「想定外」は許さない・後半/前半
- 2011年 4月 24日
- 時代をみる
- 「想定外」山崎久隆
「想定外」は許さない・後半
最悪のシナリオ全般
圧力容器の構造から、炉底に落ちた燃料の冷却は難しくなるため、燃料の温度が上がりだす。2700度以上にならないと燃料の酸化ウランそのものは溶けないが、圧力容器の鋼鉄は1000度程度でクリープ破壊という現象を起こす可能性がある。そうなると完全な底抜け状態になり、燃料の一部が格納容器内に落下する。下には水が溜まっているので、1000度以上の高温になっている燃料が水に落ちた場合は水蒸気爆発を引き起こすかもしれない。格納容器やコンクリート製の建屋も破壊され、内蔵する放射性物質の大量放出が始まる。原子炉圧力容器も大きく破壊され、大量の燃料が新たに飛び散ることになる。
現時点で内蔵している放射能の1%にも満たない量しか放出されていないと見られる(希ガスは除く)が、水蒸気爆発を引き起こせば数十%にもなるかもしれない。居住不可能地域が今よりももっと拡大してしまう。
さらに3号機がプルサーマル原発であることは今回の原発震災をさらに深刻なものにしている。
プルサーマル用MOX燃料は最初から燃料にプルトニウムを入れている。この燃料体は32体あるが、MOX燃料の欠点は他のウラン燃料と比べて「融点が低い」「核分裂生成物の放出が多い」「中性子を吸収しやすいため制御棒が効きにくい」「放射線放出量が多い」などがある。既にこれも株主総会で指摘されてきた。
通常運転中ならばウラン燃料とは安全上問題になるほどの差は無く「誤差範囲」と国も東電も主張をしていた。それに対して私たちは「極限的状況に陥った際に危険性をいたずらに増大させる」と、強く警告してきたが、こんなに早く実現するとは思わなかった。
全ての燃料は冷却不足となり、上部は溶融状態だと思われる。当然ウラン燃料よりもMOXのほうが破壊は進み、炉の底に降り積もっているかもしれない。
そのような環境で、いつまでも水を入れ続けていると、今度は炉の底で再臨界を起こす危険性もある。ウラン235よりもプルトニウム239のほうが臨界量は少ない。破損し、崩れてしまった燃料ペレットが積み重なった中で、プルトニウムを多く含むMOX燃料がどの程度臨界になりやすいかは、実際のところよく分からないだろう。まさしく実機を使った「核実験」が今ここで行われている。
報道姿勢
初期の、原発で水素爆発が起きた頃、テレビでは遠景で撮った爆発映像を繰り返し流しておきながら、何が起きているのかをほとんど説明できなかった。国や東電がまともに情報を出さなかったため、「コメンテーター」と呼ばれる「素人」が勝手な憶測を並べ立てた。情報が出てこないこと、一方では周辺からの避難指示、これを総合すれば大変な事態になったことは誰もが想像できるだろうに、何故か「データを出せ」「責任あるものが調査をせよ」等の指摘がほとんどされず、枝野官房長官、保安院の西山審議官、そして東電の記者会見をつなぎ合わせるだけ。これは冗談にも報道などと言える次元では無い。いつもならば「行くな」という場所だろうとずけずけ入り込むメディアが今回に限り「30キロ離れた場所から撮影する鮮明化した」と称する、よく見えない画像を背景に、ほとんど理解できない解説を繰り返した。
最初の一週間が個人の健康を守るために最も大事だった期間だったのに、正確な情報を伝える責任を放棄した報道の姿勢には心底怒りがわく。そのうえで、国や東電発表をそのまま垂れ流したあげくに市民からの警告を「風評被害」と切り捨てたり、これほどの大災害を引き起こしてきた原発に対し「この事故を終息させれば世界に原発を売り込める」などと、自らがデマと風評を広めるような発言まで発信している。
いまマスコミに必要なのは、大きな主張として言うかどうかはともかくとしても、これだけの原発震災を、ほとんど何も警告できなかったことと、市民からの警告を全く取り上げなかったことを自らの報道姿勢の欠陥として、真摯に受け止めることであろう。
(了)
(初出 脱原発東電株主運動206号)/ たんぽぽ舎◆地震と原発事故情報その50◆より転載。
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「想定外」は許さない・前半
