自衛隊の初動には重大な不作為があった(その1)
- 2018年 7月 30日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2018年7月29日
1. 検証のための4つの基礎資料
今回の西日本豪雨災害に関する政府対応が「災害対策基本法」第2条で定められた基本理念、第3条に定められた国の責務を忠実に履行したものだったかどうかを検証するため、ひとまず、自衛隊の初動に焦点を充てて次のような一覧資料を作成した。典拠資料はそれぞれの表の欄外に注記した。
表1 災害の状況と政府の対応
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t1_nisinippongouu_seifutaio.pdf
表2 岡山県倉敷市真備町における被害の状況と政府・地元自治体
の対応
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t2_mabicho.pdf
表3 近年の主な災害の規模と自衛隊の活動規模の比較表
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t3_zieitainosaigaitaiohikaku.pdf
表4 主な被災地での自衛隊の初動の状況
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t_4_shodonozyokyo.pdf
今回の西日本豪雨災害における人命優先の初動について、政府は「先手先手」で「万全の体制」を講じたと力説するが、「空白の66時間」と対応の遅れを批判する論調も見られる。また、気象庁が14時に大雨洪水警報を発表した7月5日夜、安倍首相ほか閣僚数名も出席して赤坂の国会議員宿舎で酒宴が開かれたことにも各方面から批判が相次いでいる。
そこで、政府の初動対応の実態はどうだったのかを事実にもとづいて検証したい。ただ、政府の対応と言っても広範囲な省庁が関わっているが、ここでは人命救助、早期救援を任務とする初動対応に大きな役割が期待される自衛隊の活動を中心に検証する。
2. 活動人員は途中から待機要員も含めて水増しされた
菅官房長官は7月7日、午前11時08分から行われた官房長官会見の冒頭発言の中で「現在、警察・消防・自衛隊が約4万8千人の体制で人命を第一に、捜索、救助活動を行っております」と発言した。
しかし、防衛省・自衛隊が広報した資料によると(上の表4を参照されたい)、その日の14時現在で災害救助に派遣された自衛隊の規模は「延べ人員900名」となっている。
4万8千人の体制の詳細は示されてないが、この数字が実働人員だとすると、残りの約4万7,100名は警察・消防隊から派遣された人員ということなのか? だとしたら自衛隊からの派遣は全体の0.2%に過ぎないことになる。
また、7月8日、9時03分から始まった「7月豪雨非常災害対策本部会議(第1回)」の冒頭あいさつの中で、安倍首相は、「救命救助、避難は時間との戦いです。5万4,000人の救助部隊の諸君が、懸命に救助に当たっています」と発言した。また、会合の後、9時26分から開かれた官房長官会見のなかで菅官房長官は「本日も警察、消防、自衛隊、海上保安庁の救助部隊が人命第一の方針の下、約5万4千人、ヘリ41機の体制で捜索・救助活動に全力で取り組んでおります」と発言した。
しかし、防衛省・自衛隊が発表した資料によると、前日7日20時30分現在で、災害救助に派遣された自衛隊の規模は「延べ人員2,340名、艦艇延べ19隻、航空機延べ7機」となっている。また、総務省消防庁が発表した資料によると、7日、23時現在で各地から広島県、岡山県に派遣された緊急消防援助隊の活動規模(地元消防、県ヘリは含まない)は合計で850名、ヘリ10機となっている。さらに、警察庁の情報公開室に問い合わせると、警察庁が所管する広域緊急援助隊として被災地へ救助に派遣された人員は7月8日、6時現在で550名(同日16時現在でも同数)とのことだった。
政府は5万4,000人体制の詳細(機関別・派遣先別・装備別の内訳)を示していないが、上の数字をもとにすると、54,000名のうちの残りの52,600名(全体の94.1%)は、地元自治体の消防や警察から派遣された人員を別にすると、各地の自衛隊から派遣された人員となるが、実態はどうだったのか?
防衛省・自衛隊の報道発表を調べていて気が付いたのは、7月7日20時30分現在の発表された派遣先別の活動人員を足し合わせると上記のとおり2,340名となるが、翌8日の23時現在と断って発表された活動規模を見ると、官邸の発表形式と同様、派遣元/派遣先別の内訳は消え、総計規模として人員約27,300名、艦艇3隻、航空機10機と発表されただけだった。だとすると、一日で約25,000名が増員され、活動人員は10倍強に跳ね上がったことになるが、実際はそうだったのか?
