[パンデミックの政治2] 検査なくして対策なし:安倍ウィルスで広がった感染症パニック
- 2020年 3月 2日
- 時代をみる
- アベ加藤哲郎新型コロナウィルス
2020.3.1 新型コロナウィルス(COVID-19)という「妖怪」が、世界を席巻しています。2月に始めた私の「パンデミックの政治学」は、長期連載になりそうです。前回、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)流行の経験に即して、①WHOのパンデミック宣言には、国際政治のバイアスが入ること、②各国の医療保健システムと 初動体制が、感染と犠牲者の規模・広がりにとって決定的であること、③国際的にも国内でも、人種差別や経済格差が作用し、貧困国、社会的弱者・底辺層に犠牲が強いられること、を述べました。2月の世界と日本の動きは、不幸にも、事態は10年前の繰り返しになっているようです。特にこの国は、安倍ファシスト政権の隠蔽・ごまかし・言い逃れ体質が、新型感染症対策にまで色濃く反映し、世界的にみても後進的な無策で、いのちとくらしの危機を深刻化しています。もはや「武漢ウィルス」ではありません。「安倍ウィルス」の蔓延です。
①世界保健機構(WHO)は、2月末現在まだ「パンデミックへの備え」「リスクが非常に高い」段階で、「パンデミック宣言」を出していませんが、米国疾病予防センター(CDC)が「パンデミックの瀬戸際」といいだし、カリフォルニアで経路不明の感染者=「市中感染」が現れ、トランプ大統領も緊急記者会見で「2、3の国の入国禁止」にまで言及しましたから、3月早々には、世界はパンデミック状態とされるでしょう。なにしろ「世界の工場」中国での生産がストップし、ウォール街の株価が暴落して、世界経済はリーマン・ショック以来の危機です。2009年当時も、当初は「貿易・渡航制限は不要」といっていたWHOが、「パンデミック宣言」を出したのは、アメリカ国内で死者が出た直後でした。
②の各国別対応で、日本は、感染症対策の後進国であることを、世界に露わにしてしまいました。当初の武漢在住日本人チャーター機脱出作戦、すでに沖縄で入国審査・検疫を受けたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号乗員・乗客の船内隔離・感染検査のお粗末、なによりも、率先して動くべき政府と厚労省の初動対策の甘さ、そこで露呈した国立感染研と「安倍トモ」官僚の無能。あの和泉洋人「健康・医療担当」首相補佐官と大坪寛子厚労省官房審議官コンビが主導した「湖北省しばり」の水際作戦失敗と、なぜか慈恵会医科大や国際医療福祉大関係者が多い政府系「専門家」の「やってる」プロパガンダ。慈恵医大は大坪の出身校、国際医療福祉大は、あの加計学園と同じく、和泉補佐官担当の「国家戦略特区」でできた天下り大学です。無論、一握りの「御用学者」のみが使われて、一般教員や学生にとっては迷惑なことですが。「桜を見る会」や検察官「定年延長」問題と同じ事実隠しは、対策を後手後手にして、いまだに確かな感染状況がつかめないPCR検査の遅れ、「検査難民」問題に、典型的に現れています。当初は見下していた中国や韓国の毎日1万人以上のウィルス検査態勢に比べ、日本の「パンデミック」準備態勢の遅れは、際立っています。
何故、こんなことになったのでしょうか。「安倍ウィルス」のしわざです。安倍晋三は、中国・武漢から始まった新型ウィルス感染を、「対岸の火事」とみなしていました。それも春節という日本の正月に当たる中国人大移動による拡散で、中国政府の「武漢封鎖・隔離」も共産党独裁ならでの人権無視で攻撃材料と見なしていた形跡があります。日本のメディアの多くも、もちろん反中ネトウヨも、「野蛮な国」中国ならではの問題にしていました。日本の初動は、武漢・湖北省の自国民保護と豪華クルーズ船の各国セレブ客の隔離のみでやりすごそうとしました。安倍首相の危機感は、桜や検察問題での国会野党対応にあり、官邸・厚労省の保健官僚任せでした。
