敗北を「勝利」と思い込む革新派
- 2019年 9月 24日
- 評論・紹介・意見
- 政治選挙阿部治平
――八ヶ岳山麓から(291)――
7月の参院選から3ヶ月たった。第4次安倍内閣の改造も終わった。いまさら参院選について何か言うことは気が引けるが、私は野党連合・国民民主党の羽田雄一郎氏当選のために、乏しい年金の中から(ほかに革新政党がないから)村の共産党に1万円を寄付した。だが、投資効果の少なさのために「ソンした」という気持を抑えきれないので、この際あえて発言する。
本ブログには8月14日から3回広原盛明氏の詳細な参院選総括が掲載された。氏は「(参院選の)注目点は、第1が投票率が50%を割ったこと、第2が護憲勢力が相対的に後退し、なかでも左派勢力の中心である共産と社民が大量票を失ったこと、第3が1人区において野党統一候補が善戦し改憲勢力3分の2を阻止したものの野党勢力の伸長には繋がっていないことである」といっている。
投票率が低かったのは、無党派層のかなりが、どうせ野党勝利はないと見たからだと私は思う。「選挙なんか行かない」という親戚にわけを聞いたら、「自民党は嫌だが、野党は勝てない。世の中は変らない」といった。
参院選直前、安倍晋三氏が衆参同時選挙に言及したときに、立憲民主党の枝野代表は「衆院解散なら受けて立つ」と応じた。枝野氏には同時選挙の準備がないのだから空威張りである。別な友人はこれを「強がりをいってらあ」と笑った。
安倍晋三首相は森友・加計問題では国会審議を逃げ回っていたのに、いけしゃあしゃあと「憲法改正を議論する政党を選ぶのか、それとも議論しようとしない政党を選ぶのか」と野党を挑発した。枝野代表の答えは「国民に必要な改正なら議論する」というものだった。なぜ「森友・加計問題を議論する党を選ぶのか、逃げ回っている党を選ぶのか」と応戦しなかったのか。
日本では、首相は自分に有利な時、いつでも衆議院を解散できるという憲法7条の解釈がまかり通っている。なぜ枝野氏は「改憲をいうなら、まず7条解釈を変えるべきだ」と反論しなかったか。選挙論争で腰が引けていては困る。
私が接触した人々の間には、民主党政権失政の記憶が強く残っていた。野党が伸びなかった理由のひとつである。枝野氏は3・11東電原発事故の際内閣官房長官で、放射線量について毎日「直ちには健康に影響ありません」と非科学的なことを言い続けた人物である。あの失政の影響を払拭するためには、立憲民主党は立党の功労者であっても、ゆくゆくは代表を変えたほうがよい。
さらに野党共闘は、参院選に臨んで憲法・原発・日米関係など基本路線がまるで違う政党が連立内閣を作ったとき、どのような姿になるのか、それを示さず、共闘によって議席を増やすことだけを考えていた。これでは万が一勝利しても、民主党政権と同じような混乱がおきると人は見るだろう。
先月、本ブログで岩垂弘氏の紹介による「護憲団体が参院選を総括」(8月5日)を読んだ時にはためいきが出た。
「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)」の総括は前半で、この選挙では、多くの地域で市民と野党の共闘が実現し、32の1人区で10議席を獲得でき、改憲勢力の3分の2を打破することができた。自民党が現有議席を確保できず、参議院における単独過半数を失った、憲法改正を訴えた安倍晋三首相の路線が否定された、と述べている。
岩垂氏はこれを「まさに、“勝利宣言”とみて差し支えないだろう」と判断している(氏がこれに同意しているわけではない)。「九条の会」の総括も「市民連合」と同じ趣旨である。
選挙後の記者会見では枝野氏も共産党の志位氏も、野党共闘の成果を強調した。だが立憲民主党の議席は増えたが、国民民主党と共産党は減った。野党間で議席のやり取りをしたに過ぎない。
自民党は前回参院選のできがよすぎたから、議席の若干の減少は織り込み済みだった。むしろ他党派が改憲に賛同したほうが国民の支持を得やすい。改憲まであと4議席あれば足りる。——ほら、国民民主党の改憲派がすぐそばにいるではないか。
