「新型コロナ暴落」は大恐慌への導火線か? ―大恐慌の90年後に考える―
- 2020年 3月 23日
- 時代をみる
- 半澤健市恐慌新型コロナウィルス
過ぐる「大恐慌」の発端はNY株式の暴落であった。
1929年10月のことである。
《1929年恐慌の後に何がきたのか》
暴落直前のダウ平均の高値は381ドル、それが3年後に安値40ドルをつけた。株価は9割下ったのである。(¢は切捨て)。
大恐慌の原因には諸説あって今回は述べる紙数がないが、現象としては典型的な金融バブルとその崩壊であった。
それから90年経った今日までの間、経済の世界になにが起こったのか。
30年代に、主要国は為替切り下げ、ブロック経済形成で解決を図ったが、結局「ナチズム独裁」(独・伊)、「天皇制軍国主義」(日)、「ニューディール政策」(米)、「社会主義建設」(ソ連)とに分かれて国策を強力に実践した。それは第二次世界大戦につながり、前二者のファシズム枢軸が、後二者のデモクラシー連合に敗北して戦争は終わった。事態は一応の解決をみた。大きな犠牲を払いつつ「戦争が大恐慌を克服」したといえる。
《戦後世界には何がきたのか》
第二次世界大戦後の世界は、枢軸国を屈服させた資本主義の西側諸国と、共産主義の東側諸国とが、冷戦という対立を続けた。冷戦は90年に資本主義体制が勝利した。「歴史は終わった」と述べた哲学者もいたが、それは終わらなかった。
戦後の71年には、金と米ドルのリンクが切れた「ニクソン・ショック」が走った。あわや29年の再来かと思われた「リーマン不況」は08年に起こった。こういう事象は、資本主義の矛盾が、未解決であったことを示している。埋められた地雷が時々爆発するのである。資本主義は、利潤拡大運動をやめると、生きていけないシステムだからである。マグロが水中を泳ぎ続けないと死ぬのと同じである。
矛盾の克服にどんな道具が使用されたのか。二、三を例示してみよう。
一つ。米ドルの金離脱によってドルは紙切れ同様になった。しかし米国のヘゲモニーを背景に、中国の挑戦で弱点を露呈しつつも、ドルの打ち立てた世界はなお続いている。
二つ。リーマン不況の契機となったサブプライム・ローンは詐欺同様の商品と知られて失敗した。それでも数学科出身の天才が製造した金融工学商品が、手を変え品を変えても販売されている。日本の金融機関も上顧客らしい。
三つ。自己責任を経済理念としながら、メガバンクなどの巨大企業を破綻から救済する。「潰すと国民経済に被害が及ぶ」と言って税金を投入する。愛国心と恐怖心の悪用である。
《大恐慌の導火線になるだろう》
「新型コロナ暴落」は大恐慌の導火線になるだろうか。なるだろうと考える。
今のところ暴落の震度は大恐慌のそれに及ばない。しかし底は浅いが角度は鋭い。次に導火線たりうる理由を挙げる。
一つ。カネのバラまきは限度に来ている。現にそのツケが今回の暴落である。
リーマン不況は、中国の公共投資が呼び水となり。世界経済はマイナスから成長軌道に乗った。しかし今度は誰がいるのか。主要国では政府も個人も山のような債務を抱えている。今回暴落の一因は、金融緩和政策への不信であり、巨額の財政資金が必要であることを示している。
二つ。市場原理が従来通りに働かない環境が出現した。
経済や生活が「新型コロナウイルス=自然の猛威」という制御困難な敵に首根っこを抑えられている。商品市場や市民生活が突然のボトルネック発生に遭遇している。
たとえば国境による出入国の停止。そういう環境下では偏狭なナショナリズムが醸成される。一体化に成功してきたEUが加盟国間の対立から解体の危機を迎えている。これらは自明であった市場原理の作動を妨げる。
三つ。自己責任を強調する新自由主義のイデオロギーが市民社会に深く浸透している。
80年以後、それは徐々に時に急速に市民の意識を捉えた。公共機関の民営化など、特に日本では、真の検証のないまま常識になった。今度は水道を民営化するという。労組の必要性は自明のものではない。春闘の主役は経営者団体である。こういう環境は一見、資本の論理に整合するかに見える。
《資本の論理を反転せよ》
しかし一旦、その論理が自分から「人間」を奪ったことを知れば、その論理は誰の利益になるかを知れば、それは抵抗の論理に転化されるであろう。大恐慌を経ることで、或いは対立と分裂を克服することで、その転化は遂に実現するであろう。辛い逆説だがそれは私たちに希望を与える。(20/03/17)
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