あらためて聞きたい、「元号」は必要ですか?
- 2018年 12月 28日
- 時代をみる
- 元号田畑光永
年末雑記 2
来年の現天皇退位、新天皇即位に関連して、新元号をいつ公表するかで政府と自民党保守派が対立していると伝えられる。政府は国民生活への影響、混乱をさけるために5月1日の新天皇即位の1か月前をめどに事前公表を目指すのに対して、自民党内外の保守派が反対しているということらしい。
新元号は政令によって定められるが、事前に公表すると新天皇即位までの間は2つの元号が併存することになり、「一世一元」の原則に反する、あるいは新元号は新天皇が自ら政令に署名して、「公布」されるまでは知らせないのが正しいありかただ、などが、事前公表への反対理由だと言われる。
この反対論には驚く。元号をなにか「神聖不可侵」なものに祭り上げて、国民がその前にひれ伏す姿を望ましいとする発想が感じられるからだ。当然のことながら、元号といえども新天皇が即位したとたんにありがたくも天から降ってくるなどというものではない。「政府が考案を委嘱した有識者からの案を整理し、複数の原案を選ぶ。衆参両院の正副議長や閣僚らと協議したうえで1案にしぼる」(『日本経済新聞』12月21日)ものらしい。要するに官僚と政治家が決めるものだ。だからどうでもいいとまではいわないが、別にもったいないものと押し戴いて、天皇の署名を経て公布されるまでは絶対秘密にしておかねばならないというほどのものでもないだろう。
元号変更に伴う混乱をさけるために4月中に公表するというのは、首相官邸事務方トップの杉田和博官房副長官の主張だそうだが、まっとうな考え方である。それに反対しているのが安倍首相に近い衛藤晟一首相補佐官が代表する保守派という構図だそうで、大体のことは「私の手で解決」したいはずの安倍首相は「よく話し合ってください」と逃げの姿勢とか(『毎日新聞』12月18日)。
そこで聞きたいのだが、元号は必要なものなのだろうか。人間集団の住むそれぞれの世界が狭かった時代には、その集団独特の年号が必要でもあり、考案されただろうが、現在は一国独自の年号の必要性はほとんどない。というか、自分の生活を見回しても元号が生きているのは運転免許証と預金通帳の出し入れの期日の欄(これは元号なら2桁ですむからだと思われる)くらいしかない。菊のご紋章のついた「日本国旅券」は発行日も有効期限も西暦で記入されている。新聞は両方の併記が多いようだが、大体は西暦が先で「平成」は括弧のなかである。
西暦に一本化するとなると、なにか日本独特の伝統を1つ捨てるような感覚があるのかもしれないが、それは考えすぎではないか。日本の歴史を読むにしても、当時の元号だけでは、出来事の後先はさっぱりわからない。どうしても西暦の助けを借りなければならない。
1つ思い出す光景がある。1992年に天皇皇后両陛下が中国を訪問された。北京で中国科学院を訪れた際、入り口で芳名録への署名を求められた天皇は「明仁」と書いて、筆をおいた。中国側の接待員が「期日もお願いします」と言い、通訳からそれを聞いた天皇は軽く右手を振って、その場を離れた。その後、行われた宮内庁の随行員の記者会見で、私はその理由を尋ねたが、明確な答えは得られなかった。推測するに天皇は外国で「平成4年」と書くのも非礼だし、さりとて西暦も書きにくいということで書くのを避けたのではなかったろうか。
もう1つ、こんなこともあった。たまたま同じ1992年だが、シンガポールで中国と台湾の代表の会談が、内戦の終結後初めて行われた。この時は、「双方はともに中国人であるということを確認し合った」のが会談の「成果」とされ、現在ではこれを北京政府は「92共識」(共通の合意)と名付けて振りかざし、蔡英文政権にそれを認めるよう迫っている。ところがこの時、その「共識」の日付を書くところで双方は対立した。北京政府側は西暦を主張し、台湾側は中華民国成立の1912年を元年とする中華民国暦を主張したのだ。そして、ともに譲らず、結局この時の合意文書は年号なしの日付だけとなった。それに今、勝手に「92共識」などと年号を付けて、認めろと迫られても、台湾側はおいそれとは呑めないかもしれない。
閑話休題。元号のようなものは簡単で普遍的に通用するものがいい。そこにいろいろなものを載せて考えるとおかしなことになる。明治、大正、昭和、平成とならべれば、今はまだそれぞれの時代像を思い浮かべる人もいるだろうが、それも世代が代われば急速に色あせて、残るのはたいして意味のない漢字の行列だけだ。現代人にとって昔の元号がそうであるように。
元号がなくなっても、天皇にはそれぞれ立派な名前があるのだから、その時代を表すには天皇の名前で表すほうが合理的であるし、それが歴史に残るほうが元号だけが残るよりいいのではないだろうか。官僚と政治家の自己満足のためにあるような元号制はやめようではありませんか。
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