地震発生2011年3月11日午後2時46分、その約1時間後に原発震災発生
「想定外」この言葉が東電から出たのは原発震災が起きた翌日の3月12日だった。想定していた津波の高さはわずか5.7メートル、襲ってきた津波は少なくても13メートルに達し、原子炉建屋でも地上から4~5メートルの高さにまで達した。
このため原発の冷却に必要な海水ポンプ、非常用ディーゼル発電機が起動不能となり、冷却能力を失った。地震の影響で外部送電鉄塔も倒壊していたため、全交流電源喪失いわゆる「ステーション・ブラックアウト」という事態になった。
米国NRCは災害で東電と同じ沸騰水型軽水炉の炉心溶融を引き起こす原因は、約50%がステーション・ブラックアウトであると解析する文書「NUREG-1150(ニューレグ1150号)」を1990年に既に出していた。この中の事故シナリオは気味が悪いほど今回の原発震災に似ている。
しかしニューレグ1150さえ予想しなかったのは、そのような原発震災が4基も並んで起きることだった。1基の原発でさえ起こるとしても百万炉年に数度(一基が百万年でも100基×1万年でも百万炉年)という確率であったはずが、並んで4基が原発震災で破壊されている。
東電はもちろん知っていた。津波対策が5メートル程度だったことを。それに10メートルを大きく超える津波が襲いかかれば、ひとたまりも無いことを。株主総会でも何度も取り上げられ、保安院や東電などとの度重なる話し合いでもテーマになってきた。ただ単に「そのような津波を想定していません」というだけのことで、それ以上の津波が来ればステーション・ブラックアウトから炉心崩壊に至ることは十分知っていた。つまりは「想定された」ことなのだ。
東電の原発震災初動対応
このような事態になれば、唯一必要なのは「冷やすこと」であり、これに失敗すれば必然的に「閉じ込める」ことは出来なくなることも十分「知っていた」。
ところが異様なことが起きる。地震で道がずたずたなはずなのに、電源車を51台送ったという。電源を復旧するならば倒壊した送電線を修理し系統電源の復旧を急げば良いのであって、地震で通れもしない道を走らせているとはどういうことか。よしんば電源車が有効だというのならばフェリーで運ぶのが常識だろう。急がば回れの常道が何故か放棄されて、無茶な方法ばかりがここからは強行される。
そのもう一つの無茶が海水投入だ。政府が強行させたという話もあるが、水が無いならばせめて近くの川などから持ってくるべきで、突然海水を炉内へというのは意味が分からない。その後明らかになったことは、真水は構内にいくらでもあったということ。ただし低レベル廃液であったが。
低レベル廃液と言ってもレベルは炉内にある冷却材とさほどかわらない。海水よりはよっぽどましだ。
現状は
海水を入れると、当然塩が溜まる。塩は約800度で溶け出すため、燃料の表面温度が高いと塩が冷却の妨げとなる。さらに、現在は燃料の一部はさや管のジルカロイ(ジルコニウム合金)が溶けてしまい、炉の下の「下部プレナム」と呼ばれるところに崩れて溜まっている可能性がある。その表面をがれきや塩の結晶が覆い尽くすと、冷却できないまま蒸し焼き状態となる。原子炉圧力容器は鋼鉄製だが、下には制御棒駆動機構の案内管や中性子計測装置のケーブルを通すインコアモニタハウジングと呼ばれる管が100本以上突きだしている。この管はステンレス製で厚さも5~10ミリ程度しかない。溶接線やステンレスの管が溶けて脱落したくさんの穴が開いた状態になっている可能性がある。さらに再循環ポンプにつながる配管が出口で2カ所、入り口で10カ所のノズルを介して取り付けられているが、この配管も損傷している可能性がある。再循環系の配管の大きな損傷があったとしたら、その原因は何か。地震による揺れで破損した可能性はまだあると思う。しかし今となってはそれを確かめる術もほとんど無いかもしれない。(後半は、次号となります)
(初出 脱原発東電株主運動206号)/ たんぽぽ舎◆地震と原発事故情報その48◆より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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