線防護委員会)は、非常時の措置として取り決めた参考値を示し、居住者の被曝限度を大幅に引き上げる提案を、3月21日におこなった。現在の被曝限度は年間1mSvであるが、年間20mSvまで居住できることになる。
放射線被曝に関するICRPの勧告(注)におけるがん死率評価を用いると、10万人の都市の住民が、一人あたり、年間20mSvをあびつつ生活すれば、毎年100人の率でがん死者が新たに発生するという計算になる。その死は他の原因と区別できず、それとわからずに統計的数値の上昇をもたらすだろう。そういうことを考えると、今回のICRPによる居住者の被曝限度引き上げ提案は、被曝によるより多くのがん死を認めようというものであり、大きな問題をはらんでいる。
(注)ICRPの2007年勧告では、1Svの放射線量をあびたとき約5%のがん死者が出るという見積もりのもとに、一般公衆や職業人などの被曝許容限度を決めている。しかし、このICRPの見積もりは、乳幼児や妊婦、子どもへの評価が抜けていて、過小評価であるという批判が当初より出されている。
2-3食べものや土・水の汚染
汚染は、大気にとどまらず土・水・食べ物へと広がり始めた。福島県内だけでなく、東京の水道水や茨城県産の野菜などでも、食品衛生法における暫定規制値を超える数値が観測され、乳幼児の水道水摂取制限勧告や野菜・牛乳の出荷停止措置がとられた。その後、数値はやや減少の傾向にあるが、関東北部から東北南部にかけては、放射能汚染の洗礼を受けた地域になってしまった。土や水の汚染がどのレベルにとどまりうるかは、今後の原発事故の収束状況によるが、爆発などによる大規模な放射能放出が避けられたとしても、事故が長期化し放射性物質が撒き散らされるという状況は数ヶ月間続くと思われる。
敷地周辺の海や地下水の汚染もまた深刻化している。 4月2日、2号機の排水口から高濃度のヨウ素131が検出されたが、2号機のトレンチにつながったピットがひび割れて高濃度汚染水が海に流れ込んでいたと発表された。沖合30kmの地点でもヨウ素131やセシウム137が観測され、汚染が広い範囲に拡がりつつあることが明らかになった。4月5日、はやくも茨城県北部沿岸で、こうなごに規制値を超える526ベクレル/kgの汚染が観測された。ただし、現在は、汚染の初期局面であって、今後生物濃縮によって海洋生物の汚染が深刻化してゆくであろう。
2-4農産物を食べることでの連帯
野菜・牛乳の出荷停止措置によって、生産農家はそれら対象品目の廃棄を余儀なくされたばかりか、首都圏を中心とした消費者の福島県・茨城県の農産物に対する「買い控え」によって打撃を受けている。
原発サイトからの放射能の放出とその飛散状況が今後どうなるかによってその程度が変るが、現在、主に問題になっているヨウ素-131(半減期8日)による短期の汚染から、セシウム137(半減期30年)やセシウム134(半減期2年)による長期の土や水の汚染へとシフトしてゆくであろう。それらを吸収・濃縮した農産物や水産物に、今後、長期にわたって、汚染が続く怖れが大きい。
食品衛生法の暫定基準を超えずに出荷される農産物であっても、放射能の蓄積に無縁ではなくなるだろう。そうであれば、消費者の買い控えはやはり続くであろう。「風評被害」であるとして安全PRをして済ませられる問題ではない。なぜならば、基準値というのは、それ以下ならば食べ続けても安全だというものではないからである。居住環境における被ばく線量限度と同じような意味で決められた数値だからである。
一方で、私たちは、福島産や茨城産の農産物を食べないという選択をしていれば良いのだろうか。特に、福島県の人たちは、そこに住み続けられるかという選択を迫られている上に、生産物が売れない(出荷停止ではないから補償もされない)という状況に追い込まれる。これはあまりに酷ではなかろうか。首都圏の人間は、福島原発や柏崎刈羽原発からの電力供給の恩恵に浴してきた。原発の電気を望んだわけではないにしても、事実としてそれを使って生活をしてきた。その供給地の人たちが苦境にあるなかで、私たちはなんらかの連帯の気持ちを示すべきではなかろうか。基準値を超えた放射能汚染を受けた農産物は廃棄し、事業者や行政府が補償を行うのは当然である。しかし、基準値以下であるとされて市場に出回る農産物については、その汚染状況に注意を払い、身を守りながら食べるという選択があるのではないか(注)。もちろん、大人よりもヨウ素131で9倍影響が大きい乳幼児や5倍も影響が大きい子供たちに細心の注意を払わなければならない。
(注)この意見に対して、当会の中でも、少しでも汚染されたものを食べるという選択を勧めたりするべきではないという意見もあったことを付記する。
3.事業者・保安院・安全委員会・学者の責任を問う
事故直後から、「想定外」の津波でやられたという「言い訳」が、今まで原発災害の可能性を否定していた人たちの口から語られ始めている。本当に「想定外」の地震であり、津波であったのか?
