コロナ禍のイタリア・ミラノから ――幼なじみからのメール―――
- 2020年 4月 13日
- 評論・紹介・意見
- コロナ禍のイタリア・ミラノ柏木 勉
イタリアは新型コロナウイルスの感染拡大で悲惨の極にある。私の幼なじみは、ミラノでデザイナーとして働き、すでにミラノ在住45年。そこへ突然新型コロナウイルスが襲ってきた。イタリアはまさに混乱、悲惨のきわみに陥った。感染者、死者は一気に急増、医療崩壊が急速に進み、またたくまに公表死者数でも2万人にせまっている。
小生は幼なじみとメールのやりとりをしてきたが、今回その一端を紹介させていただき、少しでも多くの皆さんが極限状態にあるミラノの惨状を知っていただきたい。
(なお、幼なじみの氏名、アドレスはカットさせてもらった)
ミラノからのメール
Sent: Monday, March 16, 2020 1:41 AM ミラノから
To: 柏木 勉 Subject: Re: 大丈夫かRE: 勉だ、その後
この様に爆発的に患者が増えたのは、初動時の甘さ、管理の甘さでないか。
例えば、病院がかえって感染を拡げているかも知れない。医者自身が感染で亡くなっている。
彼女のお袋さんは(骨折で入院したのだが)、その後の院内感染で陽性となり、今ほとんど危篤の状態だ。臨終の最後の会話もできず、言葉は無い・・・・。
どうも感染者が院内をぶらぶらしていたようだとか、咳をしていた者もいたとか聞いた。
昨日の昼12時ごろ、ス-パ-の順番を待つ人達と、彼方此方のアパ-トのバルコニ-に出た大勢の人達が一斉に拍手――10分ほど続いた。
医師や看護師に感謝の拍手だ。ビルの谷間にパチパチと木霊して鳴り響く。
おおイタリア――!
多くの心ある人々の叫びとしての拍手、なんと人間的な文明社会の音、拍手を聞く思いだった。涙が出るような感動的な、そして、誰かが、国歌演奏を流した―――
昨日郊外の彼女の家から帰ったが、今や家を出て他の町へ行くことは違法。罰金か、留置所行きだ。
ひやひやしての帰り道、冷え冷えとした青白い照明の3車線の道路、前方に他の車は一つもなく、俺だけだった。
一台が猛スピ-ドで俺を抜いて行った。シュールな情景だった。
本当に強権を敷いた感じだ。厳戒令とはこんな感じだろう。
2―3日前、中国が早々と10人ほどの医師団と30トンだかの医療品をイタリアに運んで声明を出した。「本国は早々と収束に向かっている」とのパフォ-マンス。イタリアとの友好を演出する。そのプロパガンダの抜け目なさ。収束?ホントかよ!!
Sent: Friday, March 20, 2020 5:49 PM ミラノから
To: 柏木 勉Subject: Re: 大丈夫かRE: 勉だ、その後
俺の体は変わらない。スーパ-は何時でも開いている。どこかの国の様に棚が空になることは無い。
イタリアの死者数は中国を抜いたのでないか。
彼女のお袋さんは昨日午後息を引き取ったそうだ・・・・。
時期が悪かった。人生のめぐりあわせは分からない。 人災だ。
彼女は医者にあと5日ほどでお袋さんのベットを開けてくれと、3日ほど前から打診され、彼方此方他の病院を探していた。だが、何処からも断られ絶望していたのだ。
家に引き取るにしても、酸素吸入状態だったし、そもそもコロナビ-ルスの陽性から治っていても、2週間ほど様子見だったろう(その間は自分が感染する恐れをいだく)。
理屈も何も、吹っ飛んだ感じで、完全にほとんど機能マヒなのであろう。
棺を用意され墓場まで運んでくれるそうだが、親戚の集まる葬式は出来ない。
亡くなった者を見ることも触ることもできないのだ。
話は飛ぶが、英紙テレグラフがトリノの危機管理チ-ムから入手した情報によると、”緊急事態下の集中治療へのアクセス基準””というものがあり、「誰を生かすか、そのまま放置するか、80歳未満か否か、他の疾患が重いか低いか」により、治療するかしないかの基準になっているようだ。それが今後通達されるようだ。
集中治療病練が飽和状態になった場合、生かす人間の優先順位が付けられるようだ。
極限状態だ。どうなるか・・・生き延びなければならない。
Sent:2020/03/20 (金) 21:01 From柏木 勉
