2019.ドイツ便り(14)
- 2019年 9月 8日
- カルチャー
- 合澤 清
このところドイツは寒い日が続いている。朝早くの散歩時間も少し遅らせて、通常の6時半から6時45分~7時頃にしている。それでも、時には外気が5℃くらいにまで冷え込むことがある。東京の初冬である。
先日の朝、いつも出会う小母さんたち、その内の一人は全く元気で、いつもは薄いシャツと薄いカーディガンを羽織っているだけなのだが、さすがにこの日は上から厚手の上着を着ていた。
「寒いですね」と挨拶したら、「ドイツは時々寒くなることはあるが、こんなに急に寒くなるのは珍しい。しかも、今年は異常に寒い」との返事。「あなたは薄手のズボンで大変ね」と言う。実際、われわれは夏用のものしか用意していない。こんなに寒くなるなんて全く予想もしていなかったからだ。
「いよいよ今度の日曜日でお別れね、東京ももう寒いの」と尋ねられる、すかさず連れ合いが「東京は今日調べたら34℃だったそうですよ」と答えたらお二人ともびっくりして、「まだ日本は夏が続いているのね」「いや、これからしばらくは蒸し暑い(schwül)天気が続くんですよ」「大変ね。お元気でね、またお会いしましょう」
この元気な小母さんは、当年78歳だと自己紹介してくれたが、顔の色つやも良い。小太りだが、おデブの多いドイツ人にしては立派なものだ。
以下、朝もや(霧)のかかった散歩道のスナップ写真(同じような風景で恐縮だが)をご紹介して、せめてもの涼しげな雰囲気を味わって頂きたい。
写す方のひいき目だろうが、カメラを向ければ馬の動きがピタッと止まり、なんだかポーズをとっているように動かなくなるのが面白い。
途中の道の両側のリンゴもやっと赤くなり始め、先日、もいだものを食べたら新鮮で甘くなっていた。早速今朝の散歩中にいくつか物色したのだが、いずれも虫食い状態か、あるいはすでにライバルの鳥につつかれた後だったりしていた。自然界の生存競争は激しい。
<帰り仕度の憂鬱さ>
毎年思うことだが、帰り仕度ぐらい憂鬱なものはない。身辺を整理し、「飛ぶ鳥跡を濁さず」という心構えだけは忘れたくないと思うのだが、2ヵ月半の暮らしで、やたらに日常の雑貨が増えているのにあきれる。貧乏症のわれわれは、なるべく捨てたくないと少なくとも最初は思う。かばんやリュックに詰め込み、重い荷物を担いだとたんに、すぐ気が変わる。
全部捨てて行くわけにはいかないのだろうか、何とか軽く出来ないものか、・・・年齢を重ねるごとにこの悩みは深刻さを増す。
随分前のことだが、エールフランス機を利用したことがある。トランクが少し重量オーバーしていたらしく、受付ではねられた。片言のドイツ語で必死に抗弁したが、向こうはフランス語か、せいぜい英語しか喋ってくれない。しかも空港は「フランクフルト空港」なのだ。
近くに郵便局があるから、そこで荷物を送ってこいという。不案内の外国で、しかも時間制限のある中で、重い荷物を引きずって郵便局まで行き、なにがしかの中身を日本あてに送った。
ところが、それでもまたはねられた。リュックと合わせたらまだ重量オーバーだという。情けなくなった。再び下手なドイツ語で必死に抗議した。相手は冷たい態度だったが、その内、ドイツ語を話す女性が代わって相手になってくれた。「この中には本は入っているの」「もちろんです」「それなら問題ないわよ」。何のこともなく無事パスした。
エールフランスに対する嫌な思い出である。
「割れ物注意」(Vorsicht!)の荷札をつけていて、何が入っているかを聴かれた時、「ドイツワインだ」と言ったのが間違いだったのかもしれない、と後から思った。
個人でドイツ旅行か滞在される方は、長距離で目的地がはっきりしている時には、長距離バス利用をお勧めしたい。ICE(新幹線)の中を重い荷物を引きずって移動するぐらい疲れることはない。通路は狭く、しかも混雑している。料金は高い。バスは、指定席で、荷物は最初から預かってくれる。格安の料金だ。(ゲッティンゲン―フランクフルト間、ICEは150~200ユーロ/2名、バス26ユーロ/2名)
時間は倍ぐらいかかるが、ICEは頻繁に遅れていて当てにならないが、バスは正確だ。
<今夏の反省>
いつもながらの計画倒れに終わってしまった。
いくつか、小論を書こうと計画したのであるが、冒頭部のみ書いて行き詰まってしまった。その一つは「ドイツ革命をどう総括するか」というものだった。もちろん、今更ドイツ革命史を書くつもりはないし、それは専門家が既に何人もやっている。素人が屋上屋を架すつもりは毛頭ない。
また、フランス革命やロシア革命との比較史を試みるのも、専門の歴史家にお任せする以外にない。どれ一つとっても素人の出る幕ではない。
私が試みようと思ったのは、それらの歴史研究の成果を素材としての「ドイツ革命総括」である。それは、すでに明らかなあれこれの事実を羅列することではない。ある視点を定めて、それらを読み換えてみようと考えたのである。
ヴァイマール共和国体制への幻想、キールでの水兵反乱への「革命幻想」(実際には、高々「反合理化闘争」でしかなかったため、悪名高いノスケ:ローザやリープクネヒト虐殺の張本人、が出向いて話し合い解決している)等々、をはぎ取る以外にその真の総括はありえないと思ったからだ。
ヘーゲルの『法哲学』の解読。最初からドイツ語で読むのはかなり時間がかかるため、「世界の名著」を持参して、訳文を読みながら、不明な個所や自分でポイントだと考えた個所を原文(今はインターネットで簡単に読めるのがよい)に当たってきた。序文と諸論の§7までかろうじて読み進んだが、なかなか自前の文章化は難しい。
というところで、今年の夏は打ち止めである。
以下、私自身も関わっている現代史研究会の宣伝などしてお茶を濁したい。
今年は廣松渉先生が亡くなられてから25年目の節目に当たります。前々から、現代史研究会でも何かやるべきではないかと言われていました。
但し、従来のような「お祭り」イベントにはあまり気が進みませんでした。今後やるのなら、廣松哲学の未来への継承という視角からやるべきだと常々思っていましたところ、今年の7月初旬にライプチッヒで小林敏明さんにお会いし、色々話をお聞きする中で、彼が長年西田幾多郎や京都学派の研究をされていたこと、また下に参考文献としてご紹介した本の著者であることに思い当り、早速小林さんに交渉し、快諾を得た次第です。たまたま、小林さんが私事で帰国されるということも重なり、誠に運良くこの研究会を組むことになりました。
つきましては、是非この際多くの方々にお集まりいただき、廣松哲学を多角的に議論の俎上に挙げながら、廣松自身が最も関心を示していた「今の世の中をどう変革すべきか」についての討論が出来れば幸いと思っています。
第313回現代史研究会(「廣松渉没後25年」記念研究会)
日時:10月5日(土)1:00~5:00
場所:明治大学駿河台校舎:研究棟第9会議室
テーマ:「〈近代の超克〉新論」
講師:小林敏明(ライプチッヒ大学名誉教授)
司会:石井知章(明治大学教授)
参考文献:廣松渉著『「近代の超克」論』(講談社学術文庫)
小林敏明著『廣松渉-近代の超克』(講談社学術文庫)
資料代(参加費):500円
主催:現代史研究会/共催:情況出版(136-0071江東区亀戸8/25/12)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔culture0860:190908〕
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