某新聞社系の週刊誌の取材の返答/安物買いの銭失い国家・日本
- 2011年 4月 19日
- 時代をみる
- 中田安彦
2011年 04月 19日
某新聞社系の週刊誌の取材の返答
中田安彦です。
SNSI の 統一見解などというものはございませんので、私の考えだけを簡単にお知らせします。
1、米対日タスクフォースは東電解体を進める意向なのかどうか、取扱の方向性に関して。もしくは、「ジャパン・ハンドラーズ」の意向について。
⇒米国が東電解体を進めるのは、それにより米国の財界に何らかの合理性があるときです。ただし、今はそれは見当たりません。ただ、ご存知のようにヒラリー長官の来日に合わせて「事態収拾に向けての工程表」が作成され、それが松本外相の手によってヒラリー長官の手に渡ったことは、そのプラン(東電と経産省と原子炉メーカーの作成案だと私は理解しますが)が当然米国で精査されると理解します。
⇒いわゆる「ジャパン・ハンド」の意向は明確です。今回の震災支援に中国とロシアのプレゼンスがほとんどなかったことでわかるように、米国の対日エキスパート、米太平洋軍、米国大使館(国務省)は、今回の危機に乗じて中国が日本への影響力を増やすことを警戒していました。だからこそ空母を東北沿岸にまで派遣したわけです。ですから、米国は今後、原発事故の収束の推移と並行して、数カ月で自由貿易(TPPを少し穏やかにしたもの)や安保枠組みの再定義など日米同盟の「深化」をアジェンダとして掲げてくるでしょう。今回のCSISのタスクフォースの人選にボーイングや安全保障人脈が含まれていたことは、その流れを示唆しています。いわば、出来の悪い子分が犯したチョンボを呆れながら見ているのが今の米国の日本に対する視点でしょう。
2、政府内での東電の扱いに関してのご見解。
⇒ ご質問は東電の今後ということだと思いますが、すでに報道があるように「預金保険機構」型の処理が政府方針となっています。菅首相は「東電を民間のママで残す」と記者会見で話していますからこれが政府方針となるでしょう。いわゆる私が心配した「TBTF(大きすぎて潰せない)」という状況になっています。東電には2兆円の公的資金が注入されますが、これがいずれ東電によってうまく利益や電気代から償還・返還されれば国民負担はゼロになります。ただ、それはないでしょうが。米国の銀行救済や住専問題と似ているが、放射能汚染という点で大きく違うと思われます。さらに、東電に今後も原子力発電所を運転させて大丈夫なのかという問題が残りますが、これも規制を強化したり、よくて30年過ぎた原発を随時廃止する(それでもいまや残り50基となった日本の原発は1年に2基のペースで閉鎖し、新設を行わなければ、25年で脱原発になります)という方針になる程度だと思います。結局、自民党時代の「民族派財界人」の成れの果てが今の電事連です。
3、ヒラリー・クリントン国務長官の来日の狙いに関して、原発を推進させるための政府向けの地ならし、といった見方がありますが、貴戦略研究所のご見解。
⇒ これも私個人の見解ですが、すでに1で述べたように、対中国牽制の米国外交方針が日本政府にすでに告げられており、これがしばらくして本格化するでしょう。米国がオバマ政権のNSCアジア上級部長を中国派のブルッキングス研究所のジェフリー・ベイダーから、神戸総領事だったこともある、ケネス・ラッセル(関西弁が得意)を起用し、舌禍事件のケヴィン・メアのNSC昇格を見送ったと思われます。このシフトは別に震災がなくても既定路線でした。ただし、前原誠司前外相が北朝鮮に接触があるなどの予定外の事態はありました。
また、原発について言えば。GEの炉が問題を起こしており、原発ビジネスではGEと日立は共同して世界展開をする必要があり、先んじてサルコジ仏大統領とアレヴァのローベルジョンCEOが廃炉・放射線水処理の売り込みにやってきたこともあり、ヒラリーとしてはおっしゃるようなことではありませんが、これが米国の反原発に波及することだけは避けたいでしょう。
なお、これは象徴的な意味合いですが、今回の震災は日本の戦後の「第2の敗戦」(マネー敗戦に続く)であると言えます。戦後、日本は60年間ほど米国の属国をやってきましたが、今回の震災対応を見ていると、「まだまだ米国から自立できそうにない」という感想をもちました。日本は原発大国でありながら米国ではとっくに解決されていた原子炉冷却の電源問題でつまずき、当然、開発すべき無人原発処理ロボットも開発が出来ていなかったことが露呈しました。米国の技術を盲信した事による副作用としか言うほかありません。
今は米国も「今後の原子力災害に活かすためのデータ収集」と割り切っているでしょうが、現在のように不安定な日本は、ライバルである中国との関係で米国の利害(基地)を守るために支えざるを得ないでしょう。青森には三沢基地もあります。
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アルルの男・ヒロシです。
米国のプラントメーカーGEの責任問題について、詳しく述べている記事があった。
(貼りつけ開始)
第138回 原子炉メーカーの製造物責任
早稲田大学大学院法務研究科教授・弁護士
道垣内 正人
メーカーにとって製造物責任は大きなリスクである。しかし、原子力損害の賠償に関する法律4条3項は、「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、・・・製造物責任法 (平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。」と定めている。原子力事故の場合の責任主体は原子力事業者(電力会社等)だけであって、原子炉メーカーは責任を負わないのである。 これは責任集中と呼ばれる。
