ガソリン代値上げはトランプのイラン制裁の余波 - 問われる日本の対イラン外交 -
- 2018年 9月 27日
- 時代をみる
- イラントランプ伊藤力司
経済産業省資源エネルギー庁が12日発表した9月10日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は、3日時点の前回調査と比べて1円ちょうど高い153円10銭となった。値上がりは2週連続で、2014年12月8日(155円30銭)以来、約3年9カ月ぶりの高値。(毎日新聞9月13日朝刊)
ガソリンが日本人の日常生活に欠かせない物になって久しい。1リットル当たり1円という金額的には僅かな値上げでも、ガソリン代値上げは大見出しになり、日本人の生活を直撃する。その値上げの原因は、11月の中間選挙をにらんだトランプ米大統領によるイラン石油禁輸という制裁政策の余波である。トランプ政権は全世界に対して11月からイランからの原油輸入の全面停止を要求し、日本はそれに従わざるを得ないという訳だ。
アメリカの中東政策にとって、イラク戦争とシリア内戦を通じて中東世界に影響力を拡大したイランの存在は最大の脅威である。イラクのサダム・フセイン亡き後、アメリカの最高友邦であるイスラエルを脅かす存在はイランだけになった。さらに1979年のイラン・イスラム革命で、親米のパーレビ国王体制が打倒されたこと。この余波でテヘランの米大使館が3か月以上もイランの学生たちに占拠されたという悪夢もある。
こうしたいきさつから、アメリカ人一般には現イランの宗教国家体制が疎ましい存在に映る。それでもオバマ前政権は2015年、米英仏独中ロ6か国とイランが核開発を凍結する見返りに、関係国が実施してきた対イラン制裁を停止するという協定を結ぶことを主導した。これが包括的共同行動計画(JCPOA)である。話し合いによって、イランと国際社会のトラブルを回避しようとしたのだ。
しかしトランプ大統領は今年5月、アメリカがこのJCPOAから離脱すると宣言、イランに対する制裁措置を実行すると宣言した。これはアメリカ人一般の“反イラン感情”に合致するもので、アメリカ国内ではさして問題にはならなかった。しかしJCPOAを維持してイランとの関係を維持して行きたいと考える欧州側はトランプ方針に反発した。しかし11月から「イラン原油の輸入を全面的に停止せよ。停止に応じなければ、国際取引のドル決済システムから排除する」という脅しには、欧州側も屈服せざるを得ない。
日本とイランの関係については特別の事情があるのだが、結果としてはトランプ旋風に押し流されつつあるようだ。というのは日本とイランは石油をめぐって特別の関係があったのだ。年配の読者の中には「日昇丸事件」というのをご記憶の方もおられるだろう。
1953年(昭和28年)5月、出光石油のタンカー「日昇丸」が英国海軍の厳しい監視をくぐってイランのアバダン港に到着、イラン産原油を満載して日本に帰ったという事件があった。第2次大戦後イランを半占領した英国、その石油会社はイラン産石油の富を独占していた。
しかし民族主義政権を樹立したモサデグ・イラン首相は1951年、石油の国有化を宣言。これに怒った英国は、イラン石油を輸入しようとする外国を警戒してペルシャ湾に海軍艦艇を派遣したが、その目をかいくぐって日昇丸がイラン原油を満載して日本に戻ったことは当時の大ニュースだった。以来イラン国民は、日本に特別の親近感を抱いてきたのである。
こうした事情から、戦後70余年アメリカに追随し続けた日本外交だが、対イランだけはアメリカに全面的に追随すまいと努力してきた。その結果もあって、日本側は世界有数のアサデガン油田地帯の開発権をイラン側から譲許されたのだが、結果としてトランプ政権からの嫌がらせに負けてこれを返上した。おそらく中国が利することになろう。
アメリカ世論調査で最高40%強の支持率しか上げていないトランプ政権は、11月の米中間選挙で与党共和党が上下両院での多数派を維持できるかが、最大の勝負である。その中間選挙を乗り切るには、米国内の政治世論上最も有力なユダヤ閥・親イスラエル勢力を味方に付けることだ。
さらに、アメリカ国民の4分の1を占めるというキリスト教プロテスタントの「福音派」は、強力な親イスラエル集団だという。こうした事情を勘案すれば、トランプ大統領が声高にイラン制裁と親イスラエルを呼びかけることが、何よりの中間選挙対策であることが見えてくる。果たして11月7日、米市民はトランプ政権をどう判断するだろうか。
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