社会的弱者を差別し侮蔑する言論の自由はない
- 2018年 7月 28日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
いま話題の政治家といえば、杉田水脈。つい先日まで、表舞台では殆ど無名だったこの人の名が、今や各紙に大きく躍っている。まさしく、注目度ナンバーワンの話題の保守政治家。いや、極右の政治家。
なんと、本日(7月27日)の赤旗一面のトップ記事に登場している。杉田水脈、大したものではないか。
「LGBT『生産性ない』の杉田暴言」「かばう自民に抗議殺到」「人生観の問題ではない」という大きな見出し。
リードだけをご紹介すれば、「自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が月刊誌にLGBT(性的少数者)のカップルは『子どもを作らない、つまり生産性がない』と攻撃し、行政支援への否定的見解を示す論考を寄稿した問題で、LGBTや支援者の団体から厳しい抗議の声が上がっています。批判は杉田氏を擁護する安倍政権や自民党にも向けられ、杉田氏の議員辞職を求める抗議行動が各地で予定されるなど、抗議は全国に広がっています。」というもの。
その杉田の言動に対するメディアの批判の典型が、一昨日(7月25日)の毎日社説だろう。「杉田水脈議員の差別思考 国民の代表とは呼べない」という標題。筆鋒峻厳である。その一部を引用する。
「特定の少数者や弱者の人権を侵害するヘイトスピーチの類いであり、ナチスの優生思想にもつながりかねない。明らかに公序良俗に反する。
国民の代表として立法権を行使し、税金の使い道を決める国会議員には不適格だと言わざるを得ない。
杉田氏はこれまでも、保育所増設や夫婦別姓、LGBT支援などを求める動きに対し『日本の家族を崩壊させようとコミンテルン(共産主義政党の国際組織)が仕掛けた』などと荒唐無稽(むけい)の批判をしてきた。
『安倍1強』の長期政権下、社会で通用しない発言が自民党議員の中から後を絶たない。「育児はママがいいに決まっている」「がん患者は働かなくていい」など、その無軌道ぶりは共通している。
杉田氏は2012年衆院選に日本維新の会から出馬して初当選し、14年は落選したが、昨年、自民党が比例中国ブロックで擁立した。安倍晋三首相の出身派閥である細田派に所属している。杉田氏の言動を放置してきた自民党の責任は重い。」
いちいちごもっとも、と言うほかはない。
政党の批判としては、昨日(7月26日)付けの立憲民主党の抗議文が鋭い。同党の公式サイトに掲載されたもので、「立憲民主党 SOGI(性的指向、性自認)に関するPT」座長・西村智奈美衆議院議員名のものである。
子どもを産むか否かで差別することは、憲法が尊重する基本的人権、自己決定権を否定する思想であり看過できない。差別を禁じた憲法を遵守すべき国会議員が、自ら差別との自覚をもてないまま発言したことに驚きを禁じ得ない。直ちに発言の撤回と謝罪を求める。
あわせて、自民党の二階幹事長は、今月24日の記者会見において、「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」と述べた。政党として、さまざまな考え方を容認することは当然のことながら、幹事長という立場にありながら、差別への無理解、無自覚を露わにした所属国会議員を問題なしとする言動は、差別そのものを公党の幹事長が容認したととれ、社会的影響も鑑み、許されるものではない。あわせて、撤回と謝罪を求める。
この件については、公明党の山口那津男代表までが、昨日(26日)の記者会見で、「子供を産む、産まないことを非難がましくいう言動はいかがなものか」と、やんわりながらも批判した。衆目の一致するところ、自民党政治家による歴史修正主義や排外主義、民族差別、性差別、人権軽視等々の右翼的発言の背後には、安倍執行部の存在があるのだから、山口の杉田に対する「やんわり批判」は、安倍に対する批判でもある。
同じ記者会見で、山口は「多様な生き方を認める寛容な社会を作っていくことが我々の方針だ」と強調したという。
杉田の差別発言を擁護したのが、二階俊博自民党幹事長。24日の記者会見の発言を、朝日はこう報道している。
「自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が寄稿で同性カップルを念頭に「子供を作らない、つまり『生産性』がない」と記述した問題で、二階俊博幹事長は24日の記者会見で「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」と述べ、問題視しない考えを示した。
二階氏は「右から左まで各方面の人が集まって自民党は成り立っている。(政治的立場での)そういう発言だと理解したい」とした。一方で、「当事者が社会、職場、学校の場でつらい思いや不利益を被ることがないよう、多様性を受け入れていく社会の実現を図ることが大事だ。今後も努力していきたい」とも述べた。」
えっ? 「右から左まで各方面の人が集まって自民党は成り立っている」んですって? それは知らなかった。私は、「極右から穏健右派までが集まって自民党は成り立っている」と思っていましたが…。どこかに、左の隠し球でもあるんですかね。
舌足らずの二階発言だが、少し言葉を補えば、こんなことだろう。
「人それぞれの政治的立場や人生観、考え方があって当然。自民党は、右から左まで幅広い多様な立場から成り、杉田発言もそのような多様性の中の一つで、特に問題はない。」
もう少し分かり易く言えば、「思想も表現も自由だ。思想や表現の多様性こそが重んじられるべきで、杉田の差別発言も多様性の内のものだ。批判されるものには寛容が求められる」となろう。
これは、おかしい。杉田の差別発言は多様性を否定する内容。多様性を否定する発言が、多様性尊重のゆえをもって擁護されるのは、論理矛盾ではないか。キミの多様性は認めない。ボクの多様性だけは無限に認められるべきだ。これは、ボクには都合がよい理屈。
表現の自由は、この社会における最重要な価値の一つだが、万能でも無制限でもない。他の諸価値と衝突するときには、自ずから調整され制約を受けざるを得ない。権力を持つ者に対する批判の政治的言論は最大限の尊重を要するが、他の個人の尊厳を傷つける差別言論が許容されてよいはずはない。
LGBTという社会の少数派であり、それゆえに弱い立場にある者を傷つける差別言論が許容される余地はない。杉田議員と二階幹事長には、次の言葉をお贈りしておこう。肝に銘じておかれたい。
「世の中には、言ってよいことと悪いことがある。」「権力や多数派に対する批判の言論は大いに行ってよい。しかし、社会的弱者を差別し侮蔑する言論の自由はない。」
(2018年7月27日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.7.27より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=10804
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7864:180728〕
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