8月末に国民民主党は参院選総括の中間報告を出し、あれこれの理由を挙げて敗北を認めた。
だが立憲民主党は総括をいまだやっていない。党内事情はわからないが、選挙をやったら結果を分析し教訓とするという、政党としての最低の手続きがなぜできないか。この党は国会議員のおしゃべりクラブにすぎないのか。
とはいえ、安倍政治を終わらせようとすれば、われわれには立憲民主党を大きくする以外に方法がない。朝日新聞の世論調査では、過去3年の安倍内閣の世代別の支持率は、18~29歳の男性は57・5%、30代男性は52・8%。男女の全体は42・5%だった。不祥事が起きても、この世代の支持率は一時下がってすぐに回復するという。党勢拡大を図るなら、若者を引き付け、将来への夢を与える政策と活動が必須であることがわかる。
国会では野党議員が安倍内閣閣僚の食言を金切り声で糾弾し、揚足取りをするが、われわれはもうあきあきしている。そういう時代はすでに終ったのだ。糾弾一辺倒は、対案を提起する能力のなさの裏返しである。
新しい路線は、新自由主義・アベノミクスの手直しではなく、これを画期的に転換する経済・社会政策でなければならない。またそれを一口で表現できる政治スローガンが必要である。
それは経済の低成長のもと、1000兆円を超す財政赤字対策、食料とエネルギー自給率の向上、年金を含めた高度の社会福祉という、解法の困難な多元方程式の解を求めることにならざるを得ない。いま立憲民主党はこの課題に急いで取りくんでほしい。
さらに政治路線やスローガンを決めるときは議員だけでなく、一般有権者が参加する開かれた討論をやって支持を広げてほしい。そのためには都道府県レベルで地方活動家を養成し、市町村に支部組織を作らなければならない。そうしてこそ右翼的労組に気兼ねをしない、真の国民政党へ脱皮できると思う。
広原氏が「左派勢力の中心である共産と社民が大量票を失った」と指摘したことについて、私もひとこと言いたい。
社民党は、もはや風前の灯火である。かつてソ連や中国を礼賛して人望を失い、選挙では労組に頼りすぎたために、いま支持基盤をほとんど失っている。
共産党は、参院選の得票が2016年よりも150万票の減少、大阪では衆院補選と参院選で惨敗を重ねたというのに、その総括を避けて「健闘した」とごまかし、志位委員長ら指導者は敗北の責任をとろうとしていない。共産党幹部は堕落している。
小池書記局長の7月の党会議への報告では、2017年総選挙時30万いた党員は現在7300人減、「赤旗」読者1万5000人減、同紙日曜版7万7000人減だという。これは1960年代、70年代入党者の高齢化と自然死がつづき、若者の入党が極端に少ないのだから当然の結果である。
共産党に対する国民の支持が限られたものである最大の理由は、ソ連の崩壊と中国共産党の専制政治を目の前に見て、社会主義・共産主義に何の魅力がなくなったこと、さらに私の経験からいえば、今どきの若者は閉ざされた組織体質を好まない。
党員は党の決定と異なる意見を公表してはならないとか、下級は上級に従うべしとか、異なる支部間の意見交換は許さないとか、さらに機関紙の拡大などで党員が上からしょっちゅう尻を叩かれているのをみれば、たいがいは尻込みする。
もし共産党が社民党の運命を避けたければ、いまや賞味期限の来た党名と政治路線、組織原則をみなおすべきだと思う。
60年ほどむかし、社共両党の連合政府をゆめみたものとしては、両党の衰弱はじつに残念だ。いまこそ自らのおかれた位置をよく見て、迫りくる破局と戦うべく、体制を刷新してもらいたい。そうすれば私は生活費を削ってでも、また村の共産党に1万円を寄付するつもりである。
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〔opinion9019:190924〕
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