第165回ラテンアメリカ探訪のお知らせ(1月22日)内的な亡命者と詩人――ビクトル・エリセの映画『エル・スール』(1983)が表していること
- 2018年 12月 24日
- 評論・紹介・意見
- 土方美雄
『ミツバチのささやき』(1973)で名高いスペインの映画監督ビクトル・エリセは、1939年のスペイン内戦終結間もない、1940年の生まれである。スペイン内戦(1936-1939)は、民主的国家の樹立を目指す共和派と、それに対して軍事蜂起した反乱軍とで争われた戦いであり、結果的に反乱軍の勝利で終わった。勝利した反乱軍は、民主的とはまったく正反対の独裁国家を樹立し、国全体を厳しい統制化においた。
そのため、内戦中に争った相手であった元共和派の人々は戦後激しい弾圧にあい、とりわけ内戦終結直後の1940年代にその凄惨さは極められた。エリセはそんな1940年代のスペインにおいて幼少期を過ごしたのであるが、そうした社会の状況の中で、彼は「内的な亡命者」の存在を感じ取っていたという。内戦後の独裁国家による弾圧は、多くの元共和派の人々の処刑、また亡命を引き起こした。
しかしさまざまな理由から国外へ出ることができず、命の危険を絶えず感じながら国内にとどまった元共和派の人々もいた。当時は国から密告が推奨されてもいたため、こうした国内にとどまった元共和派の人々は、自分の考えを表すどころかただ存在しているだけでも、周囲との間に深刻な違和を感じずにはいられなかった。エリセが語るところでいえば、「自分自身から亡命しなければいけなかった(…)根本的な亡命状態」に、彼らは追い詰められていたのだ。このように、内戦後のスペイン国内において独特な亡命状態にあった元共和派の人々、それが「内的な亡命者」である。この「内的な亡命者」が、どれほどの絶望の淵にあったかは想像に難くない。そして幼少期のエリセは、そんな漆黒の絶望を日々感じ取り続けていたのである。
エリセは、その映画作品における洗練されたスペイン内戦に関する表現が高く称賛されてきた映画監督であるが、その創作の源泉にあるのは、彼が幼少期に感じ取っていたこの「内的な亡命者」の絶望が救い出される、その方途の探求であったと考えられる。今回は彼の第2作である『エル・スール』(1983)を取り上げ、撮影されず脚本のみが残っているこの映画の第2部も含めた作品分析、またエリセが20代の頃より継続している批評活動における思索(その中に表題にある「詩人」が出てくる)を通じて、エリセのその探求が行き着いた先を考えてみたい。
これは、遠い外地の過去の遺物についての考察ではない。科学技術の発達や新たな社会規範の設立などが、人に周囲の世界に対する不信をますます高めさせ続けている現代において、「内的な亡命者」が抱えている亡命状態というのは、私たちに対して強い切実さをもっているに違いない。まさにエリセは、この「内的な亡命者」という問題を、「ぼくたちの時代の大きなテーマ」としても語っているのである。
日時=2019年1月22日(火)午後7時~9時
※いつもと曜日が異なります。
会場=千代田区和泉橋区民館5階洋室D
秋葉原駅昭和通り口下車徒歩3分、書泉ブックタワーの隣
発題者=三宅隆司(立教大学大学院映像身体学専攻)
会場費=400円
お問い合わせ等は、
土方美雄 hijikata@kt.rim.or.jp
まで。
ラテンアメリカ探訪(旧メキシコ学勉強会)HP
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8249:181224〕
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