友へ 参院選の簡単な総括
- 2019年 7月 28日
- 評論・紹介・意見
- ちきゅう座会員小島四郎
神奈川選挙区で私が投票したあさか由香さんは、また次点でした。しかも4位当選の松沢とは15万票という大差がつきまきした。牧山さんとのアベック当選を狙ったのですが残念です。一説によると最後の最後に自民から20万票が松沢に回したそうです。でも実感としては前神奈川県知事のネームバリーは捨てたものではなく、反自民の若者が松沢に入れたとの話も届いています。
国民民主の乃木は12.6万票を獲得しました。彼の票をマルッポあさかが頂いても届きません。乃木は民主党時代に神奈川に落下傘候補として来た経緯もあり、党は変わっても支持母体に変更がなく連合としては牧山以上に力を注いできました。従って脇筋の噂を外して本線から言うと、乃木の票がどうのこうのではなく、あさか本人の力量不足として主体的に総括すべきです。同時に、牧山も選挙冒頭でいきなり「トップ当選」という言葉を使い、陣営がタガ羽目に苦労し、結局自民の島村の楽勝を許した。浮かれず丁寧に選挙戦を闘えば本人への投票も増え、あさかへの気配りも出来たかもしれません。
私は比例区では沖縄平和運動を長く担ってこられた社民党の仲村みおさんに投票した。これは、例え土井-村山の社会党解体に腹を起てていても今次選挙で護憲政党が一つでも国会から消えていくのを回避すべきだとの判断と、沖縄連帯を本土の人間ではあるが直接に関わりたいとの思いから、仲村さんに投票した。結果は、1議席を取り政党要件を満たしたけれども、割り振りから吉田になってしまった。
選挙最中は、山本太郎の「れいわ新選組」の動きが凄いと言う話が何回も耳にしました。私は、党名に山本の志が現われると批判し「れいわ新選組」との関りを撥ねつけました。党名に新元号と反革命テロリスト集団「新選組」の名前を使う政党に、消費税廃止や最低賃金1500円という私がやっている公共一般と同じ要求を掲げていても支持が出来ません。一般に、「れいわ新選組」を“左翼ポピュリズム”と規定し、既成政党批判の受け皿になったと囃していますが、私にはそう思えません。ナチスが「国民社会主義ドイツ労働者」と名乗って政治舞台に登場したことを思い出させます。今世界中で排外と愛国主義のポピュリズム政党が跳梁跋扈しています。天皇制という民族主義と排外主義、身分差別の元凶にして国家国民統合支配の核心、かつ戦後憲法での象徴に隠れてアジア植民地支配の責任を取らない祭主王に対して批判的な見地を持たないで、労働者連帯や沖縄の民意を語る姿は、昔の北一輝ら右派国家主義者や白井聡らの新勤皇攘夷派に近いと断じざるを得ません。落選した山本は来る衆院選に出馬するでしょう。その時、正体がハッキリすると思います。
さて今次選挙は、結果から考えると不思議な選挙でした。完敗した政党がないのです。各党派、それぞれ面子が立つような結果でした。(幸福の党や労働党やオリーブの木は論外です。)
驚いた事に、自民は改選前の議席を10減らしてもNHKは自民の「勝利」というテロップを流していたし、安倍も「安定か混迷か」の選択で過半数を越えられたと奇妙な居直りをしていたことです。さすがに朝日や毎日、東京は「改憲勢力三分の二は届かず」との見出しをたてていました。これは左翼的偏向新聞だからではなく、安倍の言質からして常識的な判断なのです。
思いだしてください。安倍は選挙前から憲法問題を正面から問う選挙だと豪語していたことを。本人もNHKもこの事をすっかり忘れています。挙句に、言うに事欠いてこれからは自民党案もゼロベースにしてとにかく憲法について話し合いましょうという維新や国民民主などにさざ波を送り改憲論議への引きずり込みを計っています。
その中で唯一勝利したと評価されているのが、先ほど述べた「れいわ新選組」=山本太郎です。勝利と言うなら山本まで当選してこそ言えるのではないのか、つい呟くのは、「れいわ」嫌いの心のネジレ故でしょうか。N国党も議席を1つとったが、シングルイシューの党なので安保・年金・消費税などの政策で如何なる態度をとるのかは全く未知数です。これは私の独断ですが、両党とも政治の大波小波に翻弄されて沈んでいくのだろうと思っています。だからこそ、私には「れいわ新選組」の大成果である当選した二人の障がい者の政治的行く末も気になります。二人の政治的思いを出来る限り協力してその実現を助けていきたい。
今次選挙の急所は何処か。「れいわ新選組」の躍進ではありません。全く違います。改憲勢力の三分の二を阻止した、ことか。これは大きいことです。政権側が三分の二を獲得していたら、安倍は一気呵成に改憲へと走ったでしょう。それが各党派の足並み・お手並みを拝見する舞台づくりへと変わったのです。策士揃いの安倍政権にとって、これは総選挙の時期を探る手だてにすぎません。改憲論議は後退したと、油断してはなりません。今次選挙結果で絶対に核心を握りしめ深めていかねばならない事があるのです。