勉だ。 亡くなったのか。本当に絶望していただろう。
最悪の事態になってしまったな。
お悔やみ申し上げますと云うほかに言葉がない。
「時期が悪かった」、本当だな。
三日ぐらい前にTVでも報道していたが、トリノかミラノかはっきりしないがもはや病院は機能不全になっていて、生存の可能性が高い者を優先して治療し、低い者は見放しているとのこと。
重症者を選別している。だから、年齢の若い者を優先治療して年寄りは治療しないというトリアージュだ。・・・究極の選択だ・・・・。
前回、トリノの危機管理チームについて書いていたのは、その話だろう。
お袋さんが「ベッドをあけてくれ」と云われたのは、まさにそのケースになってしまったのではないか。それに葬式もろくにできないとは・・・・絶句だ。
教会に棺が何十も運び込まれている映像が流れている。
葬式はごく少人数で行うのか?
Sent: Monday, March 23, 2020 3:57 AM ミラノから
To: 柏木 勉 Subject: Re: 大丈夫かRE: 勉だ、その後
そっちは元気か。
政令で自宅に籠っている。皆だいぶこたえている。
友は電話で大声で憂さをはらう。
葬式は昨日だった。娘の彼女だけ立ち合いを許された。
棺を運んだ4人と牧師、15分のみ。他に次々と他の棺が到着という。
墓場は大忙しだ。
近くの養老院でも集団感染と沢山の死者が出たという。
もう混乱の極み。イタリアは混乱している。軍隊まで出てきた。
日本はアビガンを外国には配布しないのか。ぜひやってもらいたい。自国民の為にプ-ルすることは大事だが、世界に配布したら日本の株が上がるぞ。 今だ。
中国が「我々が‥」と出てくるのは目に見えている。しっかりローヤリティ-を主張しなければならない。イタリアにだけ配布は出来ないと思うが、采配を日本政府がふるうのだ。
時間が大事、役人仕事では人が大量に死んでいく。
イタリアは毎日毎日600人、700人死んでいく。
お前、国会議員を誰かを知らないのか。
Sent: Monday, March 30, 2020 11:23 PM ミラノから
To: 柏木 勉 Subject: Re: 大丈夫かRE: 勉だ、その後
彼女のお袋さんは、肺炎の悪化で酸素マスクをされ、亡くなるまでの最後の3-4日は、モルヒネも注入されたようだ。後になってから、彼女はお袋さんを担当した一人の医師からそのように聞いたそうだ。トリアージュではなかった。
薬局は人と人の間隔をあけて、店から一人出て、一人入る。
このような状況下では、従業員は上からの目線になりがちだ。これが役所の条例などをかさに着て権力を志向する軽薄な奴、馬鹿な奴だ。そんな連中がでてくることに注意しなければならない。何をこの若造が・・・と思ってしまう。
法律はどう解釈するかで恣意的に変わってくる時がある。市民は厳密に具体的であることを求めなければ。日本人は従順でおとなしいから、要請で何とか形になってしまう。
小生の感慨――コロナ禍転じて真のグローバリゼーションへ――
メールは、文字通り身をもって経験している過酷な現状をつづっているが、以下では、少し抽象的になってしまうが小生の感慨めいたものを2点ほど述べたい。
1、新たな感染症には、大昔からの原始的対応しか手がないのか
現在、世界各国とも国民の外出禁止・自粛や都市封鎖など巣ごもりが続けられている。このような対応を見ると、感染症に対しては「人と人が接触せず、離れる」という大昔からとられてきた原始的な手段しかないこと、それをあらためて認識させられる。
14世紀のペストで欧州では3千万人が死んだ。17世紀に再び大規模なペストが来襲した。その時の「ペスト医者」の衣装を見ると、鳥のくちばしのようなマスクめいたものに全身を覆う長いガウンである。これはただいま現在、コロナ感染者を治療している医師やスタッフのゴーグル、マスク、防護服を彷彿させる。無論、現在では各種のワクチンや治療薬が実用化されている。しかし、それらは新たな未知の感染症には役立たない。人類はその都度、昔からの原始的対応を繰り返すしかないのだろうか。未熟といわれる生命科学はそれを乗り越えられるのであろうか?