不幸なことに、日本の保健・医療体制は、福祉予算削減の改革期にありました。高齢者医療の負担増、診療報酬体系・薬価の見直しはもとより、基準病床数制度による病院の空きベッド数削減や感染研等研究予算・人員のスリム化が、課題とされていました。その基礎デザインを担当し、京大山中教授のiPS細胞研究予算削減強要まで進めていた「安倍トモ」和泉・大坪コンビが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」対策の初動で、ミスしました。大坪が、「文春砲」の批判をかわし「名誉回復」するためか、2月6日に厚労省を代表して記者会見し、まともに船室隔離・高齢者診療もできず、乗員の検査をあとまわしにした船内感染者増加と、PCR検査の「湖北省しばり」の正当性を説明していたのです。その後の無残な船内感染の増大、検疫官・医師や厚生省職員を含む感染拡大、陰性と判定された乗客の公共交通機関で帰宅後の陽性者続出、日本の対策を信頼できないアメリカ他各国のチャーター機による自国民の日本からの救出と自国内隔離・陽性者発見、そしてすでに、イギリス人を含む6人以上の「人災」犠牲者を出しています。「安倍ウィルス」の人災です。
忘れてならないのは、本来は真っ先にPCR検査を受けて、陰性の健常者のみで乗客サービスにあたるべきだったフィリピン、インド、インドネシア等の国籍が多い乗員の検査が、後回しにされたことです。日本の国内メディアでは、なぜかほとんど触れられなくなりましたが、538人(乗客7人・乗員531人)のフィリピン人のうち、陰性で帰国を希望した445人がクルーズ船を離れチャーター機にのれたのは、ようやく2月25日で、59人は感染が確認され、日本の病院に残されました。他の数十人はまだ船内です。重症者もいるでしょう。隔離された帰国者からも、アメリカ42人やオーストラリア・香港8人等と同様に、再検査で陽性者がでてくるでしょう。日本の感染症医学・検査体制の不備を、世界に晒しました。②の各国別感染対策の違いと共に、③感染者・犠牲者の差別的扱いに、世界的格差構造が映し出されました。初動期にWHOも述べていたように、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号は、中国武漢市と共に「パンデミックの政治学」の世界的素材でした。そこで中国政府よりもさらに劣悪な、日本政府の水際対策の不備が白日の下に示され、世界に不安を拡散したのです。
中国革命を導いた毛沢東に、「調査なくして発言権なし」という有名な言葉があります。1930年の言葉ですが、それは毛沢東の農民層分析等にも表現され、「科学的」政策の前提とされます。ウィルス対策で言えば、「検査なくして対策なし」でしょう。グローバル化とIT化が世界を覆い尽くした現代では、パンデミックのような国境を越えた危機にあたって、正確な情報データとその世界への発信が、対策の信頼性を担保する決定的意味を持ちます。中国は、初動で正しい事実と警鐘をSNSで発した医師の情報を言論弾圧したため、初動の遅れと1100万大都市武漢の封鎖を余儀なくされましたが、その後は、感染拡大・感染死の数を毎日公表し、それを分析した医学論文、病棟増設、全国の医療資源の集中的投与、感染防止規制、新薬開発などで、世界第2の経済大国の力を発揮しました。隣国韓国は、感染者数で中国に次ぎますが、いったん新興宗教団体の礼拝から集団感染が察知された後の文大統領の決断・対策は、日本とは対照的でした。連日1万人に及ぶPCR検査(ドライブスルー検査!)を国を挙げて実行し、感染者に対する生活保障・企業支援も手厚いものです。シンガポールやイタリアも同様です。
