悲劇的な日本の放送行政(下) - 「知る権利擁護」市民運動、新たな展開 -
- 2019年 7月 30日
- 評論・紹介・意見
- メディア放送隅井孝雄
EUの報道憲章と国連人権委員会
欧米の自由主義諸国ではありえない日本政府のメディア政策である。2009年に制定されたEUの「報道の自由憲章」は10項目にわたる。そのうち最も重要な最初の3項を紹介しよう。
1. 報道の自由は民主主義社会に欠かせない。報道の自由、政治的、社会的、文化的多様性を守ることは政府の責務である。
2. 検閲は認められない。すべてのメディアの独立性は守られる。メディア、ジャーナリストを一切刑罰、抑圧の対象にしてはならない。国家はメディアの独立性を妨げる立法を制定してはいけない。
3. ジャーナリストとメディアの、自由に集まり、情報や意見を広げる権利を侵してはならないし、処罰の対象にしてはならない。
(この後ジャーナリストの権利保障などについての7項目が続く。)
EU加盟諸国はこの10項目の憲章に違反した場合、制裁が科せられるということだった。
国連人権委も新たな勧告検討
国連人権委員会では2017年に特別報告者デービッド・ケイ氏を日本に派遣、日本で政府に言論の自由への侵害があるとして改善勧告を行った。特定機密保護法がジャーナリストを対象にする条項があること、放送法4条(公正報道)を理由としてテレ朝やNHKなどの特定番組に対して行政指導による改善を指示したことを問題としている。しかし改善が見られないとして、今年6月初旬から、メディアの独立性を尊重するよう新たな勧告の検討に入っている。
メディアに対する市民運動、新展開
3月14日マスコミ文化情報労組会議(MIC)が官邸前で異例の抗議行動を行い、「記者の質問制限をするな」、「知る権利を守れ」と訴えた。官邸では菅義偉(よしひで)官房長官と東京新聞望月衣塑子(いそこ)記者の攻防が続いている。集会には朝日新聞南彰記者(政治部)、中国新聞石川昌義記者(加計学園取材)ら現役記者が多数参加した。また望月記者自身も集会に参加、官邸記者クラブの運営が「知る権利」に応えていないと批判の声をあげた。現役記者らが望月記者支援のため官邸前で声を上げるという行動は、史上初だ。また4月5日には「知る権利を守れ」をスローガンに、MICは銀座をデモ行進した。
NHKは政府からの独立を、批判相次ぐ
今年3月22日の放送記念日、NHKのニュース報道について、19団体、有識者・ジャーナリスト46人、NHK退職者47人が、NHKに対して政府から独立したニュース報道を申し入れた、また6月26日は主要人事が政権の手で左右されているとして、20団体400人が、新任の板野裕爾専務理事を解任すべきだと申し入れをおこなった。板野氏は籾井勝人会長の下で辣腕を振るった人物で、籾井会長退任の際NHKエンタープライズの社長に転出した。クローズアップ現代の国谷裕子キャスターの首を切った人物としても知られる。
いずれも、メディアに対する権力の介入干渉に対する市民の怒りの行動の高まりを示している。アメリカ、イギリスをはじめヨーロッパ諸国では、強力な市民運動がメディア、報道の自由、市民の知る権利を支えている。日本でもそれに肩を並べる報道の自由擁護の運動の高まりが見て取れる。心強い限りだ。
ネットメディアと既存メディア、共存の動き
問題は既存メディアだけではない。フェイクメディアの舞台となるインターネットの情報に真実、事実を取り戻すことが大切だ。
ネットとメディアの融合が進んだ。新聞や放送各社もネット上でデジタル情報を拡大している。ネット情報専門のYahooニュース、スマートニュース、ライブドアユース、Niftyニュース、ニコニコニュース、MSNニュース、ハッフィントンニュースなどが既存メディアと並列している。5月にインターネットメディア協会(JIMA)が誕生した。ネット経由でニュース送出を活発に行っている朝日デジタル、毎日デジタルなど、既存大手メディアもこの組織に加入した。フェイクニュースに対抗し、記事や情報の質、信頼性、透明性を高めようとする動きは急速に拡大している。
最近では既存メディア大手にネット上の情報を即時に流すJX通信社、Spctee社もなども活発化し、次第に垣根が取り払われつつある。
インターネット、既存メディアが媒体の壁を越えて、一体化を進める新しい時代に入った。
権力からのジャーナリズムの独立を主張する市民運動と、ジャーナリスの諸組織、諸団体が強い連携で結ばれる必要が生まれてきているように思う。
NHKに改革を迫るとともに「知る権利と報道の自由擁護」の、強力な市民運動が21世紀に入って広がり、力を持つようになったが、その動きを放送全体、ジャーナリズム全体に広げる必要が痛感される。
マスコミ文化情報労組会議(MIC)は3月14日、首相官邸前で異例の抗議行動を行い、「記者の質問制限をするな」「知る権利を守れ」と訴えた。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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