350:追悼:クロード・ランズマン氏・20世紀絶対無二の記録映画『ショアー』作者
- 2018年 7月 18日
- 評論・紹介・意見
- ドイツ・ベルリン在住/ジャーナリスト梶村太一郎
日々の雑用にかまけているうちにかなり遅くなりましたが、日本ではあまりにも情報が少ないと思われるので、ぜひとも読者の皆様にお伝えしたいことがあります。
先の7月5日、クロード・ランズマン氏がパリで亡くなりました。92歳。
晩年のClaude Lanzmann DPA |
彼には多くの映画作品と著作がありますが、なんといっても世界中に衝撃を与えた映画『ショアー』(1985年)の作者としては、日本でも知られているところです。
わたしも1986年のベルリン映画祭でドイツで初めて上映された時から、歴史認識におけるナラティブ・証言の価値に関して決定的な影響を受けました。
ナチスによるユダヤ人大虐殺をして、被害と加害の体験者の証言で、40年後に否定しようもない現実として世界に提示した20世紀の歴史の闇の実態の絶対無二の記録映画であるからです。
ドイツやかつてのドイツ軍の占領下にはアウシュヴィッツ歴史博物館を始め歴史の現場が実に数多く保存されていますが、そこで一体何が起こったかを実感として理解するためには、この作品の鑑賞を避けて通ることはできないと考えています。
『ショアー』高橋武智訳・作品社 |
日本では、10年の年月をかけて高橋武智氏の翻訳が出版され、映画も上映されました。
今では映画のDVDは日本でも発売されているようです。
当時、1996年11月29日の「週刊金曜日」に掲載されたわたしのによるこの訳書の書評がありますので、以下オリジナルの写真によりお読みください。
22年も前のものですが、趣旨は一切古くなっていませんが、若い読者のために幾つか解説を付け加えておきます。(クリックして拡大してください)
いくつかの解説です:
まず、冒頭に引用した、ランズマンの言葉にある「1941年12月7日のあの夜」ですが、特に日本人として知るべきは、この日づけと時刻が、まさにが大本営陸海軍部が「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり」と発表した時刻とほぼ同じであることです。
この時点で大戦は世界大戦となり、ナチドイツと軍国日本は破滅への決定的な一歩を踏み出したのです。歴史の偶然とはいえ恐ろしいほどの同時性です。
次に「花田紀凱が平然と朝日新聞社で跋扈する現状がある」とあります。これは前年の1985年に文藝春秋社発刊の「マルコポーロ」という雑誌が「ナチガス室はなかった」という 欧米の歴史修正主義者のダイジェストのような記事を掲載して世界的なスキャンダル(いわゆる「マルコポーロ事件」)となり、雑誌は廃刊され花田編集長は退職しました。
ところがその彼を朝日新聞社が雇用して新しい雑誌を発刊しようとしたことを指摘したものです。この企画も失敗し、朝日新聞社は大恥をかきました。花田氏はその後、彼にふさわしく日本の極右のチンドン屋のみすぼらしい宣伝マン(すまわち太鼓持ち)となり、相も変わらずチンチンドンドンとその生業を続けています。
もう一つ、文末の本書からの引用文に「まさしく丸太と同じだ、・・・というわけです」とありますが、この犠牲となった死者を「丸太」と呼んだのは、実は日本軍の731部隊が多くの生体実験で殺害した犠牲者の死体をして同じく「丸太」と呼んでいたことと一致しています。そのことから「私たちを今なお過去に縛り付けている『日本のショアー』の言葉ではないのか。」を結語にしたのです。
この言葉の一致は決して偶然ではないと思います。日独の人類史上未曾有の人道犯罪の実行犯たちが、考えついた言葉が期せずして一致するのは必然であると言えましょう。
このように、ランズマンの歴史的遺作『ショアー』は世界の歴史を学ぶ上で必見の映画であり、必読書でもあることは間違いありません。特に若い読者に勧めたいと思います。
なお、当然ですが、ランズマン氏の訃報はドイツでは大きく報道され、シュピーゲル誌は5日の当日に電子版で、彼と親しかった人物の回顧録とも言える→長い追悼文を「時間に打ち克った男」との見出しで掲載したのに続き、翌6日の各紙には、左右中立を問わずいずれも優れた内容の追悼文が掲載されました。
どれを取っても『ショアー』がドイツの「歴史を心に刻む文化」に決定的とも言える影響を与えたかが伝わるもので、この国のジャーナリズムの質量を見事に示したものが大半です。
ランズマン追悼文を掲載するドイツ語各紙6.Juli 2018.
初出:梶村太一郎の「明日うらしま」2018.07.15より許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7835:180718〕
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