迎え火の頃 「ありがとう、さようなら そしてまた」
- 2018年 8月 18日
- 評論・紹介・意見
- ちきゅう座会員村尾知恵子
今年の暑さは特別、気象庁は「猛暑災害」と伝えている。路上で暮らす夏もまた死と隣り合わせの中にいることになる。
今年もお盆の期間は、これまで亡くなられた多くの仲間の追悼を行っている。この一年では、新宿連絡会の歴史の中に空気のように存在していた仲間、荒井さんと坂本さんが亡くなられた。お二人の事を胸にしっかり記憶してゆきたい。
荒井さんは、21年前から新宿連絡会の諸活動(医療班活動、戸山公園の巡回、特別清掃監視などを中心に)を担ってくれた。連絡会の父だよなと私は勝手に思っていた。バブル崩壊時にご自身も辛い思いをして、そこから再起を計った経験から、多くの路上の仲間に声を掛け、「希望はある」「社会のために働こう」と長年励まし続けてくれた。戸山公園の近くに住んでいたこともあり、毎朝の様に公園を見回り、仲間を𠮟咤激励し続けてくれた。近年は持病のリウマチが悪化し表舞台からは徐々に離れていったが、それでも仲間の健康を、そして行政の施策などを気にかけてくれていた。ご自身、自分の寿命を分かっていたのだろう。寂しい限りだ。この暑い中、おにぎりパトロールの途中、ふと荒井さんならどんな言葉かけをされるのかと。しょっぱい涙が途切れる事はない。
坂本さんは、いつも不機嫌そうな顔をして、しかし誰とでも親しく喋り仲間を心配してくれていた。2002年にホームレス自立支援法ができて、路上生活者の数は確かに減少した。しかし路上の高齢者への対応は考えられていないものであった。そこで連絡会は2007年、高齢者のためのシェルター「麦の家」(借り上げアパート型支援)を一部屋用意してそこから生活保護へ、必要なら医療へ繋げるシステムを作っていった。医療班も関わってはきたが生活全般について坂本さんが一手に引き受けてくれた。あれから10年彼が支えて世話を焼く人も少なくなり、それぞれが、それぞれの道を歩む中、役割を果たしたと思ったのか、それとも、つれない連中ばかりとぼやいたのか、僅かに余韻を残すように逝ってしまった。九州の炭鉱の町に生まれ、育ち、新宿に縁があったのか無かったのか不明。働きながらワンカップを飲み、働けなくなってもワンカップを飲み、誰かを捕まえ、ぼやき、ぼやき。そうやって生きてきた。
あの世では大きな大きな「麦の家」で待ってて!だんだん仲間は増えていくのだから。
以下は、8月12日の新宿連絡会「おにぎりパトロール」で手渡したチラシの写真と、本文の書き起こしである。
迎え火の頃 ―またもや猛暑日連続、熱帯夜も連続。汗をかいたら「水」「塩」の補給。―
仲間たち
台風の当たり年なのか、来ては豪雨、去っては猛暑が続いている。次の台風は沖縄から大陸方面に向かうとのことなので、こちらには影響はなさそうであるが、その代わり、いつ終わるのか、まるで分からぬ猛暑が、連日続きそうな気配である。
この記録的な猛暑は、すでにいろいろなところで悪影響が出ているようであるが、農作物への影響が、すでに夏野菜の不作と高騰であるとかに現れ、これから収穫期を迎える稲の成長にも影響が出るのか、出ないのか、とても心配されるところである。この国の第一産業に、決定的な影響を与えかねないこの異常気象は、経済的にもあまりよい向きにはならないだろう。
東京オリンピックの2年前と、各地でイベントが始まったようであるが、その前に経済が腰を折らないよう、浮かれるよりもそちらの方に気をかけてもらった方が良いと思うのであるが、あまり先の事を考えない国民性なので、なってしまってから、きっと無責任に騒ぎ立てるのだろう。
都会に生きていることは、地方の人々に支えられ、我々も生きることが出来、地方で生きることは、また都会に支えられて生きていると云うことを、自覚することはあまりないかもしれないが、連絡会などをやっていると、そんなことを実感する時も多々ある。まあ、どちらも生きることはしんどいのではあるが、しんどいからこそ、支えたり、支えられたりもする。そんな風にも思えるのである。
迎え火と送り火の間に、色々なことを考えるが、それは静かにであったり、踊ってみたり、酒を飲んでみたりとか、先祖であったり、地域であったり、家族で会ったり仲間であったりと、思いを託す人も、託し方も色々である。
毎年、どこかに設け、年を追う順に写真が増え続けている連絡会の祭壇は、今年は高田の馬場事務所で12日から17日まで設けているので、縁のある人は焼香にでも訪れて欲しい。何をやる訳でもないが、あの世に行ってこの時期だけ戻ってくる、と云われているこの国の民俗に倣い、死んでしまった仲間達と、この時期だけは静かに語りたい。
お盆の時期、シャワーサービスなど連絡会の活動はお休みなしで続けています。街中は静かになるが、繁華街は相も変わらず騒々しいので、あまりいつもの一週間と変わりはしないだろうが、ま、そんな時期でもある。
世は熱中症の話題ばかりであるが、俺らの業界内では結核予防もまた重要な事柄である。
毎年恒例の新宿区保健所が実施する「胸部レントゲン検診会」は、今年は9月4日(火)と5日(水)、午前9時から午後3時半までの受付で、新宿福祉事務所前の駐車場で実施し、「無料」「予約不要」「お土産付き」であるとのことである。今年一度もレントゲン検診を受けたことがない仲間は、だれでも受けられるので参加を願いたい。結核菌の話はまたするとして、そうであっても、なかったとしても、安心感を得るために検診は必須である。
こんな時期だからこそ、あの世に行かぬため、踏ん張ろうと思うのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7920:180818〕
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