3-1大津波は想定できた
マグニチュード9.0という地震は日本では観測史上初めての巨大地震であったが、2004年12月には同じM9.1というスマトラ沖地震と大津波を経験しているのであって今回の地震と津波を「想定外」とするわけにはゆかない。
東北地方太平洋岸では西暦869年7月に貞観(じょうがん)大津波が発生し陸奥国府を襲ったという記録がある。最近の研究でその規模が明らかにされ、1100年経た現在での津波再来が警告されていた。しかも、この問題は、原発の耐震指針の改定を受けて東京電力が実施した耐震性再評価(バックチェック)の中間報告書の審議(2009年6月)の際、委員からの指摘がなされた。しかし、津波の評価は最終報告書に先送りされ、それがなかなか提出されないうちに今回の大津波を迎えてしまった。委員・保安院・原子力安全委員会は、津波の評価と対策を急ぐように東京電力を督促すべきであった。
3-2耐震安全性も不十分だった
津波が「想定外」だったという口ぶりからは、津波さえ来なければ原発は大丈夫だった、あるいは今後、津波対策を十分におこなえば、原発の耐震対策は万全だという考えが読みとれる。だが、今回の事故で設備・機器が破損したのは津波のせい(・・)だけだったのだろうか。4月1日に東京電力は地震記録(暫定値)を公表した。それによれば、原子炉建屋最地下階での観測値は、2号機・3号機・5号機で基準地震動SSに対する応答加速度値を超えた。1号機・6号機もぎりぎりの値だった。基準地震動の設定も不十分だったことが分かる。
内部の損傷調査がおこなわれていない現状では推測するしかないが、地震によって、外部電源の喪失、ECCS系の故障、圧力抑制室(サプレッションチェンバー)の破損、冷却材喪失に関わる重要な被害等が生じた可能性が考えられる。基準地震動以下の揺れで設備・機器の破損が生じたのであれば、設備機器の地震応答解析も不十分だったことになる。
まとめると、津波も地震も「想定」が不十分だったのではないか。この福島原発震災は、人知を尽くして作ったのに起きてしまったというレベル以前の問題である。なぜそうなったかは安全審査のあり方が基本的におかしいことによっている。新耐震指針(2006年)では、「残余のリスク」があることを認めたけれども、それへの対応を怠ったという事実が問われねばならない。
3-3 事業者・保安院・安全委員会・学者の責任
原発の安全性を確認するための予測値はどのように決められたのか。被災した柏崎刈羽原発の健全性評価や耐震安全性評価の議論の過程で、私たちが経験してきたことは、事業者がおこなう評価(アセスメント)というのは、必ずといってよいほど、当の原発が運転再開できることを妨げない範囲での評価であったということである。福島原発でおこなわれたバックチェックもそれと同類のものだったことは想像に難くない。
そのような報告書を提出した事業者である東京電力、それを審議した原子力安全・保安院、独自の立場で安全審査をおこなったはずの原子力安全委員会、無批判にそれらに協力した学者たちの福島原発震災に対する責任はきわめて重いと言わざるを得ない。
3月31日、田中俊一前原子力委員会委員、松浦祥次郎元原子力安全委員長、石野栞東大名誉教授の三氏が16名の研究者・技術者を代表して記者会見し、「福島原発事故についての緊急建言」を発表した。「建言」の冒頭には「原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。」と述べられている。新聞報道では陳謝したことが前面に取り上げられたが、残念ながら今回の事故をもたらした原子力推進体制についての根本的な問題点の指摘はない。あまりに遅すぎた反省である。
3-4 問われる、国、東電の事故対応能力
地震発生の翌日の3月12日午後3時半、1号機原子炉建屋の最上階(オペレーションフロア)で大規模な水素爆発が起きた。“たまたま”格納容器が破壊することはなかったが、一歩間違えれば放射性物質が大気中に大量放出されるところだった。しかし国が公表している当時の事故対応状況から判断する限り、保安院も東電も原子力安全委員会も、この水素爆発を事前に予測していた様子はまったく見られない。爆発直後、「格納容器の健全性は保たれている」とうそぶく御用学者がいたが、単に「結果オーライの水素爆発」だったと言わざるをえない。さらに、翌々日の3号機の同種の水素爆発についても、「1号機のような水素爆発が起こるかもしれない」と今度は“爆発予告”をしながら、近隣住民に新たな避難指示を出さなかった。1号機の場合を大きく上回る大爆発だった。こうした現実は、何よりも国民の命と健康を守らねばならない保安院、原子力安全委員会――そして東電――の責任感と原発事故対応能力の欠如を物語っている。
3-5 独立した事故調査委員会の人選の透明性確保の必要性について
政府は、福島原発事故原因を究明するための事故調査委員会の設置や、原子力損害賠償法に基づき周辺住民などに行う損害賠償の範囲を定めるための指針を策定する原子力損害賠償紛争審査会を早急に設置することを検討していると発表している。
こうした委員会・審査会の設置は、当然必要であるが、今回の事故の真相を究明し、今後の事故防止に役立てるため、あるいは適切な損害賠償を実現するためには、こうした委員会・審査会が、真に独立した第三者機関として設置・運営されなければならない。そのためには、委員の人選・人数について、慎重な配慮が求められる。具体的には、委員は公募制として、その学歴・職歴・著書・論文などのほか、原子力発電に関する過去の関わりや発言もまとめた上で、これらに関する情報の公開を徹底して、人選の過程・基準の透明性を図るべきである。事故調査委員会には、国の内外を問わず、過去に原発の技術に関わってきた現場を知る人が加わることも重要であろう。
以上
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