新型コロナウィルスを封じ込めろ
- 2020年 4月 22日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
国境の封鎖
復活祭の休日が始まった週末の4月10日、東チモールでは新型コロナウィルスの新たな感染者が1名確認され、この時点で累計感染者は2名(1名はすでに回復して“自主検疫隔離施設”つまり自宅に滞在)となりました。10日以降の感染者の数を単純に追ってみますと、13日に2名、14日に2名、15日にも2名、16日はいっきに10名、19日には1名、20日に3名がそれぞれ確認されています。4月20日(月)の時点で感染者数は累計で22名、まだまだ数字としては小さいとはいえ、じわりじわりと増加の傾向が出てきたようです。
非常事態宣言下の東チモールでは外国人の入国は原則禁止され、もちろん旅客機の発着もなく空路での入国は東チモール人もできなくなっていましたが、東チモール人の場合、陸路での入国はしばらくのあいだ――水曜日・2時間だけ国境が開かれ――可能でした。多くの若者たち(インドネシアで学ぶ学生とおもわれる)が国境の前に列をなして国境の門が開くのを待っているニュース映像が流れていました。陸路から帰国した人たちは、当局によって首都に搬送され、“検疫隔離施設”に14日間滞在することが義務付けられます。政府は、4月13日、陸路の国境も封鎖し、東チモール人でも陸路からの入国は禁止されました。非合法な越境者を完全に取り締まることができるのか、インドネシア当局と協力して行われている国境管理は新型コロナウィルス対策の要です。
帰国した東チモール人が14日間の滞在が義務付けられている“検疫隔離施設”ですが、この場合、新型コロナウィルスの症状が出ないことを確かめるための隔離施設で、健康観察施設といえます。首都の多数のホテルが利用されているほか、新たに設置されたプレハブ建物の隔離施設もあります。
感染経路を追え
15日の時点で累計感染者8名となりましたが、このうち5名が4月1日に西チモールから陸路で帰国した一行だったと報道されました。新型コロナウィルス対策のために設置された危機管理統合センターのルイ=マリア=デ=アラウジョ医師は、かれらと同じバスに乗ったのではないかと心配する人のために、国境までかれら5名が乗ったバスはかれらだけを乗せてその他の乗客はいなかったことを発表し、さらにバスの特定、運転手の名前まで公表しました。
この5人は入国後、“検疫隔離施設”となった首都市内のホテルに滞在していましたが、陽性反応が出たため、15日、このホテルから陽性反応者のための隔離施設へと移されました。同日、同じホテルに隔離滞在していた人がここはウィルスに汚染されているから別の場所に移してほしいと保健省係員の仕事を邪魔して要求する一幕があったと報じられました。この要求はもっともです。東チモール政府が“検疫隔離施設”を感染拡大場所にしないことも新型コロナウィルス対策の要点といえます。
また、4月4日にチャーター機でポルトガルに帰国したポルトガル人教師の1人が6日にポルトガルで検査をうけたところ陽性反応を示したことを4月14日、ルイ=マリア=デ=アラウジョ医師は明らかにし、この教師の足取り情報をポルトガルから得ていくと述べました。そして20日、このポルトガル人教師は2月28日に東チモールに到着し、リキサ(ディリ地方の西隣りリキサ地方の主都)に滞在していた教師グループの一人であったとデ=アラウジョ医師は発表しました。このポルトガル人教師と接触していたリキサの教師たちには感染が疑われる症状がでている人はおらず、WHOの指示に従い社会的距離を保ちながら自宅で生活をしているとのことです。また、ポルトガル人教師たちの運転手を勤めた人も検査をうけたところ、陰性だったといいます。
差別をなくせ
4月19日、首都のコモロという地区にある診療所で17歳の患者が高熱や激しい咳の症状をだしていたので医者が新型コロナウィルスの症状と疑ったところ、その患者が逃げ去ってしまいました。危機管理統合センターの報道官オデッテ=ビエガスさんは、この件が示しているのは、感染者やその家族、あるいは保健業務に携わる人などウィルスに近い人たちにたいする差別が発生していることだと述べました。感染者と疑われるだけで差別をされるのではないかという不安にかられ身を隠す人が出るとしたら、新型コロナウィルスを封じ込めることはできないでしょう。
20日、ルイ=マリア=デ=アラウジョ医師はこの件についてその後の経過を説明しました。当局がこの人物探したところを自宅で見つけ、危機管理統合センター当局がこの人と話し合い、この人は感染者と疑われる人とは接触していなといい、今は自宅で自主隔離をしているとのことです。
危機管理統合センターによれば、20日現在の累計数は以下の通り。
・隔離施設の入所者…597人
・隔離施設で14日間過ごして出所した人…1339人
・感染の疑いのある人…327人
・感染の可能性がある人…5人
・検査結果待ちの人…92人
・検査結果が陽性だった人…22人(うち1人が回復)
・検査結果が陰性だった人…208人
報道からうける印象として、いまのところ東チモール政府は、マスクの使用と手洗いそして社会的距離を保つことを住民に呼び掛けることに加えて、国境管理と隔離徹底で感染拡大の防御策としているようです。
東チモールの危機管理統合センターの記者会見の内容と、日本の首相や東京都知事の会見の内容を比べると、東チモールの方がはるかに科学的です。医療体制が脆弱な東チモールで(このことは東チモール侵略に直接・間接にかかわった国ぐにの責任だ)感染経路が不明な感染者が地方にでるようになったら、それでなくてもデング熱で子どもたちが苦しむ国、たいへんなことになってしまいます。新型コロナウィルスの封じ込めに成功することを心から祈ります。
青山森人の東チモールだより 第413号(2020年04日20日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9671:20200422〕
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