なぜ、原子炉メーカーは製造物責任法の適用除外を受けているのであろうか。それは、日本がアメリカから原子力関連技術の供与を受け、原子力発電事業を始める際にアメリカから提示された条件のひとつだったからである。アメリカの原子炉メーカーとしては、原子炉設備の瑕疵による事故が万一起これば巨額の賠償責任を負うことになりかねず、そのようなリスクを負うことはできないというビジネス判断をしたのである。
アメリカの技術をもとにして原子力発電を始めた国々は、原子力事故の民事責任についてはほぼ同一の法制となっており、それらの国の間では原子炉メーカーの製造物責任は問わないというルールが国際標準となっている。
1986年、チェルノブイリ原子力発電所事故が発生した。ソ連時代に発生した事故であるから、死の灰の飛散により西側諸国の酪農家等が被った損害についてソ連が何らの賠償をしなかったことは不当とはいえ、当時はいかんともしがたいことであった。ソ連の崩壊後、ドイツはロシア型原子炉の危険性を理由として、旧東ドイツの原子力発電所をすべて停止したが、ロシア・東欧の多くの国は主要なエネルギー源として原子炉を稼働し続けた。これをめぐって、上記の問題がクローズアップされた。すなわち、それらの国の多くは製造物責任の特則を設けていないため、西側のメーカーは、ロシア型原子炉の補修工事を受注することによって生ずるリスクを回避したのである。
IAEAは国境を越える原子力事故に備える様々な法的対応をとったが、そのひとつとして、1997年に「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」を作成した。CSCは、責任集中のほか、無過失責任、一定額以上の賠償措置(責任保険、国の措置等による)等を定める法制を有している国が締約国となることができ、締約国で原子力事故が発生した場合には、原則として事故発生国のみが裁判管轄を有することとするとともに、国際基金から一定額が賠償資金として提供されるという仕組みを定めるものである。ロシア・東欧のほか、新たに原子力発電を始めようとする国々に国際基金というバックアップを提供する代わりに、国際標準の原子力損害賠償法制を作ってもらおうというわけである。そのため、CSCは原子力ルネサンスを謳歌して設備の輸出を積極的に行おうとする原子炉メーカー、その多くを擁する日本のためのものであると言われている。
もし、国際標準の原子力損害賠償法制を有していないA国に日本の原子炉メーカーYが設備を輸出し、同国の電力会社Bが発電中にY製設備の瑕疵により原子力事故が発生した場合、A国居住者を中心とする被害者Xらは、日本の裁判所においてYを被告として損害賠償請求訴訟を提起することになろう。この場合、日本は被告住所地国であるので、日本の裁判所は国際裁判管轄を認め、本案の審理に入る。そして、国際私法によれば事故の発生地であるA国法が準拠法となり、同法には通常の民事責任法しかないとすれば、Yは倒産リスクにさらされることになる。
これに対して、もしA国も日本もCSCの締約国になっていれば、裁判管轄は事故発生国に限定されるので、Xらが日本で提訴してもその訴えは却下され、A国で請求するほかない。そして、責任集中を定めるA国法により、A国の電力会社Bにのみ賠償責任があり(A国法上、Bは原子力損害賠償のための責任保険等の措置をとっているはずであり、それに加え、その賠償能力を補うため国際基金から一定額の拠出がされる)、Yに対する請求は認められない。
最近、ベトナムに対する日本からの原子炉の輸出が決まったという報道に接し、日本は進んでCSCを批准するとともに、その世界各国での批准を推進する役割を果たすべき時期に来たのではないかと思う。 (なお、ロシアは現在、責任集中等を定めるIAEAの古い条約の締約国となっている。他方、アメリカ等4ヵ国がCSCをすでに批准しているものの、発効要件である5ヵ国に達せず、CSCは未発効である。)
(掲載日 2011年2月7日)
http://www.westlawjapan.com/column/2011/110207/
(貼りつけ終わり)
記事の日付は地震の前である。この記事を読んで対策を立てていれば、GEだけの設計・納入であった「福島第一原発1号機」のコストとリスクに対する認識が変わったかもしれない。上の免責事項を乗り越えるだけの法的主張を行う、乱暴な米国の弁護士(hired gun)は居ないものか。
結局、日本は「安い原発」というものを米国から売ってもらって、いい気になっていたが、40年目に、そのつけがやってきた、ということなのだろう。コストというものは短期の視点、幅の狭い視点で見るのと、視野を広くしてみるのとでは、全然見え方が違ってくる。
原発は国民生活全体を電力という形でコントロールしかねないものであり、せいぜい個人生活に影響を与える「安物のラジカセ」と話が違う。
属国・日本は米国に色々なことで実験対象になっていた。原発の起こす電気で行ったのは、日本テレビのテレビ放送である。戦後日本はまるごと「トゥルーマンショー」として米国に観察されてきた。日本人はその同じやり方で米国を冷酷に観察できなかった。
「同盟国」という美辞麗句で塗り固めるか、「鬼畜米英」という感情的な憤りの対象。「戦略的競争相手」という冷酷な視点をとうとう持てなかった。
それが今回の原発事故にすべて現れている。
やはり日本は、欧米人から見れば「猿の惑星」だ。映画の中で「猿の惑星」のサルたち(=明らかに日本人のこと)が近代的なコバルト兵器(=核兵器・原発のアナロジー)を神棚に祭っていたにと同じである。こんなことだから何時までも「日本土人(にっぽんどじん)」は成長しない。
http://amesei.exblog.jp/ より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net
〔eye1344:110419〕
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