楊継縄『文化大革命五十年』(岩波書店)を読んで
- 2019年 11月 18日
- 評論・紹介・意見
- 大谷美芳
すさまじい暴力と死者。人口8億(当時)の大国における革命と反革命、そこで革命が崩壊して敗北。その結果である。毛沢東思想・継続革命論は革命を指導できなかった。なぜか?
①2つの政治勢力の折衷主義
「毛沢東が大衆を立ちあがらせ、官僚集団を粛清し、『天下大乱』を実現するためには、まさに造反派が必要であった。その毛もまた無政府状態を長引かせることはできず、秩序を回復して『天下大治』を実現するためには官僚を必要とした。」(p223) 「最後の結末では、官僚集団こそが勝者となった。敗者は毛沢東であり、敗者のツケを払わされたのは造反派というわけである。」(p224) これが筆者の総括であるが、表層的過ぎる。
劉少奇・鄧小平と周恩来を「官僚派」と同一視はできない。劉が「試練を経てきた」「老革命家」(序文)であれば、周もそうである。劉は文革開始直後に毛に反対する闘争を組織した。周は批判されたが文化大革命を支持した。この周の立場がごまかしであろうはずがない。
文化大革命は、毛沢東と周恩来を代表とする両勢力、「文革派」と「官僚派」の中の文革支持派(「官僚派」の分裂)が担った。林彪事件後の共産党第10回大会(73年)は、毛の支持を得て周が主催した。「四人組」打倒(「文革派」も分裂)後の11回大会(77年)は華国鋒と葉剣英(周派)が主催した。それは、文化大革命と「四つの現代化」、階級闘争と経済建設を平行的に折衷した。この折衷主義が、文化大革命の推進力でもあり、破綻原因でもあった。
②官僚制国家資本主義を生産関係から批判・革命できず
官僚主義で官僚制国家資本主義に変質・転化する。文化大革命はそれに反対した。しかし、生産関係に対する社会革命の路線がなかった。確かに、まだ組織問題(スターリン書記長解任)に止まっていたレーニン「最後の闘争」より先に進んだが。
官僚が生産手段所有制を支配して官僚ブルジョア階級となる。その根拠を上部構造の思想のみに、結局は「私心」に求めた。「私(心)と戦い修正主義を批判する」(67年『人民日報』『紅旗』『解放軍報』)。文革後半に労働に応じた分配=「ブルジョア的権利」をその根拠とした。しかし、消費手段の分配制でしかない。根拠はもっと奥深い所にあった。
機械制大工業に基づく生産を管理し運営するために官僚機構が成立した。官僚は、直接的生産における労働を指揮し、生産手段の分配制、拡大再生産=蓄積を管理・運営した。これが生産手段所有制の支配に発展する。ここに官僚主義と官僚制国家資本主義の最深の根拠があった。しかし、生産関係のこの根底に迫る批判と革命の路線がなかった。
官僚制国家を打倒したが、「天下大治」を実現できなかった。「上海コンミューン」を否定し、革命大衆(「文革派」)・解放軍・革命幹部(文革支持の「官僚派」)の三結合で「革命委員会」を全国的に成立させた(68年)。経済を管理・運営しようとしたが、できなかった。崩壊した。
プロレタリア階級は、機械制大工業の自主的大衆的な管理・運営をすぐにはできない。官僚と官僚機構はすぐには廃止できない。まずは管理・運営の実権を握る官僚を統制する闘争、これの蓄積を通してしか、管理・運営する能力を養成・準備できない。これが階級闘争と経済建設の統一を可能にする。しかし、この持久戦の路線がなかった。
③継続革命ではなく人民民主主義を社会主義に転化する革命
国有化と集団化(50年代)を、人民民主主義独裁(49年樹立)がプロレタリア階級独裁として機能して達成した社会主義革命、とした。だから、文化大革命(66年開始)は、プロレタリア階級独裁の下での、つまり社会主義における継続革命、とした。しかし、官僚が生産を管理・運営していた。まだ、社会主義ではなく、それ以前の段階、国家資本主義であった。
マルクス主義はプロレタリア革命の理論であるが、20世紀はロシアも中国もブルジョア革命に直面した。プロレタリア階級が革命を主導し、人民民主主義独裁(ロシアは「プロレタリアートと農民の革命的民主主義的独裁」)を樹立し、それをプロレタリア階級独裁へ転化して社会主義革命へ前進する、と定式化された(弁証法的唯物論の主観的能動性)。文化大革命はこの第2段階の社会主義革命であった。しかし、主客の要因があって敗北した。
それを総括して初めて言える。人民民主主義独裁と国家資本主義の段階では、プロレタリア階級は、管理・運営する官僚を大衆的に統制する。それで能力を養成し準備してこそ、自主的大衆的な管理・運営、コンミューン・ソヴィエト型国家プロレタリア階級独裁への転化、社会主義が実現できる。その後が、共産主義(高い段階)に向けた「継続革命」だろう。
④21世紀こそ社会主義革命の時代
ソ連に続き、中国もベトナムも官僚制国家資本主義化した(資本主義化の唯物論的必然性が主観的能動性を包摂)。ソ連の崩壊を総括し、統制経済から市場経済に転換して経済発展した。朝鮮が続く。革命はブルジョア革命に終わった。国際共産主義運動とマルクス・レーニン主義は破綻した。1970・80年代は世界史的な転換点であった。
同じ時期、韓国や台湾が資本主義化した(開発独裁=上からのブルジョア革命と人民の下からの民主主義闘争)。ASEANが続いた。資本主義の世界的拡大。グローバリズム。
21世紀、多くの国々が直接的な社会主義革命に直面する。共産主義者が人民闘争の中で総括を深めれば、必ずマルクス・レーニン主義を再構築してプロレタリア階級を指導できる。
「毛主席の社会主義革命論は、当面の修正主義の支配に反対し、資本主義の復活に反対を続ける直接的な指導理論である。」。2015年に13の省・市・自治区の毛派共産主義者が宣言したという(日本語版への序文)。まだ総括できていないと思える。「権力の抑制均衡そして資本を抑制する制度」「立憲民主制度」(p230)。筆者は胡耀邦と趙紫陽に連なる民主主義派と思える。官僚制国家資本主義に反対する「両極端は相通じる」(p73)だろう。
(おわり) 2019.11.18
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