感染はすでに、5大陸55か国以上に広がっています。中国・韓国・シンガポール等と比べると、日本とイランの感染調査と対策、投入予算・人員のお粗末が、際立っています。日本の感染者数が少なく見えるのは、当初WHOにクルーズ船感染数の別枠化を求めたような見かけ上の過少申告、4月の習近平国賓招待、7月からの東京オリンピック強行のために数字を小さくしたい思惑が有り、そのために、PCR検査そのものをサボタージュしたものでしょう。2月25日の日本政府の「感染症対策の基本方針」は、初動対策ミスの反省もなく、PCR検査についてはむしろ対象者を狭めかねない、「検査難民」倍増の愚策でした。安倍内閣の支持率も大きく下がり、加藤厚労大臣の官僚的対応は、国内外で信用を失っていました。それは、厚労省が「専門家」として頼ってきた国立感染症研究所の規模と予算・人員の貧困ばかりではなく、もともと感染研の前身である予防衛生研究所(予研)が、東京大学伝染病研究所(伝研、現在は医科学研究所)から分離・創設される際に、GHQサムス准将に取り入った関東軍防疫給水部=731部隊医学者・医師を幹部とし継承してきた歴史と関わっていると、詳しく書くつもりでしたが、また局面が代わりました。
2月26日・27日に、安倍首相がなぜか「反転攻勢」に出て、スポーツ・文化イベントに「自粛」を求め、全国の小中高等学校を休校にし春休みに入る、と暴走しだしたので、感染研にまつわる歴史的分析は、次回以降にまわすことにしました。対策本部も専門家会議も後手後手で、記者会見もなかった安倍晋三が、急に危機感を示しました。この「暴走」は、すでに国内外で信用を失った「専門家会議」「基本方針」が不評で、「ごく少数の側近」にのみ相談して「安倍トモ」荻生田文科相を呼びつけ、与党幹部や他の閣僚にも知らせず、「首相のリーダーシップ」を初めて発揮したもののようです。「側近」に1月まで入っていた和泉首相補佐官は、大坪スキャンダルで消えたようです。時事通信「首相動静」の2月の面会者を見ると、「安倍ウィルス」の増殖メカニズムが見えてきます。首相の財界・芸能人・メディア人脈とのグルメや宴席の多さ、「不要不急」の「安倍トモ」とのふぐ三昧、稲田朋美誕生会等は相変わらずですが、ほとんど毎日会っている「側近」は、管官房長官でも加藤厚労大臣でもなく、北村滋国家安全保障局長、今井尚哉首相補佐官、秋葉剛男外務事務次官の三人です。朝日新聞2月29日付けによると「全国一斉休校の独断専行」は、今井首相補佐官のアイディアのようです。この三人組、今後も要注意です。
突然の「暴走」「独断専行」には、安倍晋三なりの危機感があります。世論調査の支持率低下や北海道知事の「英断」高評価もありますが、そればかりではないでしょう。衆院予算審議を乗り切り新年度予算を確実にした安堵でもないでしょう。底流は、消費税上げによる経済の停滞(アベノミクスの失敗)、それを補うはずの習近平国賓招待と夏のオリンピック遂行であったでしょう。しかし北村・秋葉ら「側近」から入る海外の評判・動きは、芳しくありません。日本のクルーズ船対応は、中国の武漢封鎖なみの注目度で、失政とされました。WHOのパンデミック宣言は不可避で、時間の問題です。アメリカCDCの渡航危険レベル3になると、日本は「2、3の国」=中国・韓国と共に出入国規制の対象になりそうです。日本企業への打撃はもとより、秋の大統領選挙向けパフォーマンスが主眼の「親分」トランプ大統領の気まぐれ次第では、安倍は切り捨てられる可能性も出てきます。2月29日夕の安倍首相の初めての記者会見は、「休校」を「休業」という国民向けのパフォーマンスで、質疑も途中で打ち切り、具体策は官僚・現場任せでした。米国向けには、いっそう入国禁止規制を必要とする材料となったでしょう。
