24年にわたる再建への闘いを達成 - KBS京都放送労組3冊目の闘争記録出版 -
- 2018年 10月 10日
- 評論・紹介・意見
- 労働組合隅井孝雄
9月21日、KBS労組は、達成した再建闘争の三冊目の記録、「市民が支えたKBS京都の再建」の出版記念の集会を開催した。24年にわたる再建闘争を中心になってけん引してきたKBS労組古住副委員長はあいさつの中で、この出版をもって再建闘争の終止符としたいと表明した。
集会には闘争を共にしてした、弁護士、学者、文化人、一般市民、闘争の過程で社員化された組合員、そして今は役員となった元組合員などおよそ50人が一堂に会して、長い年月をかけて一歩も引かず展開され、成果を上げた闘争の経過をこもごも語り合った。
▼名だたるフィクサー、経営中枢に入り込む
KBS京都放送はラジオ局として1951年発足、1969年テレビ免許を取得した。経営の主体は長年の京都新聞オーナー白石家であったが、1883年に三代目社長である白石英司社長が急逝して以降、経営は悪化の一路をたどった。そして1989年、それまで10億円だった資本金を倍額増資したのをきっかけに、経営の中枢に当時フィクサーとした名高かった、山段芳治氏(キョート・ファイナンス)とイトマン事件の許英中氏が入り込み、それまでの経営陣は一掃された。
▼KBS社屋、放送設備、機材が担保に
KBS京都放送労働組合が「京都御所の西側に立つ放送局が丸ごと担保に入っている」ことを知ったのは89年の12月。経営の実態調査のため法務局の資料の謄本を閲覧していた担当執行委員が,146億円の根抵当権が設定され、土地、社屋、放送機材の一切が担保に入れられていることを発見した。
1992年6月、債務の返済期限がきた。会社には返済の能力がない。このままでは社屋も放送設備、機材丸ごと競売され、放送局が消滅する。
▼労組が会社更生法申請、再建は曲折たどる
KBS京都の再建と、経営の正常化を目指し、労働組合自らが会社更生法を申請した。武器は従業員未払いボーナス7億円という債権者としての権利、労働組合としてまれにみる経営分析力、民放労連の全国的連帯、そして京都市民の圧倒的支援だった。「放送局の火を消さないで」という市民の署名は40万人に達した。
会社更生法の適用により、更生管財人弁護士古屋野(こやの)康也氏の下で放送免許が継続され、2007年には更生手続きが終結、社員持ち株会を含む新たな経営体制が発足。そして、2015年10月会社再建は完全達成された。総額51億円に上る弁済金を完済したのである。その間さまざまな紆余曲折を組合員は経験した。
更生法に入った後、京セラの稲森和夫会長が社屋売却の圧力を加えてきたが、労働組合がはねつけた(1999年)。稲盛氏は2003年の地上波デジタル化を促進する資金捻出に社屋売却は必要であるとの主張だったが、再建の主導権を握り、放送局を手中に入れたいという思惑も見えた。労働組合は、40億円とも言われたデジタル投資を13億円にまで圧縮する独自の提案を行うことで乗り越え、社屋を守った。
▼膨らむ負債を労組が防ぐ
労働組合が負債の増加を防いだこともある。2004年、外部のプロデユーサーを名乗るM氏が大きなスポンサー収入と、視聴率が期待できるとして持ち込んだメキシコの連続ドラマを放送した、実際にはスポンサーからの入金がなく、視聴者からの反応もゼロ、2億円の利益が見込めるとした契約内容が虚偽であることを労働組合が暴いた。放送を早期に中止させることにより負債の上乗せを食い止めた。
2010年、有力スポンサーであるJRA(中央競馬会)が年間8億円の出稿料の50%削減を提案してきたことも、再建の障害となる可能性があった。労働組合は新しい番組編成案を提案するとともに、JRAの削減を20%以内にとどめる必要のあることを会社側に提案して、危機を回避する事に成功した
▼非正規雇用解消への稀有な闘い
その後、債権完済に向かって進むなか、構内で働く派遣労働者社員の身分安定を図る取り組みを進めたことも特筆される。2012年1月には構内労働者100人の雇止めを撤回させるという、他に見られない成果を上げた。直用化、社員化の闘争も進んでいる。今回(9月21日)の集会でも、社員化されたばかりの二人の女子社員が、参加者の前でお礼の言葉を述べた。非正規雇用が拡大する日本の状況の中では、KBS労組の、非正規社員の組合加入、雇止めの撤回、雇用延長、そして社員化の取り組みは全国的に注目されている。
▼市民の放送を守り抜く
KBS労組は社会問題、政治問題にも敏感に反応してきた。2004年イラク戦争反対の立て看板を社屋前に建て、独自にデモ行進した。会社は立て看板の撤去を京都地裁に訴え、仮処分で一度は撤去されたものの、本訴で会社の撤去申し立ては却下された。2015年には秘密保護法と戦争法に反対するデモを敢行、言論、表現の自由をメインテーマに、市民との連帯の意思を表明して注目された。
再建闘争の重要なスローガンの一つは「市民の放送を守る」だった。労組の呼びかけにこたえて結成された「アクセスクラブ」は市民の募金をえて、ラジオ番組「早川一光のばんざい人間」の1枠で20年にわたって市民の企画と制作費拠出による番組を放送し続けている。この企画に全面的協力を続けてきた早川一光さんが2018年6月死去された。そのため市民のアクセス番組の在りかたについて検討が行われている。テレビで市民が直接その声を届ける枠を持つに至っていないのは残念だが、ラジオアクセス番組は知名度が高く、見習いたいとの声が全国から寄せられている。
”波乱万丈、前代未聞、破天荒な再建闘争に勝利”をうたい文句にした「市民が支えたKBS京都の再建、京都放送労組の闘い」は9月21日の集会に合わせて発刊された(頒価1000円)。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion8067:181010〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。