2019.ドイツ便り(7)
- 2019年 7月 22日
- カルチャー
- 合澤 清
海外デジタルニュースによれば、東京都心部では梅雨の長雨がいまだに引き続いているとか。長雨そのものも鬱陶しいが、日照時間が極端に短く、人体にもかなりの悪影響を及ぼしている(風邪がはやり始めているなど)上、野菜の値段が高騰しているという。
これでは今日の拡大一途の格差社会にあって、底辺層の生活環境は愈々切羽詰まったものにならざるを得ない。
先日、首相の安倍晋三は街頭演説で、アベノミクスのおかげで2013年から18年までの間に383万人の雇用増があったとぶち上げた。しかし、その中身までは明かさない。
雇用増の40%が65歳以上の人であり、55%が非正規雇用者(パート、アルバイト)で占められ、75%の人が年収200万円未満の生活を強いられていること、こういうことには一切触れようとしない。
こういう人たちの上に今夏の異常気象の影響がもろにかぶさって来る。暑くても寒くても、干天でも長雨でも、もっとも影響を受けるのは格差の底辺であえぐ人たちである。そのうえ、10月から予定される「平等」という名目での不平等な消費増税が決定的な追い打ちをかける。
日本でもドイツの若者を見習って、老いも若きも一緒になり「われわれの未来を破壊するな」の民衆運動を組織することが大切である。
小選挙区制だの、比例代表制だのと姑息な手段を使って政権を何とか維持したいとする政権政党は、裏返せばそれだけ自分たちへの国民的支持の凋落を意識しているともいえる。
こういうことを書いている間にも、今期の参院選の投票が締め切られ、結果が明らかになる。海外にいれば、国内にいるよりも一層その結果が気になる。
<WürzburgヴュルツブルクとBambergバンベルク>
「ジャーマンレイルパス」の使用期限が2カ月から1カ月に短縮されたことは、なんとも忌々しい。近年は最低回数の5回分しか買わないため、ドイツ到着時にフランクフルトからゲッティンゲンまでの1回分を除くと4回しか使えない。それを7月20日までに使わなければ無駄になる。先日2回分使ったので、大急ぎで残りの2回分を使うことにした。
それが今回の旅行である。
このパスは長距離への旅には格安で便利だ。但し、近距離では、各州に格安乗車券があり、一日中乗り放題で30ユーロ程度(ただし各駅のみ)なので、これを使う方がよい。また、週末の土、日には、週末乗車券(ボッヘンエンデ・チケット)というのもある。年々値上がりしてはいる(50ユーロぐらい)が、やはり便利だ。
最初に訪れたヴュルツブルクには教会が多い。第二次大戦のさなかの空襲で焼け野原になったそうだが、今は見事に再建されている。
市庁舎前の広場では、この日も市場が開かれていた。小高い丘の上にそびえるマリーエン要塞(Marien Feste)に、連れ合いの希望で久しぶりに登ってみた。
【写真は上がマリーエン要塞で、下がそこから見下ろしたマイン川沿いのヴュルツブルク】
バンベルクは、やはり毎年行っているのだが、大好きな古い町である。川や運河が周辺を取り巻いて流れているのがよい。一歩奥に入ると実に静かで、河の流れに風情がある。
石の橋を渡って入る旧市街は、ごく狭い地域でしかないが、石畳の両側に昔ながらの雰囲気の建物が並び、なかなか味わい深い。
今回、朝の散歩でバンベルクのドームに行ってみた。四つの塔をもつ見事な聖堂である。しかし、通勤の車の多くなったことには驚かされた。最初に来た頃は、バスが、石畳の上をガタガタと大きな音を立てながら走るのをうるさく感じたものだったが、今回は比較にならないほどだ。自動車社会の環境に及ぼす弊害を改めて痛感した。
人は周囲の環境の良い場所に密集してくる。バンベルクはドイツ人の間では大変な人気町であるらしい。だから、どうしてもそこに住居を構え、通勤には車を利用することになる。まだ、内部の自然環境が壊されていないだけましなのかもしれないが、ここ数年の観光客の急増と車(夏のシーズンだから特にそうなのかもしれないが)には閉口した。
【下の写真は、バンベル具のドーム(左)とバンベルク旧市街の運河】
もちろんバンベルクの別の楽しみは、何百年も続くビール醸造所兼居酒屋が提供する「ラオホビール」とハクセ(豚のすね肉のグリル)であり、この店の近くの「ヘーゲルハウス」詣でだ。今回は旧市街のすぐ近くに宿をとったので、ビールの方は十分に堪能した。
<カールシュタット、エアフルト、ゴータ>
カールシュタットは、ヴュルツブルクから電車で15分ぐらい、美しい小さな町である。友人の物理屋さんの故郷であるため、今回二度目の訪問をした。この辺は有名なフランケンワインの本場である。周囲の丘の傾斜面は見事なワイン畑だ。静かではあるが、なんとなく華やかさがある。友人の気まじめな誠実さは、この町の雰囲気と大いに関係がありそうな気がした。
【カールシュタット】
それから、先日も訪問したゴータへ行く。ここの旧市街も驚くほど狭小な町であり、やはり静寂そのものという感じがする。しかし、旧東ドイツに属していたためか、カールシュタットに比べれば、華やかさはない。数年前まではどちらかといえば、薄汚れて、町全体が廃虚のような暗いイメージだったが、急速に復興してきたようだ。と共に、車の数も増え、小さな町を囲む幹線道路は、やはり車であふれていた。
しかし、フリーデンシュタイン宮殿とその付属庭園(公園)は、静けさの中にすっぽりと包まれていて、ベンチに座っていると、優しく、柔らかな風が心地よく、軽いめまいと共に、このまま眠りこんでしまいそうな陶然たる心持に誘われた。
最後に、電車で15分ほどのエアフルトに行き、先日閉まっていたカフェ・ラントに行った。ここでは初体験の「グリューナーコーヒー」を試飲してみた。緑茶のようでいてそうでもない。なんだか青臭い(葉っぱ?)味と香りだった。やはり焙煎コーヒーの方がよい。
【ゴータの歴史的市庁舎と公園(庭園)】
【グリューナーコーヒー】
2019.7.21 記
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔culture0832:190722〕
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