それは野党共闘が一人区で10議席を勝ち取った事です。6年前と同じ数の当選者を出した。候補者調整や選対体制づくりが大幅に遅れ選挙当日までバタバタしていた状況にあってよくぞ10人の当選を果たしたという意味ではありません。これで衆院選に弾みがついたといった俗論を主張したいのでもありません。
私が言いたいのは10という数字ではなく、勝った場所・県を指摘したいのです。10勝は、現代日本の矛盾の縮図、安倍政権と現地で生活している人々=人民が激しくぶつかり合っている象徴的な選挙区で自公との死闘を経て勝利したのです。特に、東北の岩手・宮城・秋田・山形で、そして北陸の新潟で、沖縄で勝利したことだ。
秋田や新潟では、アショア配備説明会での自衛隊の不遜な態度と自民党候補者の塚田の「忖度」発言などの敵失もあったが、底流というか選挙で本質的に問われていたのは、TPP11やEFTや日米通商交渉によって日本の農業・酪農は壊滅的打撃を受け戦略的見直しが問われていたことです。農・酪・水産業の自給率を高めない限り、人々の食は安全面でも供給面でも安定的な確保が出来ない。安倍政権や、その第五列・同様なグローバルの大企業や金融に依拠した政権には食料政策の戦略的転換は出来ません。第一次産業を外国に売り渡し、自動車・半導体を売り込むという戦後型貿易スタイルは古いのです。今後は、生産力主義や生産性至上主義や功利主義や合理主義といった従来の文明原理を転換し、同時に遺伝子組み換え商品や環境破壊から人々の命と環境を守っていくという新たな文明観に立脚した農業や牧畜や水産業を育む政権が問われているのです。
また沖縄でも、日米安保体制と日米地位協定を根本から見直す政権の誕生が問われています。
二度の知事選、住民投票、衆院補選の結果を尊重せず、口先だけ「沖縄に寄り添う」と言って、住民の意思をブルドーザーで辺野古の海へ沈めようとしている安倍政権。辺野古の工事を進め既成事実を積み上げ沖縄の人々の心を折ろうとする態度は、沖縄独立を唱える声を次第に大きくさせているし、玉城デニー知事さえも一国二制度(沖縄の自治権承認)を唱えざるを得ない段階へと人々の沸点は高まっている。そんな状況の中で、安保体制を見直す絶好の機会が米国から飛び込んできた。米大統領トランプは「日米安保は米国を守らない」「不公平な条約だ」と述べ解消にまで触れた。米国は、こうした恫喝とも言えるブラフを駆使してまでも、イラン攻撃のための有志連合国への軍事参加を安倍政権に強く促すことが予想される。
米国がこうした無理篇を強要して来る時に、敢然と拒否できる政権が必要とされているのである。この国には憲法9条があり、イラン攻撃の為の有志連合には到底参加できない。三の次アフガンやイラクやシリアを例に挙げ、戦争では解決出来ないこと。国連での平和努力を重ね、イラン核合意の席に戻ることを諭す理性と決意とが政権に問われている。
同時に、日米地位協定によって米軍への統治(主権)を放棄している今の状況では沖縄の人々の暮らしも命も守れないとして、改定交渉を米国としていく政権が必要なのである。もうそうした政治的時期が来ていると言える。
しかし、「れいわ新選組」は勿論、大政党の立憲にも、否、どんな野党にもこんな根性と政治的信念がない。可能性は唯一、共産党だけである。だが現共産党指導部は口が達者ではあるが気骨と豪放さがあるか。どれだけこうした任に堪えられるのか。耐えられず瓦解していくのが関の山であろう。じゃどうするのか。当面野党5派は総選挙前の連立政権作りを進めるが、10勝の戦略的意味を無視して消費増税をどうするのか、年金のマクロスライド方式を止めるのか、日米貿易交渉をどうするのか、待機児童をどうするのか、等々に時間を費やし、戦略的討議は二の次三の次へとはじかれていく。これでは、10勝を勝ち取った人びとに対して根本的解決策を提示し闘いの方向を指し示していく政党としての義務を放棄することになる。次もまた勝利するという保障は何処にもないのである。急所を握って総括を深めそれを人々に還し練り上げてもらう関係の連続性をつくりあげよ。
今次参院選は大きな政治転換と新たな主体を形成する機会を政党政派が得たのは間違えのないことだ。立憲や国民や共産党がうかうかして政治能力を発揮できない時は、天皇主義右翼ファシストの出番であり、ひょっとしたらスペインのポデモスのような左翼ポピュリズム勢力の登場ということもあるうるだろう。同時に、新左翼にとっても歴史的遺物になるのか、活きた左翼として存続できるかの分水嶺でもあろう。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8851:190728〕
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