スキージャンプW杯の歴史を作った小林陵侑選手
- 2019年 4月 2日
- カルチャー
- スキージャンプ盛田常夫
日本では今一つ、注目されないスキージャンプだが、ヨーロッパでは冬のスポーツの花形競技である。長く低迷が続いた日本ジャンプ陣は今シーズン(2018-2019年)、大きな飛躍を遂げた。
3月24日のプラニツァ(スロヴェニア)のスキーフライング台(ラージヒルのおよそ2倍のサイズをもつジャンプ台)で個人最終第28戦を行い、小林陵侑(りょうゆう)選手が本戦1回目のジャンプで、プラニツァの最長記録を塗り替える252m(歴代2位の世界最長記録。世界記録はオーストリアのクラフト選手の253.5m、ノルウェイのヴィケルスン・ジャンプ台、2017年)の大ジャンプを披露し、2回目も230.5mを飛び、2位に20.9ポイントの差をつけ、有終の美を飾った。これまで250mを超えるジャンプを記録した選手は、小林陵侑選手を除き4名いるが、4名の記録はみなノルウェイ・ヴィケルスンのジャンプ台の記録である。
W杯総合優勝
2018-2019年のW杯スキージャンプ大会は、2018年11月18日に始まり2019年3月24日に終わるおよそ4ヶ月にわたる長丁場の戦いである。異なる形状やヒルサイズのジャンプ台を転戦してポイントを競い合う。
予選を通過した50名の選手が本戦で2回のジャンプを行い、勝敗を決する。2回目に進めるのは30名だけで、W杯ポイントが付くのも30位までである。2回目に進めない選手のポイントはゼロである。
優勝者100点、準優勝80点、3位60点、4位50点、5位45点と、点数が次第に低くなり、21位の選手が10点で、30位の選手1点である。今シーズンの場合、28戦の合計獲得ポイントで、総合優勝者が決まった。以下が日本選手の総合順位と獲得ポイントである。
1位小林陵侑2085点、19位小林潤志郎335点、23位佐藤幸椰(ゆきや)316点、32位伊東大貴145点、37位葛西紀明88点、39位中村直幹(なおき)72点。
W杯1シーズンの13勝は、W杯通算53勝の記録をもつシュリーレンツァウアーが2008-2009年に記録した1シーズン13勝に並ぶ記録である(総合ポイント2083点)。1シーズン13勝は当時の世界記録だったが、2015-2016年にスロヴェニアのピーター・プレヴツがシーズン15勝の驚異的記録を達成し、これが歴代記録になっている(総合ポイント2303点)。
小林陵侑選手に次ぐ総合第2位のクラフト選手は総合点数が1349点だから、実に2位に700点以上の差を付けたダントツの総合優勝だった。
また、プラニツァの前に行われた3月17日のスキーフライング大会(ヴィケルスン)では、TVの解説者は小林選手の優勝を告げたが、実際にはわずか0.1点差でドメン・プレヴツが優勝をさらってしまった。飛型点の評価が小林選手に厳しく、これを制覇していれば、単独2位の14勝を達成することもできた。
各種シリーズを総なめ
W杯28戦の中で、各種のシリーズ総合優勝者が決まるイヴェントがある。それぞれのシリーズの総合優勝者には、スポンサーから歴史ある優勝杯のほかに、賞金と副賞が贈られる。
一番格が高いシリーズは、年末から年初にかけて、ドイツとオーストリアの4つのジャンプ台で総合点を競うFour Hills Tournamentである。欧州伝統の「ジャンプ週間」と呼ばれる特別な大会で、67年目を迎えた今シーズンの大会で、歴代3人目となるグランドスラム達成者(4つの大会すべてを制覇)となった。この大会の得点集計は、4つのジャンプ台8本の生得点をそのまま集計するもので、小林陵侑選手は2位に62点差をつけてグランドスラム達成の総合優勝を飾った。
二番目に格の高いシリーズは、Raw Air Competitionと呼ばれるシリーズで、10日間でノルウェイの4つのジャンプ台(ホルメンコーレン、リレハンメル、トロンドハイム、ヴィケルスン)で行われるW杯記録を集計するものである。ここには個人記録とは見なされない団体(国別対抗)競技の生点数と予選点数が一つずつ加算され、合計10本のジャンプ記録を集計して総合優勝者を決める。予選や団体競技から手の抜けないシリーズである。2019年の小林陵侑選手は2461.5点で、Raw Airと通称されるシリーズの総合優勝者となったが、2位のクラフト選手とは僅か2.9点の差だった。
三番目に格の高いシリーズは、スキーフライング台を使った6つの大会の個人記録総合を競うSki Flyingである。今年のジャンプ台は、ドイツ・オーベルスドルフの3回のジャンプ、ノルウェイ・ヴィケルスンの1回のジャンプ、プラニツァの2回のジャンプ記録を総合するが、生得点の集計ではなく、順位にもとづく得点を合計する。オーベルスドルフ大会を終えた時点で、トップはポーランドのストッホ選手で、小林陵侑選手は6位と低迷していたが、ヴィケルスン、プラニツァの二つの大会で逆転し、2位のアイゼンビヒラー選手に36点差を付けて、このシリーズも制覇した。
四番目に格の高いシリーズになるプラニツァ7 (Planiza Seven)は、W杯最終戦が行われるプラニツァで行われたすべてのジャンプ、つまり個人予選(1回のジャンプ)、1回目の個人競技(2回のジャンプ)、団体競技(2回のジャンプ)、2回目の個人競技(2回のジャンプ)の合計7本の生得点の合計を競うシリーズである。小林陵侑選手は2位のアイゼンビヒラー選手に29.2点の差を付けて、プラニツァ・シリーズ優勝で、個人最終戦優勝の花を飾った。
五番目になるシリーズは、ヴィリンゲン5 (Willingen 5)は、2月中旬にドイツ・ヴィリンゲンで開催されたシリーズで、個人予選(1回)、1回目の個人競技(2回)、2回目の個人競技(2回)の合計5本の生得点の合計を競うシリーズである。小林陵侑選手は2位のズィラ(ポーランド)選手に28.9点差を付けて、このシリーズでも優勝を飾った。
かくして、2018-2019年のスキージャンプW杯において、小林陵侑選手は総合優勝のみならず、5つのサブシリーズすべてに優勝を飾り、完勝したのである。これは前人未踏の記録であり、当分の間、この記録は破られそうにもない。小林陵侑選手はスキージャンプW杯の歴史に名を残す、驚異的な成果を残した。日本でもっと注目されて良い。
世界選手権では天候に災いされ表彰台を逃したが、これ以上は望めない記録ずくめのW杯を終えた。スキージャンプは好調を維持するのが難しい競技である。来シーズンもまた、今シーズンに匹敵する結果を期待したい。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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