東京オリンピック開催は国際オリンピック委員会(IOC)の権限で、その有力委員が、5月までに感染がおさまらなければ中止もありうる、と言い出しました。「1940年幻の東京オリンピック」の悪夢再来です。これらに株価暴落が重なってのギャンブルが、安倍晋三の「緊急事態宣言=全国小中高等学校一斉休校指令」です。しかしこの「唐突」な政策転換には、各官庁も都道府県・市町村も、医療現場も子を持つ親の職場も、大混乱でついていけません。「安倍ウィルス」で汚染された混沌=カオスです。たとえ学校休校はなんとかなっても、満員電車も観光地不況もそのままで、3月でおさまることはないでしょう。なにしろ世界不況に入った経済界には、「在宅勤務」「時差出勤」のススメと「有給休暇を認めてほしい」と懇願するレベルのものですから。しわよせは非正規労働者や子を持つ女性労働者に集中します。マスク不足は深刻な事実ですが、トイレットペーパー買い占めという、かつて石油危機時にみられたパニックまで起きています。いのちとくらしのかかった情報戦は、続いています。
「パンデミックの政治」の行方は、遅ればせのPCR保険適用で、ようやく肝心のデータの本格的収集がはじまりそうな局面ですから、まだまだ予断を許しません。[2020年3月のおすすめ]として、関東軍防疫給水部(731部隊)とならぶ軍馬防疫廠(長春100部隊)の細菌戦を追った小河孝『満州における軍馬の鼻疽と関東軍ーー奉天獣疫研究所・馬疫研究処・100部隊』(文理閣)をご紹介します。軍馬が兵士よりも重宝され、動物実験から生体実験まで実行された日中戦争期の獣医学を、安達誠太郎や三友一男の体験記を批判的素材に、専門家(日本獣医生命科学大学教授)らしい抑えた筆致で隠された実態を読み解きます。私の関心は、その延長上での日本獣医学の戦争責任回避と加計学園に至る今日の問題ですが、実は動物起源の新型ウィルスや、感染研のBSLレベル4施設の問題にも大きく関わります。新型ウィルスは中国「武漢国家生物安全実験室」発の生物兵器だという陰謀論も盛んですから、まずは動物感染の基礎知識を得るためにも、どうぞ。2月の「パンデミックの政治 1」も、下に残しておきます。
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パンデミックの政治とワンヘルス
現代は危険社会です。多くは産業革命以来の人間の傲慢が、動植物や自然生態系とのバランスをくずし、地球的規模での危機管理を求めています。核戦争や気候変動が典型的ですが、新型ウィルスなど感染症もその一つです。、新型コロナウィルスの感染による肺炎の広がりを「緊急事態」と宣言しました。1月に中国の1100万大都市武漢市で見つかり、中国の旧正月春節の大移動で、中国全土に広がりました。ヒトとヒトの感染、潜伏期間中の感染、無症状感染も分かってきて、世界で20ヵ国以上、1万人に感染、死者も200人を越えました。受験シーズンの日本にも、武漢滞在者・旅行者から持ち込まれて、国内での二次・三次感染も疑われ、空港での水際検疫・封じ込め作戦は崩壊寸前です。予断は許しませんが、世界的大流行(パンデミック)にまで広がり、長期化する可能性があります。
今回の感染症は、2002-03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行と比較されています。いずれも中国発だからです。SARSは2002年11 月に中国広東省で見つかりましたが、中国政府はその症例・感染を隠蔽して初動対策が遅れ、本格的には2003年2月にWHOに報告されてから、世界的問題になりました。世界30ヵ国に広がり、8422人が感染、916人が死亡とされています。WHOが終息宣言を出したのは、2003年7月、発症から8か月かかりました。今回は、中国政府は数週間で対応し、武漢市の交通封鎖など思い切った封じ込め対策を実行しています。もちろん初動の感染源の特定と地方政府の混乱もあり、現地の感染者・住民の苦難、それに医師や看護師の苦労は大変なものです。感染規模は、すでにSARSを上回っています。武漢市以外の感染者が急激に増えていますから、世界的な問題です。
