ウイルス禍とのグローバルな闘いを通じて平和を 平和アピール七人委が緊急の訴え
- 2020年 4月 14日
- 時代をみる
- 世界平和アピール七人委員会岩垂 弘新型コロナウィルス
世界平和アピール七人委員会は4月13日、「ウイルス禍とのグローバルな闘いを通じて平和を」と題するアピールを発表した。新型コロナウイルスが世界的な規模で猛威を振るいつつあるところから、このパンデミックが「人間の安全保障」に極めて深刻な影響を与えかねないとして、緊急アピールを出したものだ。
七人委は、コロナウイルス感染が中国以外の国や地域に広がり始めた2月初めから、コロナウイルス禍の拡大に関する情報を収集し、委員間で論議をおこなってきた。その結果、コロナウイルス禍で地球上で多くの人たち、特に社会的な弱者が苦しんでいる一方、各地で武力紛争が続いているという情勢が浮かび上がった。このため、七人委は「今や、武力行使を続けている段階でない」「今回の危機は、人類にとって平和のための新たな自覚と行動の機会でもある」との結論に達し、緊急アピールをまとめた。
七人委は特に2月23日に発せられたグテーレス国連事務総長の声明「グローバル停戦のよびかけ」に注目し、そこで述べられている趣旨を支持する立場から、アピールを起草した。このため、アピールは「コロナウイルスのもたらしたグローバルな災いは、世界の人々がともに平和を願い、力を合わせていく歩みを人類社会に促している」と述べている。
さらに、アピールが「軍事力拡充の野心を放棄すれば、軍事費をウイルスとの闘いや気候危機の克服に振り向けることができる。諸外国の例では、もろもろの災害と同様、ウイルス禍との闘いで軍隊が力を発揮する場面も多い。軍隊や自衛隊の存在意義を根本から見直すべきときだ」と述べているのも注目される。
世界平和アピール七人委は、1955年、ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器禁止、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発表してきた。今回のアピールは140回目。
現在の委員は武者小路公秀(国際政治学者、元国連大学副学長)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙物理学者、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家、東京音楽大学客員教授)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授、宗教学)の7氏。
アピールの全文は次の通り。
ウイルス禍とのグローバルな闘いを通じて平和を
世界平和アピール七人委員会
新型コロナウイルスCOVID-19のパンデミックで世界の多くの地域が苦しんでいる。これを戦争にたとえる人も多い。多くの死者があふれ出て埋葬にも困るような状況、ロックダウンや国境封鎖のような市民の自由の束縛、犠牲を覚悟した医療関係者の尽力、そして人々の移動のチェックや大規模消毒等のための軍隊の出動等、確かに戦時期に生じるような事態が多くの国々で生じている。
特に、この新たな疫病は、高齢者や基礎疾患のある人々、国のインフラ、特に医療体制がまだ整っていない国や地域の人々、いわゆる先進国において貧富の格差に苦しめられている人々など、今地球上に生きている人々のうち、とくに弱い者のいのちを襲う病である。まさに、「人間の安全保障」が直接脅かされている。であればこそ、この危機は平和のための新たな自覚と行動の機会でもある。
国連のグテーレス事務総長は3月23日、「グローバル停戦のよびかけ」と題する声明を発表した。この声明の冒頭には、「私たちの世界はCOVID-19という、共通の敵と対峙しています」とあり、「このウイルスには、国籍も民族性も、党派も宗派も関係ありません。すべての人を容赦なく攻撃します。その一方で、全世界では激しい紛争が続いています。女性と子ども、障害をもつ人々、社会から隔絶された人々、避難民など、最も脆弱な立場に置かれた人々が、最も大きな犠牲を払っています」と続けている。従来からの武力行使を続けている段階ではない。
日本国内にも難民に比せられるような境遇にある人々が多数いる。疫病だけでなく経済の悪化によってもいのちの危機に陥る可能性が高い。これらの人々のいのちを守る働きが求められている。「人間の安全保障」として準備されているさまざまな仕組みのなかには、こうしたときに役立つものが少なくない。軍事力拡充の野心を放棄すれば、軍事費をウイルスとの闘いや気候危機の克服に振り向けることができる。諸外国の例では、もろもろの災害と同様、ウイルス禍との闘いで軍隊が力を発揮する場面も多い。軍隊や自衛隊の存在意義を根本から見直すべきときだ。
ウイルスの脅威に直面して、国境が閉ざされて一時的な鎖国状態が具現しているが、これが人々の間に壁を作るものであってはならない。国際的平和主義・国境を越えた協調主義こそ人類が歩んできた歴史の向かう方向ではなかったか。実際、国境を越えた支援の働きが力になっている。コロナウイルスのもたらしたグローバルな災いは、世界の人々がともに平和を願い、力を合わせていく歩みを人類社会に促している。
人類の歴史はウイルスとの共生の歴史とも言いうる。現代世界に生きる者同士が今回の経緯や体験から学び合い、今後も必ずおこる新種ウイルス出現にどう対処していくかの知恵を蓄積することが重要だ。この度の「闘い」と学びを、これからの平和と安全保障のあり方を方向づけるものにしなければならない。
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