憲法改正国民投票のCM野放しに批判 - 民放連、形ばかりのガイドライン発表 -
- 2019年 4月 19日
- 評論・紹介・意見
- テレビ憲法隅井孝雄
▼国民投票CM野放し、改憲派に有利だと批判の的
国民投票法では投票2週間前からのテレビスポットが禁止されているが、それまでの間は自由とされている。民放連は「国民投票運動の自由を尊重する」として反対派,賛成派のCMについての量的規制は行わないと決めている。それに対し「改正派を利する」との批判が寄せられている。
護憲派市民グループや護憲派政党は国民投票が始まることになれば、資金豊富な改憲派がテレビCM枠を大量に買い占め、世論誘導に活用するのではないかと強い警戒感を表明している。
▼民放連ガイドライン公表、立憲民主、国民民主はCM規制主張
そんな中、3月20日、日本民間放送連盟(民放連)が、「憲法国民投票ガイドライン」を公表した。
民放連ガイドラインでは、特定の広告主のCMが一部の時間帯に集中して放送することを避ける、売名につながりやすい個人出稿のCMは扱わない、児童、青少年の出演は十分な配慮を行う、企業広告や商品広告に付加して意見や主張を盛り込む広告は扱わない、CM内で国民投票CMであることを明示する・・・・などとしている。
また政党や政治活動を行う団体がCMを出す場合、公職選挙法の禁じる選挙事前運動と混同されないよう、党首や代表者に限定するとした。
さらに、「視聴者の心情に過度に訴えかけ、事実と異なる印象を与えると判断されるCMは取り扱わない」ともしている。ガイドラインは合わせて19項目。しかし、民放連が規制をかけるのではなく、あくまで最終判断は放送する局に任される。
特定広告主が特定の時間帯に集中ことを回避するよう婉曲に促していると受け取られているが、あいまいな表現にとどまっており、資金豊富な組織がCMを集中的に投入する可能性がある、という問題は残ったままだ。
これに対し、立憲民主党はCMでの意見表明を全面禁止する案を、国民民主党は政党のCMを禁止し、民間団体のCMも5億円を上限する案を提案している。
▼アメリカはCM多用、ヨーロッパはCM原則禁止
アメリカでは国民投票は行われていないが、州の住民投票はひんぱんに実施されている。そしてスポット・コマーシャルが州単位のテレビ放送、市町村単位のラジオ放送で多用されている。基本的には規制条項はなく、言論、表現の自由の一環とされている。日本の民放連もアメリカの制度にならったものとみられる。
ところが公共放送が主流のヨーロッパでは、CMによる意見広告は原則禁止であり、それに伴って、住民投票、国民投票の広告放送はほとんどの国で認められていない。
2016年6月にイギリスでEU脱退か否かの国民投票が行われた際、イギリスの公共放送BBCは積極的な自主番組を数多く編成、放送した。
「アワー・ワールド、世界は今、ユーロピアン・ドリーム」は欧州統合の動きを65年にさかのぼるとともに、一つの欧州という理念の揺らぎをとらえるドキュメンタリー番組であった。
また「EU移民の真実」では英国に移民してきた人々の、貢献、苦難、問題点を中立的な視点からとらえた。さらに国民投票の直前には「EU国民投票大討論会」と銘打つ長時間テレビ討論を、BBCプレスセンターから公開生放送した。
BBCワールドのネットワークを活用しパリ、オランダ、スコットランドからの生中継放送を4日間にわたって生放送で伝えた。
イギリスにもCMを財源とする、民間放送があるが、国民投票法ではCMによる放送は禁止されていたため、もっぱら報道番組として編成が組まれ、テレビ討論番組の形式での国民的論議が展開された。この中にはソーシャルメディア上のライブストリーミングも含まれていた。
▼テレビCMでの国民投票キャンペーンは邪道、番組で世論喚起を
元広告会社出身で、国民投票CMが野放しにされている危険性を訴えている本間龍さんによると、日本では巨大広告会社D社が政府広報系のCM枠を一手に握っている。広告枠に投下する資金が仮にあったとして、枠は自民党、国民会議系の「広告主」が事前に抑えてしまうことが可能だ、という。
現在、ある特定著名企業が地上波、地上波系BSの43番組でCMを流している。あまりにも繰り返し流れるので、誰でもが一度は目にする。そしてなぜかそのうち70%は報道系の番組だという。扱い代理店はD社。この枠が、国民投票になるとそっくり改憲派のCM枠に転化するのではないかと、一部の広告関係者の間でうわさされている。
こんなうわさが出るのも、水面下での国民投票準備が進んでいることを示唆しているのではないだろうか。
日本国憲法を変えるか、第9条を柱とする平和憲法を守るのか、15秒、30秒のスポットCMでキャンペーンするという発想自体に問題がある。
民放は憲法に関する国民投票を儲けの対象にするべきではないだろう。報道番組を積極的に制作することで、市民の関心を盛り上げることに貢献すべきではないか。またNHKにもBBCにならって、憲法問題を深く掘り下げる番組、討論番組など編成し、数多く放送するよう要望したい。
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