世界資本主義フォーラム『米中「新冷戦」……』に参加して
- 2019年 8月 6日
- 評論・紹介・意見
- 大谷美芳
五味氏の報告は、「中国巨大資本主義」という表現からして中国を帝国主義と見、米中対立を覇権闘争と見るが、それがどうなるかは保留のようです。
しかし、この「米中新冷戦」という表現には疑問を感じる。イデオロギー的対立を演出して同盟諸国をまとめるのがかつての冷戦体制であった。今アメリカの同盟諸国との関係は揺らぎ、中国に明確な同盟国はない。
覇権なき多極化と想定しているのかと思えます。これに対する私の考えを書きます。
①中国は資本主義
中国は(かってのソ連も)官僚制国家資本主義である。資本主義の基本は、「労働と所有の分離」、生産手段から分離したプロレタリア階級と生産手段を独占したブルジョア階級が対極に存在する。資本の形態が国家所有(官僚が資本家階級)か私的所有か、また市場経済か「計画経済」(実はかってのドイツや日本のような統制経済)か、これは本質に関係ない。
中国・ベトナム、そして朝鮮などの官僚制国家資本主義は、韓国・台湾やASEANなどの開発独裁(権威主義とも言われる)と並んで、とりわけアジアに顕著な20世紀における後発国の資本主義化の典型であると考えます。そもそも後発国の資本主義化は国家の強権をテコとしました(19世紀のドイツと日本も専制君主制=ボナパルティズム)。
②米中対立は帝国主義の世界覇権争闘
中国は帝国主義である。中国の資本主義は、1:独占資本、2:金融資本、3:資本の輸出、4:国際独占資本による世界の経済的分割、5:帝国主義国による世界の政治的分割、というレーニンが規定した帝国主義の特徴を備えています。
米中対立は巨大帝国主義(超大国)の世界覇権をめぐる争闘であると考えます。現代帝国主義は、5:が、植民地領有(旧植民地主義)から、新植民地主義を過渡として、諸国家の経済的政治的軍事的な国際諸関係におけるヘゲモニーに変化している(民族解放闘争の結果)。アジアを超えてヨーロッパやアフリカに及ぶ「一帯一路」や南・東中国海を超えてインド・太平洋に及ぶ海洋権益など、中国はアメリカの世界覇権に挑戦しています。
③米中の覇権闘争はどうなる? 世界史の大傾向はアジア中心
以下は五味報告からの再引用です(『フィナンシャルタイムズ』の外交関係論評責任者=ギデオン・ラックマン)。これが世界史的大傾向だと考えます。
…GDP、人口規模、軍事支出、技術投資に基づくグローバルパワーにおいてわれわれはすでに「アジアの世紀」に生きている。…2030年にはアジアが北米とヨーロッパの合計を上回っているだろう。
パックス・アメリカーナは急速に終わりに近づいている。
2050年には、…世界のGDPに占めるアジアの割合は倍増して52%となるという予測もある。一般的に言われているのは、西側の台頭以前の状態に戻るということである。
18世紀後半~19世紀の産業革命によって資本主義化したヨーロッパは、その後、20世紀前半まで、封建制のアジアを植民地支配した。それまでは、同じ封建制の基礎の上では、アジアがヨーロッパを圧倒していた。トルコ・オスマン帝国とインド・ムガール帝国と中国・清帝国の隆盛と衰退がこれを物語っている。20世紀後半~21世紀のグローバリズムでアジアは資本主義化した。再び同じ基礎、資本主義の上で、再び世界の中心が西欧と北米からアジアに移っている(根本は人口)。アメリカ帝国主義の没落と、資本主義と帝国主義が存在し続ける限りは、取って代る中国の台頭は避けられないと考えます。
もちろん、「経済力と政治力の関係性は単純ではないから経済のパワーシフトが国際政治にもたらす変化を具体的に評価・予測するのは難しい」(同上)。覇権移行は長期にわたる。歴史的には19世紀=イギリス→20世紀=アメリカ。そして、21世紀を通じて資本主義・帝国主義が存在し続けるとは言えない。
④21世紀を社会主義革命の時代とするには?
覇権闘争がどうなるかよりも、資本主義・帝国主義をどう廃絶するかが重要である。
アジアの資本主義化は、機械制大工業(生産の社会化)とプロレタリア階級の階級闘争という、物質的基礎と原動力の両面で社会主義革命の条件の成熟になる。北米・西欧・日本では、金融資本主義によって、産業が空洞化し、プロレタリア階級の非正規層が増大し、隔絶的な格差が出現し、レーニンの帝国主義規定、6:寄生的な腐朽しつつある資本主義が現実化している。プロレタリア階級の階級闘争を組織して、社会主義革命で、帝国主義を7:死滅しつつある資本主義たらしめることができるか?
20世紀におけるロシア革命と中国革命の挫折、マルクス・レーニン主義と国際共産主義運動の破綻は、とても重い。しかし、冷静に見れば、それは、民主主義革命に対するプロレタリア階級のヘゲモニーによって、二段階革命で展望した社会主義革命、言わば条件に無理があった社会主義革命が挫折したということ、革命がブルジョア革命に終わり、結果、当然に資本主義化したということ、これであると分かる。20世紀をしっかり総括すれば、21世紀は必ず資本主義・帝国主義に対する社会主義革命の時代になると、考えます。
そういう意味で、10月からの「ソ連・東欧論」のフォーラムに期待します。(おわり)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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