大変革進行中の中国みたまま(3) ―関心が低くなった?日本人の存在
- 2018年 11月 7日
- 評論・紹介・意見
- 中国坂井定雄
今回、中国旅行から帰国し「中国に行ってきた」と友人や家族に話すと、決まったように「対日感情はどうだった?」と訊かれた。たしかに2010年の尖閣諸島海域への中国漁船団の侵入、2012年の石原都知事による尖閣諸島購入方針表明、野田政権による国有化に対する中国各地での反日デモ、同年12月の第2次安倍内閣発足、安倍首相の靖国神社参拝以来、日中関係が悪化した。ごく一部での出来事だったが、中国で反日デモが日本の商業施設をぶち壊すような事件も発生。それが大々的に日本国内で報道されたことから、以後、日本企業が中国から撤退、縮小する事態が続いた。
10年前まで、中国に行く機会がしばしばあったが、今回は上海、蘇州、北京、東北部の長春、瀋陽を動き回り、昼食、夕食はすべて現地の飲食店で食べた。人が多数集まる上海の外灘、北京の天安門広場にも行ったが、どこでも10年前とはかなり違う感じを受けた。広大な天安門広場出入り口は2、3か所で、全国から集まる人々、団体でぎっしりと行列ができているが、その人々も、チェックポイントの警官も日本人だからと特別な表情を示すことは全くなく、パスポートかホテルのカードですんなり通し、なければ絶対に入れない。
周りの入場者も、何の関心も示ささない。街の飲食店でもレストランでも、日本人だからといって、特別に親切にすることも、そっけなくすることもなく、扱い、態度は街の人々と違いがない。
どこでも街を走る乗用車で目立つのはドイツ車とくにフォルクスワーゲンだ。それにだいぶ離れて次ぐのは日本車か韓国車だろう。
第2次安倍内閣の6年間に、中国にとっても、中国人にとっても、日本との関係がいわば疎遠になり、敵視もしないが、重視もしない他人になったのではないだろうか。だが、世界第2位、第3位の隣国がこんな関係でよいのか。中国は「シルクロード外交」重視で西と南西を向いて力を注いでいるが、日中が外交・経済協力関係をもっと改善・強化すれば、双方にとって利益になり、朝鮮半島をはじめ国際社会への影響力が間違いなく大きくなるはずだ。
▼旧満州国(中国では偽満州国と呼ぶ)旅行の勧め
中国の東北地方では大連に何回も行ったことがあり、大連市の下水処理水を沖合に放流する海中放水路建設を指揮した親しい友人には、いつもお世話になった。北朝鮮、ロシアとも国境を接する吉林省朝鮮族自治州には1週間滞在したこともある。しかし、吉林省長春、遼寧省瀋陽は初めての旅行だった。いうまでもなく、両市は日本支配下の旧満州国時代の新京と奉天だ。長春では、日本に留学して帰国した大学院生が案内役を務めてくれた。
長春は日本軍の侵攻、占領下に作り上げた旧満州国の首都(占領下に新京と改称)。日本が担ぎだして、皇帝の冠をかぶせたのが溥儀だった。
長春には旧満州を軍事支配した関東軍の司令部はじめ、満州八大部と呼ばれた軍事部、司法部、経済部、外交部、文教部、交通部,興農部、民生部の八部の建物と、皇帝溥儀のささやかな執務宮殿、居住宮殿など、数多くの建物が現存している。満州八大部の建物はほとんど省や市が使用しているが、残存ビルでおそらく最大の関東軍司令部があった建物は子供専門病院になっていた。
長春では精力的に動いたので疲れ果て、夕食は北朝鮮料理が自慢のレストランへ行った。北朝鮮料理といえばまず冷麺。8~10人が座れるテーブルごとに仕切っている。ピアノを置いたステージがある。さっそく中国産ビール「青島」と冷麺、他の料理を3点ほど注文して間もなく、そろいの朝鮮民族衣装チョゴリで着飾った若い女性たちの演奏と踊りが始まった。かなり広いフロアでひと踊りすると、フロアから客席を回る。踊り子は5人。ピアノとヴァイオリンの女性は定位置で、かなり上手だ。脇の椅子に、団長と思しき中年の女性が座っていた。食卓から立って、フロアの脇で踊りをみつめ、拍手していたら、曲が日本歌曲の「浜千鳥」になり「上を向いて歩こう」に続いた。他の客と同じような軽い服装をしていたのだが、やはり日本人と分かったようだ。
長春にも瀋陽にも、日本軍の占領支配、偽満州帝国をテーマにした大きな歴史博物館があり、見学者がかなりいた。過酷な写真や新聞コピーなどの展示が多く、中国語だけでなく日本語の説明もかなり率直あるいは乱暴についていた。観客はけっこう立ち止まって読んでいる人もいたが、私たちに目を向ける人は一人もいなかった。歴史は遠くなったのだろうか。
最近、日本では半藤一利著「ノモンハンの夏」をはじめ日本軍の無謀な侵略、旧満州支配、すさまじい数の日本軍兵士たちの犠牲について追及する歴史書、TVドキュメンタリーが注目を集めたようだ。
旧満州(偽満州国)はまだな人に、まずは、長春を訪れることを勧めたい。(了)
1、長春には旧満州国(中国では偽満州国と呼ぶ)の建物がほとんどそのまま保存され、使用されている。写真は旧関東軍本部跡の看板
2、旧関東軍本部の建物。子供専門の吉林大学付属病院になっている。
3、長春にある北朝鮮レストランには毎晩、北朝鮮の歌舞団が出演していて大人気。
(いずれも坂井撮影)
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