2、新型コロナウイルスの禍を転じて、真のグローバリゼーションへ
小生は、もと国会議員秘書だった知り合いを通じてイタリア支援の要請を行ったが、
当面の施策は日本国民の安全が第一となっており、国際的協力・支援への動きは小さい。現状ではやむをえないとはいえ、もう一歩でも2歩でも国際的取り組み体制が進まないのかとジリジリする思いだ。
だが、ここではもう少し長期にわたる希望めいたことを書かせてもらう。
それは「世界の分断か、真のグローバル化か」ということだ。
反グローバル化は、今回のコロナ禍の前から大きなうねりになっていた。だが、このうねりには、「資本のグローバル化への抵抗にもとづく真のグローバル化」という方向と、「政治的ナショナリズムにもとづく国民国家第一、自国民第一」という方向が包含されていた。我々が目指すべきは前者であることはいうまでもない。
今回のコロナ禍では世界各国が一斉に自国第一に走った。EU加盟国も相互に国境を閉じたし、一時は域内での医療物資の輸出禁止に走った。コロナ禍は排外主義、人種差別等々悪しきグローバル化に更なるはずみを加え、世界の分断を促進させた。
だが、コロナ禍は一国で解決可能な問題ではない。仮に一国で抑え込んでも、他国の殆んどが抑え込まなければ通常の経済活動へ復帰できない。復帰する過程での他国の感染者の流入など、パンデミックのリスクに再びさらされるからだ。また、すでにサプライチェーンがグローバル化した後では、経済活動の回復には他国からの供給と需要が欠かせないから、自国のみが元に復帰することは出来ない。従ってパンデミックの抑え込み、経済の回復双方にとって国境を超えた連携が不可欠なのである。
また、近年の新たな感染症の出現増加や今回のコロナ禍で誰しも思ったことは、WTO(世界保健機関)の機能強化と世界各国への権限拡大だろう(米中のつまらない対立があるが)。これは世界の人々が従来にもまして期待するものとなった。英国の元首相ブラウンが「一時的な世界政府の樹立」をとなえたと伝えられるが、国連の力が依然として弱いなかで、一時的な世界政府であるとしても、この試みは真剣に検討すべきだろう。またこの試みの一環として、WTOの強化と共に気候変動問題の解決を取り上げるべきだろう。(温暖化をはじめとする気候変動は、新たなウイルス・病原菌の登場をもたらす。それに近年増加の一途をたどる過去最大の台風や大地震、大津波などが加われば、とりかえしのつかない災禍をもたらすだろう)。
加えて、今回の新型コロナ禍では、進化したIT機器・インターネット等によって、世界の多くの人々が互いにかつ同時に、同じ苦境に陥りそこからの脱出を同じように模索していることを知っている。それが政治的ナショナリズム、国民国家の壁を乗り越える大きな力になることを期待したい。
このように国境を超えた連帯への動きは強まっているが、同時に国民国家の対立も増幅しているし、政治的ナショナリズム、国民国家の壁は依然として厚い。現実の実体経済はグローバルに依存し合っているが、観念領域では国民意識、国民国家という幻想によって隔てられている。それはいわゆるグローバリゼーションが利潤獲得を至上命題とする資本のグローバリゼーションであり、また資本は、結局のところ国民国家に寄生するしかないからである。新型コロナウイルスの禍を真のグローバリゼーションへつなげる新たな契機としなければならない。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9637:200413〕
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