政治の不快さになじめない~主権者であることの「しんどさ」
- 2019年 6月 26日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘
韓国通信NO605
6月16日、香港では「逃亡犯条例」に反対する200万人の市民がデモに参加した。人口の四分の一が参加した前代未聞のデモの規模と緊迫したニュース映像にまず驚いた。香港政府の背後に中国政府の存在、巨象に立ち向かう民衆の姿から悲壮感すら感じられた。香港市民の蜂起にたまりかねた香港政府は、「取りあえず」、条例改正を断念した。民衆が時代を動かした。
<火を噴く民衆のパワー>
香港のデモから3年前の韓国の「ローソクデモ」、現在進行中のフランスの「黄色いジャケット」運動を思いだす。それらは権力者の「不正」「不公平」に抗した不屈の市民の意志から生まれた非暴力の運動が特徴的だ。天安門事件から30年。香港の若者たちは市民的「自由」を求め闘った。
<日本はどうなってるの~>
福島の原発事故で、政治に「目ざめた」という人が多い。選挙の時だけ「主権者」では、もはや民主主義は守れないと自覚した人たちだ。原発事故以降、「戦争法」に反対する運動、治安維持法の再現というべき「共謀罪」、憲法改悪に反対する運動に引き継がれてきた。
しかし運動の壁は厚く、選挙に行かない半数近い人たちが前に立ちはだかる。政治家は嘲笑(あざけり)の的となり、政治はシニシズム(冷笑主義)に晒されている。政治を「何とかしたい」「主権者は国民だ」と主張しても人々の心に届かない。批判力を失った新聞・テレビがそれに輪をかける。権力に対する過剰なまでの「忖度」と意図的な世論の誘導。
世界でもっとも危険な政治家トランプ大統領を、国を挙げて歓迎した日本。それを演出した安倍首相とそれに乗ったマスコミ。イギリスでは数万人の市民がトランプ訪問に非を鳴らした。野党労働党もガーディアン紙も訪英に反対して民主主義の健在ぶりを見せつけた。
世界各地で起きている民衆のパワーから学ぶなら、安倍政権はいくつあっても足りないほどの悪政ぶりだが、日本は韓国、香港、台湾、フランスと「何かが違う」。
沈没する前に、日本という国について徹底した議論が必要なようだ。民族性、日本文化、近現代史の検証から始まり、「総白痴」に近いマスコミ。個人と国を立て直すことが切実に求められている。
<八年間を振り返って>
モヤモヤした気分を解き放す「爽やかな風」にも似たエッセーと出会った。直木賞作家中島京子(55)さんの雑誌『論座』に掲載された一文「『初めてデモに行ってきた』から8年」である。
彼女が2011年、反原発のデモに参加してから今日までの思いを綴ったもので、読者は同じ悩みを共にしながら「主権者であることのしんどさ」に共感し、希望を見出すはずだ。最近、彼女の原作映画『長いお別れ』(中村量太監督)を見たばかり。認知症になった父親をめぐる家族三人の物語。これもお薦めしたい。エッセー同様に作家の謙虚さとやさしさが伝わる。静かな説得力を彼女から学んだ。
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