「安倍晋三が総理でなければ、救える命があった」!
- 2018年 7月 18日
- 時代をみる
- アベメキシコ大統領選加藤哲郎思想検事
2018.7.15 東京は6月末には梅雨明けし、連日猛暑が続きます。日本列島全体は、異常気象で、7月は5日頃から、西日本の各地で記録的な豪雨、広島・岡山・愛媛などを中心に、土砂崩れや河川氾濫・堤防決壊などで200人以上の人名が奪われ、インフラも破壊され、一週間経っても数千人が不自由な避難所生活を強いられています。気象庁は「平成30年7月豪雨」と名付けましたが、多くのメディア が使う「西日本豪雨」の方がふさわしい、惨状です。無論、2011年の「東日本大震災」との対比で、この国のおかれた自然との厳しい関係が、全国土にわたることがわかります。大きな地震も、大阪や千葉でありました。そこに猛暑、2020年の東京オリンピックは7月24日から8月9日ということですが、2年後は、果たして異常気象や地震・台風から逃れることができるでしょうか。それでなくても、猛暑に慣れない国からも、選手や訪問客がくるはずですから、心配です、
震災や水害も、国民生活にとっては、大きな危機です。 かつて1995年1月の阪神淡路大震災のさい、自社さ連立政権の社会党村山首相は、初動対応が遅いと批判されました。いまでもネトウヨサイトでは、「村山富市が総理でなければ救える命もあった」 などと、自衛隊への災害派遣が遅かったと非難されています。2011年の東日本大震災・福島第一原発事故のさいは、民主党政権菅直人首相の危機対応が、やり玉にあげられました。サンケイ新聞は「菅直人首相自身のパニックと暴走が招いた悲劇」とまで書いて、自民党政権の復活を促しました。今回の西日本豪雨の危機管理は、どうであったでしょうか。 左の写真は、公営放送ではとりあげられませんが、インターネット上で大きな話題になり、いくつかのメディアもとりあげた、7月5日夜の「赤坂自民亭」出席者に、自民党議員名を付したものです。当初は「女将」役の上川陽子法務大臣が、翌7日朝にオウム真理教事件7被告の死刑を執行した、その人権感覚が問題とされました。やがて西日本豪雨の被災・被害が拡大するにつれて、この5日午後には気象庁が異例の「記録的な大雨」を警告する記者会見を開いており、11万人に「避難指示」が出ていたことが、知られました。 安倍首相や小野寺防衛相が、本気で危機管理を心がけていれば、7日早朝の各地の河川氾濫などへの備えができて、多数の人命が救われたのではないか、というウェブ上の声が広がってきました。ネトウヨの村山首相批判をもじっていえば、「安倍晋三が総理でなければ救える命があった」という批判です。
政府の非常災害対策本部が設置されたのは、すでに人的被害が 広がった8日午前、それもわずか20分間でした。安倍首相自身が、7月6日は平常通りで、夜は規制改革推進会議の大田弘子議長らと会食、7日はすでに死者・行方不明数十人になっていましたが、午前10時1分から同16分までわずか15分の「7月5日からの大雨に関する関係閣僚会議」、あとはのんびり「私邸で過ごす。来客なし」です。 8日にようやく「9時2分から同22分まで、非常災害対策本部会議」発足、しかしたった20分です。来日中のポンペオ米国務長官、康京和韓国外相の表敬を受けて、「午後2時29分、私邸着。来客なし」です。どうやら安倍晋三は、11−18日に予定していたパリ祭軍事パレード見学を含む外遊を何とか実現しようと、被害を小さく小さく見積もって、自宅にこもっていたようです。そのため「赤坂自民亭」に出席した小野寺防衛相は、自衛隊員を待機させても、最高司令官の意向に逆らえず、被災が拡大し人命が奪われても、災害出動は最小限。9日に首相が外遊を断念してから、各地の瓦礫処理・給水・遺体発掘の事後処理にまわされました。土石流や河川・ダム放流、交通確保に責任を負う公明党の石井国交相は、カジノ法案の強硬突破を優先させました。国会も、カジノと参院自民党の党利党略定数増案が優先。首相の外遊中止の理由自体、不透明です。サンケイ新聞は、二階自民党幹事長の 口を使って「首相自身の判断」とわざわざ書いていますが、朝日新聞では「官邸は最後まで実現模索」、どうやら側近の西村康稔官房副長官の流した「赤坂自民亭」ツイッターへの世論や被災地のすさまじい反発を見て、ようやく取りやめたようです。何しろこの西村副長官、兵庫が選挙区で、2014年広島土砂災害の現地対策本部長の経験を基に 『命を守る防災・危機管理』(プレジテント社)を書いていた、ご当人ですから。その推薦文を書いていた安倍晋三は、ようやく11日になって、岡山の被災地を訪問、避難所には急遽クーラーが設置され、首相の「やってる感」を演出、 何やら戦後行幸を始めた頃の、「天皇=箒事件」を想い出しました。やっぱり安倍晋三は、国民の生命財産と人間の尊厳よりも、自分の私利私欲で権力を私物化する、ファシストです。
