ドイツ社会の現実:女性の年金生活者の貧困問題 《3月8日の”国際女性デー(International Women’s Day)”を記して》
- 2019年 3月 14日
- 時代をみる
- グローガー理恵
はじめに
国際女性デー (International Women‘s Day)とは: 男女権利平等 と女性権利の庇護を訴える国際的なムーブメント。1904年3月8日にアメリカのニューヨークで起こった婦人参政権を要求するデモが、この国際女性デーの起源となった。1975年の「国際婦人年」には、国連が、3月8日を「国際女性デー(International Women‘s Day)」と制定した。今日、3月8日の”国際女性デー”は女性の権利を象徴する国際的なイヴェント・記念日となっている。
ドイツ帝国に禁止された ”国際女性デー(Frauentag)ー1914年3月8日 ”のポスター
ポスターは「女性に参政権を与えよ (Heraus mit dem Frauenwahlrecht)!」と要求し、「1914年3月8日(日曜日)の午後3時から9つの婦人集会を開催する予定である」と述べている。ドイツ帝国はこのポスターを禁止した。
その数年後の1918年11月、ドイツ革命(1918年~1919年)が起こり、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が退位され、ドイツ帝国は打倒された。そして、1918年11月30日にはドイツ女性に参政権 (選挙権/被選挙権)が付与されることになったのである。
2019年3月8日 の”国際女性デー” – ドイツにおける女性年金生活者の貧困問題
3月8日、”国際女性デー”の特集として、ドイツのラジオ放送局 ”Deutschlandfunk” とドイツ/スイス/オーストリア共同テレビ局“3SAT”による「ドイツの女性年金生活者の貧困」をテーマにした番組があった:
番組は、ベルリンにあるフードバンク、”ターフェル [*注1]”で食品の配給を受けている二人の女性高齢者に焦点を当てている。
写真:ベルリンのターフェル(撮影:Dagmar Schwelle、Tafel Deutschland e.V)
[*注1] ”ターフェル (Tafel) ”:ドイツのフードバンクのことで、売れ残った食品や包装の傷みなどで販売できなくなった食品を失業者やホームレス、低所得者、年金生活者などの生活困窮者に無償で配給している慈善団体である。ターフェルとは独語で”食卓”という意味がある。
……ベルリン-ノイケルンにあるターフェル食品配給所には架台式テーブルが並び、その上には果物や野菜、パン、ケーキ、花、縫いぐるみなどが入ったケースが積み重なって置かれてある。ガビとウテはそれぞれのショッピングカーに沢山の食品を積み込んだ。彼女たち持参の大きな袋も食料品で一杯になった。
ウテは63歳。彼女は老人ホーム介護士として働いていたが、職業柄要求される肉体的負担に耐えることができなくなり早期退職した。ガビは75歳。ベルリンのデパートで店員として働いていた。40年前に離婚し、一人で子どもたちを育て上げた。彼女たちのひと月の生活費は400ユーロぐらい(約50,280円)である。
ガビ:「そうね、わたしがもらう年金は(ひと月)695ユーロ、その他にベーシックインカムとして195ユーロもらっているから、合わせて900ユーロね。そこから支払う家賃が489ユーロ。それに付け加えて、電気代、電話代、保険料を払わなくちゃいけないし…。ターフェルに来て食品を無料でもらうようになったけれど、その前はね、自分で食品を買ってたでしょ。それで何度も何度も考えなくちゃならなかったの。『今、パンを一つ買おうか?でもリンゴも食べたいし…でもパンとリンゴ両方を買えるような余裕がない。それでパンだったらお腹いっぱいになるし』って考えて、リンゴを買うのはあきらめて、パンをひとつ買うことにしたのよね。」………
女性年金生活者の貧困化の要因
女性が受け取る平均年金額は男性の平均年金額の60%にすぎない。高齢者になって貧困に悩む女性の数は男性よりもはるかに多い。彼女たちの年代は、キャリアを求めることよりも良い結婚相手を見つけて結婚し家庭を持つことの方が重要であると見なし、良い教育を受けることに重点を置かなかった。彼女たちは、働き盛りの時に子どもの教育や家族の介護のために貢献し、仕事に就いても低賃金に甘んじることになり、このことが低年金へと繋がっていった。
さらに、女性高齢者の貧困化に寄与したファクターとして:労働市場の自由化、労使間交渉の弱体化、継続的に年金水準を下げつづける政策などが挙げられる。
ドイツ社会の現実:貧困に脅かされているのは女性年金生活者だけではない
2018年12月に公表された、ドイツの社会福祉連合”Der Paritätische Wohlfahrtsverband(デア・パリテーティシェ・ヴォールファートファバント)“によるスタディー 「2018年貧困報告書(Armutsbericht 2018)」は、ドイツの相対貧困率が15.8%という、東西ドイツ統一以来、最も高い貧困率を示していた。すなわち、現在、ドイツには1400万人近くの貧困者がいる、ということである。
また、ターフェル (Tafel) ウェブサイトに掲載されたデータによると、ドイツ全国でターフェル上部組織のもと942のターフェルがあり、2000以上の食品配給所があるという。現在、ターフェルの食品配給を受けている人々の数はおよそ150万人。ドイツは経済豊かな国のはずである。しかし、150万人もの市民が食品配給に頼って生活していかねばならないという事実は、ドイツ社会における貧困問題がいかに深刻なものであるか、ということを物語っているのではないだろうか。
以上
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《参照記事》
Deutschlandfunk: https://www.deutschlandfunk.de/schwieriger-ruhestand-wie-frauen-mit-altersarmut-umgehen.1148.de.html?dram:article_id=443005
3Sat ”Kulturzeit”: http://www.3sat.de/mediathek/?mode=play&obj=79484
ターフェル・ホームページ:https://www.tafel.de/
Der Paritätische Wohlfahrtsverband (社会福祉連合)スタディー「2018年貧困報告書 (Wer die Armen sind-Armutsbericht) : https://www.der-paritaetische.de/fileadmin/user_upload/Schwerpunkte/Armutsbericht/doc/2018_armutsbericht.pdf
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye4574:190314〕
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