植村裁判 10月29日の東京控訴審第1回口頭弁論(報告)
- 2019年 11月 5日
- 評論・紹介・意見
- 植村裁判支援する会
植村裁判10月29日の東京控訴審第1回口頭弁論が終了しました。次回は12月16日(午
後3時半からです。
原告側は、記事の根拠になった聞き取り調査立ち合い時の録音テープの音声データな
どを新証拠として提出し、記事は捏造ではないことを改めて主張しました。
弁護士と原告の意見陳述をご紹介します(長文をお許しください)。
■神原弁護士の意見陳述(全文)
高裁において提出する新証拠について若干ご説明した上で、意見を申し上げます。
なにより重要なのは、91年11月の、金学順氏の証言テープであります。当該
「証言テープ」には「妓生」に関する証言はありません。これまで植村記事は「妓
生」の記載がないことを理由に「捏造」と決めつけられてきました。しかし、植村さ
んは取材相手が話さなかった事実を記事にしなかったに過ぎません。それが「捏造」
等といえるはずがないではありませんか。それだけではありません。「証言テープ」
の内容は、記事Bの内容と詳細に一致しております。これは、植村さんには事実をね
じ曲げる意図がなかったことの端的な証であり、この証言テープは、記事が「捏造記
事」ではないことの具体的かつ決定的な証拠であります。
「遺族会入会願書」(甲201)も重要です。甲201の日付けからすれば、記事
Aが発表された段階で、金学順氏は「義母の裁判」に関わっていなかったことが明ら
かです。ならば、記事Aを執筆するに際し、植村さんに「義母の裁判を有利にする意
図」等あるはずがないではありませんか。
このように、植村氏の記事を「捏造」とするのは事実として間違いです。しかし、
被控訴人らは、それでも、妓生の経歴こそ「事柄の本質」だと主張するかもしれませ
ん。この点、私たちは、妓生は性売買が予定された存在ではなかったこと、むしろ歌
や踊りに秀でた芸人であったことを示す多くの証拠を提出しました。妓生は公娼(売
春婦)でもなければ、慰安婦でもありません。妓生の経歴に触れずに慰安婦の証言を
書くことは、歴史の描き方として、何の問題もありません。まして「捏造」とされる
謂われがあるはずないではありませんか。
百歩譲って、「妓生=公娼(すなわち売春婦)」という思い込みを前提にしたとし
ましょう。甲196号証の、金氏の証言内容をご覧ください。28年前に植村氏が聞
いたのは、戦争当時17歳の少女が受けた、生々しい、戦時性暴力の被害証言です。
性犯罪の被害者の証言を記事に書く際に、「彼女は実は公娼(すなわち売春婦)だっ
た」等と普通書くでしょうか。それを書かかなければ「捏造」だ等というのは言いが
かり以外のなんなのでしょうか。
植村氏の記事を「捏造」だ、などと決めつけるのは、事実としても、歴史として
も、そして、倫理的にも、誤ったことであります。戦時性暴力に厳しく向き合うのは
90年代以降の世界の趨勢であり、性暴力被害証言を歪める東京地裁の判決は、まさ
に世界の恥さらしであります。
今回提出した新証拠に正面から向き合って頂き、公正な判決を下すよう、お願いす
る次第であります。
■植村隆氏の意見陳述(全文)
私はこの夏、「捏造」という、私の記事に対する西岡力氏のレッテル貼りが間違い
であることを証明する、決定的な証拠を発見しました。元日本軍「慰安婦」金学順
(キム・ハクスン)さんに対する弁護団の聞き取り調査を録音した、28年前のテー
プです。この聞き取り調査に私は同席していました。そこでの金さんの話を再現する
形で、1か月後の1991年12月25日付の朝日新聞大阪本社版の「語り合うペー
ジ」に「帰らぬ青春 恨(ハン)の半生」という記事を書きました。記事Bのことで
す。
西岡氏は「増補新版 よくわかる慰安婦問題」という文庫本を出しています。西岡
論文Aのことです。西岡氏はこの論文で、「朝日新聞の悪質かつ重大な捏造」という
見出しをつけて、私の記事Bをこう批判しています。
「この十二月の記事でも、金学順さんの履歴のうち、事柄の本質に関係するキーセン
に売られたという事実を意図的にカットしている」「都合が悪いので意図的に書かな
かったとしか言いようがない」。
しかし、この聞き取りテープを丹念に調べたところ、金学順さんは弁護団に対し、
ひとことも、「キーセン」という言葉を語っていないことが確認されたのです。本人
が語っていなかったことは記事には書けません。
私は記事Bのリードで、「証言テープを再現する」と書いています。金学順さんが
テープの中で語っていないことを、書かないのは当たりまえのことです。本人が語っ
ていないことを書かなかっただけで、「捏造」だと言えるはずがないではありません
か。
裁判官の皆様、どうかご理解ください。私は「捏造」などしていないのです。
西岡氏は論文Aで、こうも書いています。「朝日新聞は今日に至るまでも一切の反
論、訂正、謝罪、社内処分などを行っていない。それどころか、後日、植村記者を、
こともあろうにソウル特派員として派遣し、韓国問題の記事を書かせたのだ。この開
き直りは本当に許せない」。
「この開き直りは本当に許せない」。西岡氏が、私だけを「標的」として、執拗に
攻撃を繰り返してきたその背景に、この「憎悪」があるのだと知り、ぞっとしまし
た。西岡氏は私への処罰を求めているのです。
私は、西岡氏から記事を「捏造」と断定され、繰り返し誹謗中傷されました。そし
て、西岡氏の言説の影響を受けた無数の人々からの激しいバッシングにあい、私の人
生は狂いました。
就任が決まっていた神戸松蔭女子学院大学専任教授のポストは失われ、日本の学生
たちと共に学ぶという夢が絶たれました。それだけではありません。当時非常勤講師
をしていた札幌の北星学園大学には抗議のメールや電話が殺到しました。「売国奴、
国賊の(中略)植村の居場所を突き止めて、なぶり殺しにしてやる」などの脅迫状も
送られてきました。私を誹謗中傷する言説がインターネットにあふれました。
記事執筆当時は生まれてもいなかった私の娘まで、インターネット上に名前と写真
を晒され、「自殺するまで追い込む」等と書き込まれました。あげくには、娘の殺害
を予告する脅迫状まで届くようになりました。
これらは全て、私の記事が「捏造」だと信じた人々の行動なのです。そして、西岡
氏は私の記事を「捏造」と名指しした元祖であります。
私は自分の名誉だけでなく、家族の命を守るためにも、裁判に立ち上がらざるを得
なかったのです。裁判官のみなさん、このことを、どうかご理解ください。
私は「捏造記者」ではありません。裁判所は人権を守る司法機関であると信じてお
ります。最後には司法による救済が必ずあると信じています。これまでの証拠や新し
い証拠をきちんと検討していただき、「捏造記者」という私に対する汚名を晴らして
ください。どうか、お願い申し上げます。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9150:191105〕
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