目くらましのような?「オーバーシュート」「ロックダウン」って
- 2020年 3月 22日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
3月19日、夜遅く専門家会議の記者会見が開かれた。前回は患者集団を意味する「クラスター」なる用語が登場したが、今回は、爆発的患者急増を意味する「オーバーシュート」、都市封鎖を意味する「ロックダウン」という言葉が飛び出した。横文字を使うのが“専門家”?日本語で言ったらいいのにと思う。感染拡大への危機に警鐘を鳴らしたいのであれば、別のメッセージ発信の方法もあるはずである。
こうした言葉に素早く反応するのもマスメデイアである。昨日3月20日の報道番組にしても、専門家会議のメンバーを呼んだりして、説明を聞くのだが、内容的には前回の会見時と、どこが変わったのだろうかと思うほど、あまり明確には聞こえてこなかった。前回は、リスクの高い3要件、密閉・密集・密接、とくに三者が重なる場合のリスクの高さが強調され、若年層に注意を促していた。
今回も、その3要件とともに、多人数が一室に集まる、イベントの前後で人が密集、全国から集まるなどの大型イベントの自粛要請、さらに、感染の拡大地域、収束地域、未確認地域に分類して、その対応が異なるが、感染リスクを適切に判断し、感染防止対策を講じた上で、感染リスクの低い活動を実施するよう求めている。自治体や主催者に、感染リスクの判断を任せていることに変わりはない。
前回の独断を責められたからか、専門家会議の発表を踏まえて、安倍首相は、3月20日の対策本部会議で「爆発的な感染拡大には進んでおらず、引き続き持ちこたえているものの、都市部を中心に感染者が少しずつ増えている」「大型イベント開催は慎重に」、文科相からは「一斉休校は解除し、再開の方向」との対応が示された。いずれにしても、イベントは主催者に、学校再開については市町村に丸投げをした形である。
自治体の首長たちは、戸惑いながら、北海道知事は、外出自粛を解除したり、大阪府知事のように大阪・兵庫の移動の自粛を求め、兵庫県知事とのバトルが展開されたり、京都市長は桜まつりの実施に踏み切ったりして、混乱を招いている。その根拠が明確に示されないからである。
そもそも「持ちこたえている」といって、他国と比べて、日本は爆発的な急増がみられないと、グラフなどで示すが、素人の私には、どうしても理解できないところがある。すなわち、首相や厚労相は、PCR検査が1日あたり4000件から、6000件、8000件まで可能になってきたと胸を張るが、その実績は、多くても一日あたり千件台を推移している。そうして判明した感染者数を他国と比べてもあまり意味がない。そしてさらに、専門家会議のメンバーは、なぜ検査件数が増えないのかについて、患者から検体を採取するための体制、防護マスクや服が不足している、また、その検体を検査機関に移送する体制ができていないからだという。また、保健所や帰国者・接触者相談センターで、要検査者を絞りに絞ったり、たらいまわしをしている実態も報告されている中で、症状がある患者が複数の医療機関で診察を受けている実態や無症状や軽症者による家庭内感染、院内感染、職場感染が数多く発生しているのも事実である。
また、クルーズ船からの陰性下船者・中国からのチャーター便帰国者に自宅待機を要請したに過ぎなかったこと、海外からの帰国者に発熱などのチェックだけで自宅待機要請しかしていないことは、感染拡大につながらなかったのか。また、PCR検査を増やせば、陽性患者が増大して、その対応ができず、重症者の治療ができないという医療崩壊を生じるという専門家会議メンバーもいた。これって、考え方が逆なんじゃないか、と不思議にも思う。無症状の軽症者の陽性患者を早く発見し、感染予防対策をとることがスタートではないかと思う。
疑いのある人や検査希望者、医療・介護・教育などの現場にある人は、積極的に検査を受けるべきではないのか。もちろん、PCR検査が万能でないことは承知しながらも、陽性患者を把握した上での対策が肝要ではないか。医療崩壊を言う前に、やるべきことがあるのではないか。今回の専門家会議では、そうした初動体制には触れていなかった。
経済的な影響の大きさに慌てて、まさに場当たり的な一律2万円?現金給付などというバラマキで、ことが解決するわけはない。予算はもっと有効に使ってほしい。
オリンピックについても、開催を前提にしながら、IOCが迷走を続けている。スポンサーとの関係で金銭的な打撃が大きいからだろう。JOCは強気らしいが、「完全な形で」の開催の実現可能性があるのか。代表選手が半分以上決まってない状況で、7月下旬とはいえ、選手や観客が日本にやって来られるのかの不安要素は大きい。げんに、各国のオリンピック委員会やスポーツ団体、選手からも、選手を守れのメッセージが届き、開催国日本は外堀を埋められている。「ウイルスに打ち勝つ」という精神論では何も進まない。
「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日)新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 file:///C:/Users/Owner/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/TIQWZOHI/000610566.pdf
新型コロナウイルス感染症の現在の状況について(厚生労働省報道資料)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html
PCR検査総数と陽性者数の推移(2020年3月11日~20日発表)
発表月日 | 検査数 | 陽性者数 |
~3月10日 | 9198 | 513 |
3月11日 | 424 | 54 |
3月12日 | 181 | 52 |
3月13日 | 1855 | 55 |
3月14日 | 359 | 40 |
3月15日 | 107 | 63 |
3月16日 | 43 | 33 |
3月17日 | 2083 | 15 |
3月18日 | 203 | 44 |
3月19日 | −453 | 39 |
3月20日 | 3943 | 36 |
合計 | 18844 | 943 |
*厚生労働省「新型の現在の状況について」から作成。3月19日のマイナスは、千葉県の統計ミスによる調整のためである
*国内事例のPCR検査実施人数は、疑似症報告制度の枠組みの中で報告が上がった数を計上しており、各自治体で行った全ての検査結果を反映しているものではない(退院時の確認検査などは含まれていない)。
*2月18日~3月18日までの国内(国立感染症研究所、地方衛生研究所等)における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施件数は、36,623件※。3月19日分は、現在集計中。「国内におけるコロナウイルスに係るPCR検査の実施状況(結果判明日ベース)(3月18日まで)」file:///C:/Users/Owner/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/XLUAEPA6/000610654.pdf
初出:「内野光子のブログ」2020.3.21より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2020/03/post-3d0e8a.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9567:200322〕
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