平和の足音が聞こえないか
- 2018年 7月 27日
- 評論・紹介・意見
- 北朝鮮小原 紘
韓国通信NO465
歴史的な米朝会談から1ヶ月が過ぎたが展望が見え難くなっている。朝鮮半島の非核化、朝鮮戦争の終結宣言、拉致問題の解決の目途は見えてこない。伝えられるニュースは悲観材料が多く、既に米朝交渉は失敗だったという観測まで出始めている。北朝鮮の「平和攻勢」とは裏腹に秘密ウラン濃縮施設の存在が報じられなど、黄色信号どころか赤信号が点滅しているようにも見えるのも確かだ。
しかしニュースは「事実」と「期待」がない交ぜとなって錯綜していると見るべきではないか。平和を求める声以上に冷戦状況の維持を望む軍事産業に代表される勢力がアメリカ国内に厳然としてある。北朝鮮の脅威を政治利用してきた日本政府も冷戦派とみなしてよい。朝鮮半島の非核化と平和が実現するとイージスショアーも、突出した防衛予算も、辺野古新基地建設も必要性が無くなるばかりか、安倍政権念願の憲法改悪の構想も根拠を失う。トランプ大統領と金正恩委員長の「卓袱台返し」を密かに期待している人は決して少なくない。わが国は米朝交渉成功のために「お手伝い」をすべき好位置にあるはずだ。2002年の「平壌宣言」を安倍首相が評価するなら、米朝、南北朝鮮、さらに日朝の国交正常化に取り組んでよい。このままでは拉致問題の解決はおぼつかない。
控え目ながら、韓国外交部長官が南北朝鮮と米朝関係の展望を語った。日本のテレビや新聞では報じられない内容だ。以下、韓国市民新聞『プレシアン』7月19日の記事を紹介する。日本政府のみならず日本人も蚊帳の外であることを感じさせるレポートである。
(タイトル)
カン・ギョンファ( 康 京和外交部長官)
― 「国連総会で南北米の首脳会談の可能性」
カン・ギョンファ外交部長官は9月に開かれる国連総会での南・北・米の三か国首脳会談の実現の可能性と、年内にも終戦宣言をする基本的方針に変わりはないと記者団に明らかにした。
18日(現地時間)、就任後初めてイギリス訪問をしたカン長官は韓国人特派員との歓談の席上、国連総会で南・北・米の首脳会談について触れ、「予断は難しく、具体的な協議をまだしていないが、三者首脳会談の可能性は排除できない」と語ったと<連合ニュース>が報じている。
カン長官は「これまで南北首脳会談のための準備に何カ月もかかったが、今はその次元を越えている」「文在寅大統領は平壌を訪問するだろうが、その間に首脳間でどのような合意ができるか想像もできない」と述べた。
国連総会で終戦宣言が導き出される可能性について、「板門店宣言で明らかなように、年内にも終戦宣言を出す準備をしている」「そのための外交努力をしているが、今はその時期について明言できない」と語った。
朝米会談以降、約束の履行にかかわる交渉が多少遅れ気味だ。非核化に関する北側の出方が遅くれていないかという(記者側の)指摘に対しては、「期待値があまりにも高くなった」と評価した。「二回の南北会談が開かれ、朝米会談も続けて開かれた。その後の協議が同じ速度で進むと期待するのはもっともだが、非核化実現は焦らずにやる他はない。技術的問題が多い」と説明した。
カン長官は「マイク・ポンペオ国務長官の平壌訪問以降、アメリカは実務協議の早期実現のために準備中であり、わが国(韓国)とも緊密に調整をし、近日中にニューヨークを訪問してポンペオ長官とともに安保理理事会に報告する予定」と語った。
北朝鮮が核実験装備と施設を隠しているという報道については「ほとんどが情報次元からの話だ。公式的に確認するレベルの話ではない」「北の核と関連する施設と能力はすべて非核化の対象であることに変りはない」と答えた。
韓国戦争(朝鮮戦争)の停戦締結日である今月27日、米軍人の遺骨が送還される観測が出ているが、遺骨の問題について話をする予定があるのかという記者の質問に対して「機会があればこの問題で北側と話し合いたい」「国防チャンネルが開かれ、非武装地帯(DNZ)の平和地帯化、西海岸の平和水域案などさまざまな議題が論議されている」「その延長線上で遺骨送還問題も扱うことになるだろう」と語った。
また、北朝鮮の人権問題に触れ、カン長官は「政府の関心の有無と、これを公式の場で議題として取り上げることは別の問題」と政府見解を明らかにした。長官は「北の人権状況が劣悪であり、国際社会の関心事であることを政府としても認めている。国連での人権問題の論議にもわが国は積極的に関わっている」としたうえで、「ただ、非核化、さらに平和の話し合いの場でそれを議題にするかどうかは政治的判断による」と述べた。
カン長官は「長期的展望のなかで交渉すべきだ。議題としてとりあげて改善させる確信がないなら、もう少し政治的な判断が必要だ。非核化という成果をあげながら、その過程で北との会話が日常的に行われるなかで、変化が起る与件も生まれてくるはず」と語った。
康 京和(カン・ギョンファ)長官に対するインタビュー記事は特別目新しいものはない。しかし当初期待された成果が見えないせいか、北朝鮮側の狡猾さばかりを報じ、米朝交渉に暗雲が漂い始めたことを印象づけるわが国の報道とは明らかに違うことに気づくはずだ。決して楽天的ではないが、冷静に「非核化」と「平和」を求める韓国政府の努力、さらにアメリカの努力も垣間見ることができる。例によって語学力不足をかえりみず、ニュースを訳出したのはわが国の報道機関が他人事のように無責任な記事を「垂れ流し」ていることに我慢できなかったからだ。外務省もまた各報道機関も韓国の「努力」を知らないはずはない。実りある交渉のために日本を含め平和を求める国際世論を盛り上げる時期ではないのか。
余白を使って追伸/日本が保有するプルトニュウム47トンで原爆6千個が作れる。半島の非核化を強く求める日本に対して金正恩委員長が何を語ったか不明だが、日本の「非核政策」に対して国際的に疑問視する声が大きいのは確かだ。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7861:180727〕
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