私は、今回の新型肺炎の問題を、2003年のSARS流行よりも、2009年のメキシコに発した新型インフルエンザ(H1N1、豚インフル)の流行と比較したいと思います。一つは、SARSの段階と比べ、中国の国際社会の中での意味が、リーマンショック後に飛躍的に大きくなっており、したがって、飛行機や鉄道・バスの交通、ビジネス・観光客を含む人的交流が、新しい段階に入っているからです。アメリカもヨーロッパも日本・韓国・東南アジアも、金融・物流・情報と共に、巨大市場でもある中国の人々とのつながりが不可避になっています。もう一つは、2009年4月12日にメキシコで見つかり、4月24日にはWHOの緊急事態宣言が出され、6月にWHOパンデミック宣言を出したケースと、現局面が似ているからです。214の国・地域で爆発的に流行し、2011年まで患者推計200万人・死者1万8097人に及びました。日本でも、当初はメキシコ帰国者封じ込め・検疫がありましたが、5月には関西の高校生から国内ヒトーヒト感染がわかり、文字通りの大流行で、200人以上が亡くなりました。
実は私自身、2009年は3月から5月までメキシコに滞在し、外務省・日本大使館の勧告で、客員講義途中で緊急帰国しました。空港で厳しい検疫を受け、以後10日間は、保健所監視付の自宅待機を体験しました。以後も、政治学者として、パンデミックを注視してきました。その詳しい経緯は、本トップで書き続けて、「2009年のリビングルーム」に収録しました。後に本サイト「メキシコ便り」中に「パンデミックの政治学」と名付けて時系列でまとめ、英語・スペイン語の論文も公表しています。それを読み直すと、ようやく空港での検疫から解放され、立派なマスクや、水銀式ではなく電子式の体温計を手に入れ、毎日検温していたのに、成田空港から厚生労働省・東京都経由、地元保健所へ連絡が入ったのは、帰国後4日間もかかっていました。保健所の電話検診もおざなりで、検温記録は心覚えに終わったいまいましい記憶など、時の麻生内閣の初動段階の不手際を想い出します。その詳細は「メキシコ便り」の2009年分を見て貰うことにして、ここでは、当時の参与観察から導き、2020年の世界と日本を考えるために役立つであろう、三つほどの教訓を記しておきます。
「パンデミックの政治」の第一は、国際機関WHOの役割と意味です。WHOの「緊急事態宣言」が世界に警鐘を鳴らし、フェーズが上がる毎に人々の衛生・安全意識を高めることは事実です。しかし、医学・医療専門家の国際提携はともかく、それは、世界の政治経済を動かすものではなく、むしろ国際関係によって動かされるものです。今回も「人の移動や貿易を制限するものではない」とわざわざ断っていますが、これは、世界政治経済における中国の役割、米中関係を考えてのものでしょう。2009年の場合も、米国とメキシコの自由市場協定(NAFTA) から、なかなか「緊急事態宣言」にいたらず、アメリカ人感染者から死者が出たためにようやくWHOが動いた、とメキシコではささやかれたものです。
第二は、ワクチンや特効薬がなく、流行地の住居や食糧、衛生環境が異なるもとでは、各国の政府と医療保健システムが、検疫・治療・防疫に決定的であり、感染・流行の程度を決めることです。先進国の場合は、自国人保護の特別機をチャーターしたり、高度な医療・防疫チームを組織することが相対的に容易ですが、それでも初動の対策は後手後手であることがほとんどで、容易に終熄しません。経済的・軍事的国力が弱い国ほど、多くの感染者・死亡者を出す傾向があります。2009年の新型インフルは、実は、メキシコでもアメリカ資本の養豚場が発生源とされ、ウィルスはアメリカから持ち込まれた可能性大ですが、アメリカはその風評被害を嫌って、当時「豚インフルエンザ(swine flu)」と言われていたものを、わざわざ「新型インフルエンザ」と呼称まで変えました。もっともそれに従ったのは、メキシコと日本だけなどとも言われました。今回安倍内閣は、邦人保護の緊急時政府専用機として、かつて日本軍が侵略した武漢まで、中国では軍用機扱いになる航空自衛隊を使おうとしたようです。
