電力系統をどう再編するのか ポスト原発の課題
- 2011年 5月 9日
- 時代をみる
- ポスト原発浅川修史電力系統
福島原発事故とそれが引きおこした東京電力の計画停電により、国民の間で電力に対する関心が非常に高まっている。原子力発電の仕組みについても新聞、テレビ、ネットなどで膨大な解説がされた。だが、電力ビジネスについて知るためには、「電力系統」についての理解が必要だ。電力は貯蔵できない。電力の質(電圧、周波数)を維持しながら、刻々変わる電力需要に対応するのが、電力系統の役割である。発電所、変電所、送電網、配電網から構成される電力の流通ネットワークを「電力系統」と呼ぶ。
電力系統について知るためには、「徹底Q&A「電力系統」をやさしく科学する」(電気新聞社編、2002年初版)が役にたつ。この本は東京電力の息のかかった本である。電力自由化で発電と送電・配電の分離が主張された。これに反対する目的でこの本は出された。
「電力系統(電力のプールと呼んでいる)を維持しなければ、全編を通じて、電力の安定供給と質は担保されない」と電力会社側の主張を述べている。こうした点に留意しなければならないが、「電力系統」を知るためには格好の入門書になっている。
なぜ電力系統に注目するのか。それは今後原発の縮小・撤退に伴い、電力供給が減ることが予想される中で、電力系統の再編成について国民がどう判断するかが焦点になるからだ。
簡単にいえば、電力の質とコストのバランスをどう考えるか、だ。日本の電力会社は電力の質(電圧、周波数の維持、停電を極力起こさないこと)を重視するあまり、膨大な設備投資が要求され、高コスト体質になっている。日本の停電は世界一少ないとされるが、その代償は世界一高い電力料金だ。電力会社は原価プラス利潤が保証されている。原価が上がっても困らない。かえって設備投資が増えることで、東芝、日立など機器メーカーも潤う関係になっている。だが、もし日本の消費者が米国並みの停電時間(今の10倍?、といっても生活では無視できる時間)になってもかまわないと判断すれば、電力料金は将来米国並み(約半分?)に下がる可能性もある。
ところが、電力の質とコストを決めているは、消費者ではなく、経済産業省と電力会社で「系統屋」と呼ばれるグループである。東京電力は総務部系の文科系役員が実験を握っているが、「原発マフィア」を含む電力系統系のグループが独自の勢力を築いているとも指摘されている。戦前の軍隊にたとえると、陸軍省や参謀本部の命令に必ずしも従わない関東軍が東京電力内あるようなものだ、という見方もある。
今後、原発の穴埋めや、太陽光発電、風力発電など電力系統が扱いにくい再生可能エネルギーをどう取り込むかという議論を含めて、電力系統のあり方が俎上に載せられる。
60サイクルで日本の電力周波数を統一して、電力融通をしやすい電力系統にすることも課題だ。同時にコストをセーブしながら、今話題のスマートグリッド化を図るべきだろう。
(余談)
「電気の父」といえばエジソンだが、本当の父はオーストリア・ハンガリー帝国出身のセルビア人技師ニコラ・テスラである。エジソンが発明した直流発電・送電はすぐにすたれて、テスラが発明した交流発電・送電が主流になる。エジソンの系列はGEに、テスラの系列はウェスチングハウス(WH)社になる「(電気による)第二次産業革命は、電球を発明したエジソンではなくニコラの発明した多相交流送電技術(1888年)とラジオによってもたらされた」と米国のスミソニアン博物館で紹介されているという。
交流発電・送電が本格化してまだ100年程度しか経っていないことに驚く。事故との因果関係はないだろうが、福島第1原発はGEの技術でつくられた。
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