この点を確かめるため、7月26日、防衛省内の報道発表の担当部署と教えられた参事官室に問い合わせた。3度目の電話でようやくつながった担当官の説明によると、「7月8日から、活動規模の発表の仕方を見直し、人員の中に、指令部、待機中の人員も含めることにした」ということだった。
しかし、「人命救助第一」の初動というなら、被災現場で救命救助の活動に当たった人員、装備(防災ヘリ、ボート)の規模を示すのが常識であり、活動規模の中に司令部や待機中の人員を含むのは不合理である。
3. 7月7日、SOSが殺到した岡山県への救助ヘリの出動ゼロ
3-1 過少な規模
今回の西日本豪雨で気象庁は台風7号が接近した7月5日の14時以降、数次にわたって西日本など広域に向けて大雨特別警報を発表し、土砂災害、河川の氾濫に厳重な警戒を呼びかけた。それを受けて、7月7日、5時30分の時点で広島、福岡、岡山、大阪、佐賀などの府県で、など19の府県で計697,585世帯、1,614,251名に対して避難指示が発令された(消防庁、第8報)。
そして、豪雨による土砂崩れ、河川の氾濫の災害のピークとなった7月7日には電話やツイッタ―で救助を求める声が各地で殺到した(表1の5~8ページ、表2の2~7ページ参照)。また、7月6日夜から7日明け方にかけて、福岡県、広島県、京都府、岡山県、愛媛県、山口県から自衛隊に対し、人命救助のための派遣要請が相次いだ。(以下、ツイッターからの発信)
「大人二人、こども3人、住宅二階に取り残されています。助けて下さい!」(7月7日、9時29分、真備町岡田より)
「救助ヘリを飛ばして下さい。2階も浸水している人が沢山います。早く助けて、お願いします。」(7月7日、10時58分、倉敷市内より)
「おじおば宅60代2人です。冠水のため避難できず2階に取り残されています。救助をお願いします」(7月7日、11時41分、真備町川辺より)
「高齢の両親と身障者の妹と従兄弟の4人二階に閉じ込められています。ベランダにタオルをかけています。救助お願いします」(7月7日、12時38分、真備町岡田より)
「大至急助けてください!子供2人、大人(女性)1人で家の二階に避難していましたが足首まで水が来ており体温がどんどん奪われています!子供が小さく屋根に登っての救助要請ができません!!一刻も早く救助をお願いします!」(7月7日、15時52分、真備町川辺より)
「(岡田より)「助けて下さい バッテリ-が残り少ないとの事で代わりにツイートしています。大人4名(60代2名、40代2名)子供2名(中学生2名)猫1匹 2階建ての自宅の2階にいます。1階はまもなく天井まで水位が上ってきそうな状況です 救助を待っています よろしくお願いします」(7月7日、17時26分、真備町岡田より)
3-2 岡山県への救助ヘリの出動ゼロ
ところが、表4からわかるように、7月7日、14時の時点で自衛隊から派遣された人員は全国合計で900名、倉敷市真備町など大きな被害を蒙った岡山県へ派遣された人員は70名に過ぎず、ヘリコプターはゼロ、ボートも8隻に過ぎなかった。さらに、同じ7月7日の20時30分現在でも活動要員は延べの全国合計で2,340名にとどまり、岡山県へ派遣された人員は80名、ヘリはなおゼロだった。同様に、7月7日、20時30分になっても愛媛県、福岡県、山口県へのヘリの出動はゼロ、広島県へわずかに2機、出動しただけだった。
しかし、被害の規模はどうだったかというと、公表されたのは7月19日であるが、住宅全壊2,847棟、床上浸水15,008棟(いずれも全国合計)のほとんどは7月7日の時点で発生したものと考えられる。
広域に及んだこれだけの規模の被害に照らすと、初動の段階で自衛隊から派遣された上記の規模は極めて少ないと考えられる。特に7月7日明け方から8日にかけて各地で住宅が水没し、2階や屋根、屋上で救助を求めた人々が続出した今回の豪雨災害の特徴からいうと、この時点で自衛隊が派遣した艦艇(救助用ボート)が全国合計で9~19隻、飛行機(救助用ヘリ)が同じく4~7機というのはあまりに少ない。
ちなみに、防衛省に問い合わせると、災難救助のために使われるヘリは輸送用、多用途などの機種という回答だった。そこで、『防衛白書』(2017年版)に掲載された自衛隊が保有するヘリコプター(回転翼航空機)を調べると、保有台数は陸海空あわせて555機、そのうち狭義の戦闘用以外(ここでは輸送、多用途、観測など)は333機となっている。このうち、陸上自衛隊が57機保有する輸送用ヘリCH-47J/JAは1機あたり55名を輸送できる機種である。これらの機種のへリ数十機をなぜ7月7日の少しでも早い時刻に岡山などへ派遣しなかったのか?
なお、消防庁が発表した7月7日23時00分現在の「緊急消防援助隊の活動実績」によると、陸上では愛知、奈良、滋賀の各県から派遣された隊員が、上空では奈良、東京、熊本、大分の各県から派遣された隊員が、総計約310人、ヘリ4機で救助活動に当たっている。ちなみに消防庁がまとめた2017年10月1日現在の消防防災用のヘリコプターの配備機数は全国計で75機となっている。
第5表 自衛隊と緊急消防援助隊の救助ヘリの活用規模の比較
救助に利用可能なヘリの保有機数 7月7日時点の利用機数
自衛隊 333機 4~7機
消防隊 75機 4機
このように災害時の救助用に利用可能なヘリの保有状況の比較から見ても、消防庁の緊急援助隊の初動と比べ、自衛隊の初動が規模の面で過少ではなかったかという疑問はいっそう強まる。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye4421:180730〕
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