「日本政府は核禁条約に署名・批准せよ」 - 「8・6広島」で安倍政権批判の声相次ぐ -
- 2018年 8月 8日
- 時代をみる
- 原爆岩垂 弘広島核
「日本政府は核兵器禁止条約(核禁条約)に署名・批准せよ」。8月6日は、米軍機によって広島に原爆が投下されてから73年。この日を中心に、今年も広島で原爆の犠牲となった人々を悼む慰霊の行事や、核兵器廃絶を求める大会・集会が繰り広げられたが、核兵器廃絶を求める大会・集会では、昨年7月に国連の会議で採択された核禁条約に参加しない日本政府に対し怒りの声が相次いだ。
核禁条約は、122カ国(国連加盟国の6割)の賛成により採択された。その内容は「条約締結国は、いかなる場合も、核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵のほか、核兵器やその管理の移譲、核兵器の使用、使用するとの威嚇、核兵器を自国内に配置、設置、配備することを行わない」とするもので、核兵器を全面的かつ厳密に禁止する画期的、歴史的な条約とされている。
条約を採択した会議を主導したのは非核保有国や非同盟諸国で、米、露、中、英、仏のほか、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮などの核保有国と、米国の核抑止力に自国の安全保障を委ねる日本やNATO(北大西洋条約機構)加盟国は会議に参加しなかった。発効には50カ国・地域の批准が必要で、これまでに14カ国が批准している。
「8・6」を中心とする広島におけるさまざまの催しや大会・集会では、どこでも、この条約をめぐる論議があった。この条約が、今夏の「8・6」の最大の話題であったと言っていいだろう。
6日に平和記念公園で開かれた広島市主催の平和記念式典には、強烈な夏の日差しが照りつける炎暑の中、被爆者、85カ国の代表、各都道府県別の遺族代表、一般市民ら約5万人(広島市発表)が参列した。参列者数は前年と同じだったが、連日の酷暑と、西日本豪雨が広島県下に甚大な被害をもたらし、今なお復興に追われている人たちが多いことを考えれば、今年の参列者数は、被爆から70余年たってもなお市民の間で原爆投下に対する抗議と犠牲者への慰霊の気持ちが衰えていないことを示しているといえるのではないか。参列者は今年も式典会場からあふれ、平和記念公園を埋め尽くした。
【平和記念式典の会場に入れなかった人たちは、平和記念公園内のあちこちに
設けられたモニターテレビの前に集まり、式典を見続けた】
松井一実・広島市長は「平和宣言」の中で核兵器禁止条約に言及し、「核抑止や核の傘という考え方は、核兵器の破壊力を誇示し、相手国に恐怖を与えることによって世界の秩序を維持しようとするものであり、長期にわたる世界の安全を保障するには、極めて危険極まりないものです。為政者は、このことを心に刻んだ上で、NPT(核不拡散条約)に義務づけられた核軍縮を誠実に履行し、さらに、核兵器禁止条約を核兵器のない世界への一里塚とするための取組を進めていただきたい」と訴え、日本政府には「核兵器禁止条約の発効に向けた流れの中で、日本国憲法が掲げる崇高な平和主義を体現するためにも、国際社会が核兵器のない世界の実現に向けた対話と協調を進めるよう、その役割を果たしていただきたい」と求めた。
そこには、各国の政治指導者への訴えはあったものの、核禁条約に参加しない日本政府への批判はなかった。自民・公明の推薦で市長に当選した松井氏としては、安倍政権や政権与党に弓を引くことはできないということだろう。
しかし、原水爆禁止団体や市民団体の大会や集会では、核禁条約に参加しない安倍政権への批判が噴出した。
4日開かれた原水爆禁止日本国民会議(原水禁)の被爆73周年原水爆禁止世界大会・広島大会開会総会(2200人参加)で、あいさつに立った佐古正明副議長は、冒頭で核禁条約問題に触れ、「この条約は被爆者の皆さんや多くの人たちの努力によって成立したものだ。なのに、唯一の戦争被爆国である日本が参加せず、被爆者の皆さんを落胆、失望させている。アメリカとの軍事同盟によって得られる『核の傘』で平和を保ちたいというのが安倍政権の方針だが、真の平和は核兵器では実現しない。日本政府は直ちに条約に参加し、各国政府に対し参加するよう説得すべきだ」と述べた。
同大会の分科会で講師を務めた川崎哲・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員(ピースボート共同代表)は、核禁条約の成立を「世界にとって大きな歴史的転換点」ととらえ、その内容を詳説したが、その中で、「条約は核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵のほか、核兵器やその管理の移譲、核兵器の使用、使用するとの威嚇などを禁止しているが、これらの行為をいかなる形でも援助、奨励、勧誘することも禁じている。日本がアメリカの核の傘に頼るということは、日本のために核兵器を使ってくれ、と米国に頼むいうことだ。つまり、他国に核兵器使用を頼むということだ。そんなことは人道上許されることではない」と述べ、日本政府は条約への参加を急ぐべきだと強調した。
6日に開かれた原水爆禁止日本協議会(原水協)の原水爆禁止2018年世界大会広島閉会総会(6000人参加)は「広島からのよびかけ」を採択したが、そこには、こうあった。
「6月の米朝首脳会談によって、朝鮮半島の非核化と北東アジアの平和体制の確立にむけた歴史的な一歩も踏みだされました。しかし、アメリカの『核の傘』に深く依存する安倍政権は、核兵器禁止条約に背をむけるばかりか、『戦争する国』づくりに執念を燃やしています」「アメリカの『核の傘』からの離脱と核兵器禁止条約への参加を日本政府に強く求めましょう」
生協の全国組織である日本生活協同組合連合会は5日、「2018ヒロシマ虹のひろば」を開催したが、主催者あいさつで登壇した本田英一会長は核禁条約に言及し「日本政府は、米国の核抑止力の中で日本の平和と安全を保障するとして、この条約に参加しないのはまことに残念である。被爆国の政府としてぜひこの条約に参加するよう求めたい」と述べた。
こうした動き対して安倍首相はどう対応したか。
首相は広島市主催の平和記念式典であいさつしたが、その中では「近年、核軍縮の進め方について、各国の考え方の違いが顕在化しています。真に『核兵器のない世界』を実現するためには、被爆の悲惨な実相の正確な理解を出発点として、核兵器国と非核兵器国双方の協力を得ることが必要です。我が国は非核三原則を堅持しつつ、粘り強く双方の橋渡しに努め、国際社会の取り組みを主導していく決意です」と述べるにとどまり、核禁条約には触れなかった。
式典後の記者会見でも「核禁条約は我が国の考え方とアプローチを異にしているものだから、我が国として参加しないとの立場には変わりがない」と語り、これまでの方針を変えないことを明らかにした。
日本の核兵器廃絶運動は、果たして日本政府の核政策・安全保障政策を変えることができるか、どうか。今年の「8・6」は、運動側にに根源的な課題を突きつけたように思えた。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4429:180808〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。