「あいちトリエンナーレ2019」における河村市長・菅官房長官の「表現の自由」侵害行為に抗議する憲法研究者声明
- 2019年 8月 16日
- 評論・紹介・意見
- あいちトリエンナーレ2019大井 有
2019年8月11日 憲法研究者有志一同
2019年8月1日、愛知県で国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由・その後」が開催されましたが、8月3日に中止に追い込まれました。中止に追い込まれた理由として、大村知事は愛知県に寄せられた、テロ予告や脅迫を挙げました。
テロ予告や脅迫はそれ自体犯罪であり、そのような暴力的な方法で表現活動をやめさせようとすることは強く非難されるべきものです。さらに、今回とりわけ問題なのは、この展示会中止にむけての政治家の圧力です。8月2日に現地を視察した河村名古屋市長は「日本国民の心を踏みにじるもの」などと発言して企画展の中止を求めました。8月2日、菅官房長官もあいちトリエンナーレが文化庁の助成事業であることに言及したうえで、「補助金交付の決定にあたっては事実関係を確認、精査したうえで適切に対応していく」などと発言しました。
わたしたちは、河村市長と菅官房長官の言動は民主主義国家における「表現の自由」の重要性について全く理解を欠いたものであると考えます。企画展の展示内容は、例えば、名誉毀損として処罰されるべきものでも、特定の人種や民族の人々をそうした属性を有するというだけで誹謗・中傷するものでもありません。今回の展示中止の要請は、きちんとした理由のあるものでなく、単に、権力者が自分の気に入らない言論を自分が気に入らないという理由だけで禁止し、抑制しようとするものです。しかし、自由な民主主義社会においては、こうしたことはあってはならないことです。このようなことが許されれば誰も権力者を批判することができなくなり、その結果、わたしたちは権力者を批判する表現を受け取ることが不可能になるでしょう。これはとても息苦しい社会です。
憲法21条で保障された表現の自由は、様々な考えの人の存在を前提としている民主主義社会にとって不可欠なものです。自分が気に入らないという以外に特別な理由なく展示の撤回を求めた河村市長と菅官房長官の言動は、憲法21条に反するものであり、強く批判されるべきだと考えます。わたしたちは、河村市長と菅官房長官の言動に対して、断固抗議し、撤回を求めます。
【賛同者一覧】2019年8月13日段階91名
愛敬浩二(名古屋大学)青井未帆(学習院大学)浅野宜之(関西大学)足立英郎(大阪電気通信大学名誉教授)飯島滋明(名古屋学院大学)井口秀作(愛媛大学)石川多加子(金沢大学)石川裕一郎(聖学院大学)石塚 迅(山梨大学)石村 修(専修大学名誉教授)井田洋子(長崎大学)市川正人(立命館大学)伊藤雅康(札幌学院大学)稲 正樹(元国際基督教大学教員)井端正幸(沖縄国際大学)岩本一郎(北星学園大学)植野妙実子(中央大学名誉教授)植松健一(立命館大学)植村勝慶(國學院大學)浦田一郎(一橋大学名誉教授)浦田賢治(早稲田大学名誉教授)榎澤幸広(名古屋学院大学)江原勝行(早稲田大学)大内憲昭(関東学院大学)大久保史郎(立命館大学名誉教授)大野友也(鹿児島大学)岡田健一郎(高知大学)岡田信弘(北海学園大学教授・北海道大学名誉教授)奥野恒久(龍谷大学)小栗 実(鹿児島大学名誉教授)小沢隆一(東京慈恵会医科大学)押久保倫夫(東海大学)上脇博之(神戸学院大学)彼谷 環(富山国際大学)河上暁弘(広島市立大学広島平和研究所)菊地 洋(岩手大学)北川善英(横浜国立大学名誉教授)木下智史(関西大学)清末愛砂(室蘭工業大学)清田雄治(愛知教育大学特別教授)倉田原志(立命館大学)倉持孝司(南山大学)小林 武(沖縄大学客員教授)小林直樹(姫路獨協大学)小松 浩(立命館大学)斉藤小百合(恵泉女学園大学)笹沼弘志(静岡大学)佐藤信行(中央大学)志田陽子(武蔵野美術大学)清水雅彦(日本体育大学)鈴木眞澄(龍谷大学名誉教授)芹沢 斉(青山学院大学名誉教授)髙佐智美(青山学院大学)高橋利安(広島修道大学) 高橋 洋(愛知学院大学)竹内俊子(広島修道大学名誉教授)竹森正孝(岐阜大学名誉教授)多田一路(立命館大学)建石真公子(法政大学)千國亮介(岩手県立大学)塚田哲之(神戸学院大学)土屋仁美(金沢星陵大学)長岡 徹(関西学院大学)中川 律(埼玉大学)中里見 博(大阪電気通信大学)中島茂樹(立命館大学名誉教授)中村安菜(日本女子体育大学)永山茂樹(東海大学)成澤孝人(信州大学)成嶋 隆(新潟大学名誉教授)丹羽 徹(龍谷大学)根森 健(東亜大学大学院特任教授)畑尻 剛(中央大学)福嶋敏明(神戸学院大学)藤井正希(群馬大学)藤野美都子(福島県立医科大学)古川 純(専修大学名誉教授)前原清隆(元日本福祉大学教員)松原幸恵(山口大学)宮井清暢(富山大学)三宅裕一郎(日本福祉大学)三輪 隆(元埼玉大学教員)村田尚紀(関西大学)本 秀紀(名古屋大学)森 英樹(名古屋大学名誉教授)山内敏弘(一橋大学名誉教授)横尾日出雄(中京大学)吉田栄司(関西大学)若尾典子(元佛教大学教員)脇田吉隆(神戸学院大学)和田 進(神戸大学名誉教授)
以上
憲法学者91人、河村市長らの言動批判 表現の不自由展
2019年8月13日
愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の中止について、全国の憲法学者91人が共同声明をまとめた。慰安婦を表現した少女像などの展示に反発し、中止を求めた河村たかし名古屋市長らの言動を「表現の自由の重要性について全く理解を欠いたもの」と批判している。
声明は11日付で、「表現の自由は、様々な考えの人の存在を前提としている民主主義社会にとって不可欠」と指摘。菅義偉官房長官が芸術祭への国の助成金交付に関して「事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と述べた2日の会見の発言にも言及し、河村氏と菅氏が「自分が気に入らないという理由だけで禁止し、抑制しようとするもの」と強調している。
声明をまとめた名古屋学院大の飯島滋明教授によると、声明文は河村氏と菅氏の事務所に送ったという。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8906:190816〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。