シンポジウム「現代いのちを問う」―2019・10・19.
- 2019年 8月 28日
- 評論・紹介・意見
- 冨田幸子
「現代(いま)いのちを問う」開催に向けての賛同のお願い
現代ほど生命(いのち)がないがしろにされている時代はありません。その原動力になっているのが、加速度的に進歩する医療・科学技術であり、その背後には経済優先の動向が横たわっています。
福島原発災害から8年、「見えない、臭わない」放射性物質は確実に拡散され、子供たちの癌発症率が高まっているというデータがあるにも関わらず、国や自治体は、放射能と疾病との関係を否定し続けています。原発推進の政府と原子力産業の政治的圧力によって、国民の命はないがしろにされているのです。原発事故の賠償や廃炉作業に必要な費用は電気料金の値上げによって一般市民に負担させるなど、国や電力会社の無責任さは明らかです。
一方で、安倍政権は、国家安全保障戦略として軍学共同の軍事研究推進を図り、2015年以降、大学や国の研究機関を対象とした防衛省の研究費制度を導入しています。長崎大学では、文部科学省から75億円の予算を受け致死性ウィルス研究施設(BSL-4)が建設されています。かつて731部隊において人体実験まで行った生物化学兵器開発と、なんら変わらぬ事態が再び始まろうとしています。平和目的であったはずの宇宙開発技術は、無人機やロボットで人を殺傷する兵器開発に応用されています。人間を活かす技術と殺す技術、防衛と攻撃技術は表裏一体であることを再確認し、安倍政権の軍事路線にストップをかけるときではないでしょうか。
いのちの始まりと終わりに関わる技術は、健康で生産性のあるいのちこそ「良い」とする優生思想のもとに行われています。2013年4月から始まった、ダウン症など3種類の染色体異常を胎児の段階で判別する「新型出生前診断」について、さらに実施施設が増やされようとしています。また、2018年12月、国はヒト受精卵に対してゲノム編集技術(遺伝情報の狙った場所を切断し書き換える技術)の介入を容認しました。生まれてくる前に「病気の胚」は捨てられ、遺伝子を自由に書き換えることで親の望み通りの子供も設計できます。ゲノム編集で「改善した人」とそうでない人との間に新たな格差をつけることにもなりかねません。この背景には、障害に対する差別や偏見とともに、先端医学をめぐる企業の経済優先の原理があります。
終末期医療はいつの間にか、「終末期に治療せずあるいは中止することで患者を死に至らしめること」という意味にすり替わっています。2018年に起こった公立福生(ふっさ)病院の人工透析中止をめぐる問題では、意思決定を患者へ丸投げした医療者の無責任さと、透析治療を治る見込みのない「無意味」な延命治療とみなし、「中止」の選択を提示したことがあげられます。「無意味」を拡大解釈すれば、意思疎通の取れない人たちを始め、認知症の高齢者などに対しても、何もしないことが最期を潔く迎えることだとする「尊厳死」につながります。この背景には医療経済があり、医療費の削減はいのちの削減です。「病弱で生産性のない」人たちはこの国では疎まれ、捨てられていきます。
私どもはこれまで、遺伝子操作、生殖医療、臓器移植、再生医療など、医療・科学技術が進展するたびに、人々の生死がその技術によって操られていること、その背景には、国や企業の経済優先が貫かれることに警鐘を鳴らしてきました。
2020年の東京五輪に備えた情報操作や警備体制強化、経済優先の陰で、さらに、いのちがないがしろにされていきます。全国津々浦々で多くの人々が警告を発し、叫びをあげていますが、それが一つの力にならず、国のいうままに流れています。
今こそ、医療や科学技術に対する正確な知識と情報を得て、国や経済の圧力に潰されることなく、生活者の視点から、改めていのちを問うことが重要な時です。ぜひ多くの方々、文化人、知識人、専門家、国会・地方議員が一堂に会し、個々のテーマについて意見交換し、マスメディアやネットを通じて、全国民へ呼びかけていきたいと思います。
10月19日には4つの分科会と共に開かれる全体会において、市民の声としての声明文を発表します。多くの方々に参加していただき共に声を上げてまいりましょう。この度の企画をご理解いただき、ご賛同いただけることを実行委員会一同、心よりお願い申し上げます。
2019年8月1日
実行委員会代表:水戸喜世子(「子ども脱被曝裁判」を支える会)、池内了(名古屋大学名誉教授、宇宙物理学)、佐々木和子(京都ダウン症児を育てる親の会)、利光恵子(優生手術に対する謝罪を求める会)、亀口公一(日本臨床心理学会)、川見公子(臓器移植法を問い直す市民ネットワーク)、山口研一郎(現代医療を考える会、医師)、西沢いづみ(立命館大学生存学研究所客員研究員)
〈開催概要〉
期日:2019年10月19日(土)午前11時~午後5時
会場:高槻現代劇場、文化ホール・市民会館
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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