第三に、パンデミックは、世界的にも国内でも、貧困と格差の問題をくっきりと映し出します。2009年のメキシコでは、現地の白人、混血メスティーソ、原住民インディオのあいだで、感染率・死亡率が大きく異なったといいます。白人は早々とアメリカやスペインに逃げるか、豪邸に閉じこもり、マスクも買えない都市貧民インディオが、最大の犠牲者でした。今回は春節の武漢で、1100万人中500万人は爆発的感染前に北京や外国に抜けだしたといいます。どんな階層の人々でしょうか。規模が大きくなると、弱者への被害偏在が現れます。
もっとも、世界最大の観光支出国となった中国上層・中間層の人々が、欧米や日本へのウィルス運搬人になった可能性大です。パンデミックまで広がるかどうか、8か月や1年で終息するかどうかはわかりませんが、感染症リスクも、格差社会を映し出します。情報戦では、すでに反中ヘイトや差別言説がとびかっています。人間のいのちが、不平等に扱われているのです。 緊急事態名目での権力集中・人権制限は、パンデミック時の各国共通の特徴で、クローバル薬品ビジネスの便乗参入や、緊急事態対処の憲法改正までいいだす徒党も現れます。いのちより党利党略、私利私欲の輩たちが暗躍します。
こんな時に、「ワンヘルスOne Health」という言葉があります。「ヒトの健康を守るため動物や環境にも目を配って取り組もうという考え方です。人も動物も環境も同じように健康であることが大切だというわけです。公害や気候温暖化を思い起こせばわかりやすい」と説明されていますが、地球は一つという「ワンワールド」や、この国で流行る「ワンチーム」よりは、やや広く深いものです。すべてのいのちは、ヒトも動物も植物も、生態系のなかでつながり合っているという考え方です。東京大学の学術俯瞰講義の題目になり、厚生労働省もかかげています。ですが、気候変動の問題と同じです。スローガンよりも、いのちを守り救う実践が求められます。米国・イラン戦争の危機、イスラエル・パレスチナ問題、米国大統領予備選開始、イギリスのEU離脱、国内では桜を見る会、IRカジノ疑獄等国会審議が続きますが、「ワンヘルス」の時代に一番重要なのは、正確な事実と情報の公開です。3月まで新型肺炎が世界で広がっているようであれば、2020年は、本格的な「パンデミックの政治学」の出番となります。
[2020年2月のおすすめ] 名越健郎『秘密資金の戦後政党史ーー米露公文書に刻まれた「依存」の系譜』(新潮選書)は、戦後日本政治の深層に斬り込んだ力作です。自由民主党の創設時から始まる米国の反共工作資金供与、CIAの暗躍、日本共産党・日本社会党にルーマニア経由等で送られたソ連の秘密資金とKGBの役割ーー時事通信ワシントン支局長・モスクワ支局長から拓殖大学教授になった著者は、噂や憶測にもとづく類書とは違って、米国国立公文書館文書、旧ソ連秘密文書の資料ナンバーまで付して、東西冷戦時代の日本の政党政治が、米ソ代理戦争・情報戦でもあったことを説きます。インテリジェンスに関心のある方は、必読。you tube も1本。新聞・テレビではほとんど報じられないフランスの年金改革反対デモ。日本では、なぜ怒らないのか?
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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〔eye4688:200302〕
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