佐藤卓巳さんの新刊『ファシスト的公共性ーー総力戦体制のメディア学』(岩波書店) は、すぐれた歴史書であると共に、ポピュリズムやフェイク・ニュース、権力のメディア支配の今日的様相にも肉迫した、好著です。敢えて「ポピュリスト的公共性」ではなく「ファシスト的公共性」をタイトルにしたとのことで、説得的です。国立国会図書館憲政資料室に、昨年「太田耐造関係文書」が寄贈され、公開されています。いわゆる「思想検事」の中核で、戦前・戦時の思想言論統制、社会運動弾圧、諜報とメディア支配を差配した元大審院検事・太田耐造の収集資料です。その目録を見ると、佐藤卓巳さんの日本メディア史や、私の『ゾルゲ事件』(平凡社新書)で扱われた問題についての、貴重な第一次資料の宝庫です。総計1104点の膨大な記録で、私の当面進めている関東軍731部隊研究、『「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後世界』(共に花伝社)に関わる直接資料はほとんどありませんが、志ある若い研究者の皆さんにとっては、さまざまな角度から「安倍ファシズム」に対抗する際の、研究上のヒントがみつかることでしょう。「太田耐造関係文書」の批判的・学術的解読は、いまや現役科学技術・学術政策局長による「裏口入学」受託収賄疑惑で地に堕ちた今日の文科省の、旧科技庁官僚主導の大学・科学技術政策に抗して、20世紀日本の人文・社会科学の最良の伝統を受け継ぎ発展させる、学問的挑戦ともなりえます。
私の論文「大学のグローバル化と日本の社会科学」に対する、地球の反対側の友人からの、嬉しいメール。メキシコでは、ワールドカップの最中に行われた大統領選挙で、既成政治の打破を唱えた新興左派野党、国家再生運動(MORENA)のロペスオブラドール元メキシコシティ市長(64)が当選、かつて私の勤めていたメキシコ大学院大学にも、昨年の 隣国韓国に似た、新たな息吹が生まれたようです。「7月1日の大統領および上下両院選挙で数年前にAndres Lopez Obradorという中道左派の改革を主張するリーダーを中心に結成されたMovimiento de Renovacion Nacional (MORENA)と左派労働党・キリスト教系保守社会の出会い党の連合が絶対多数を獲得して12月1日から政権交代が実現することになりました。選挙戦は百数十人の死者が出る無残なものでしたが、これまでにあまりない高投票率で選挙日は平穏に過ぎ、対抗候補者も圧倒的な差の前に最終結果がわかる前に敗北を認めたために、一昨夜はZocaloの広場をいっぱいに埋めるお祭り気分でいっぱいだったようです。Andres Lopez Obradorは、少数の超大特権企業と汚職成金の政治家・高級官僚の支配体制をMafia del poderと名指しで指摘し、麻薬カルテルによる暴力・買収の取締りには、まず汚職と権力者の犯罪の免責を除く上からの浄化を主張し、貧者第一の政治を行うと約束しています。新政府の構成員には、大企業家・組合リーダー・著名作家・学者科学者・元最高裁判事・多数の映画監督・芸術家・歌手などさまざまな前歴を持った人が招かれていますが、高い能力と信頼される人格を基準に選ばれているようです。…女性の参加も50%に近く顕著です。個人としても権威と奢侈を誇る大統領専制、いわゆるTlatoaniスタイル、を避け、国民の半数以上が貧困ライン以下にある国の政府にふさわしく、専用機を売り払い一般の市民のように航空会社のサービスを利用し、官邸Los Pinosは廃止し、Chapultepec公園の文化センターとして一般に公開するといいます。レフ・バレセやムヒカ大統領のように質素に勤労庶民の生活スタイルを維持するということです。これらの公約がどこまで守られるか、実現できるか、国民の今までにない注視の的になることでしょう。選挙管理委員会が正式に勝利を認めてすぐにTrump大統領が祝福の電話をかけ、北米共同市場協定や移民について話し合いで解決しようと呼びかけ、ドルの高騰もなく、市場も落ち着いています…」。権力の私物化・圧政と対米追随・メディア支配に対する、民衆のアンチ・トランプ対抗運動の勝利。21世紀の世界史は、動いています !
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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