韓国の総選挙をどう読む
- 2020年 4月 24日
- 時代をみる
- 小原 紘選挙韓国
韓国通信NO635
去る15日に行われた国会議員選挙で与党「ともに民主党」は180議席を獲得、単独過半数を30議席上回る大勝利を収めた。(下図左ブルーが与党/右ピンク未来統合/黄正義党)
新型コロナウイルスの感染が収まらない異常事態のなかでの投票率66.2%は日本の直近の国政選挙参院選48.87%と比べ驚異的な高さだった。
<勝敗の原因は何だったのか>
韓国議会は一院制、定数300議席、任期は4年、途中で解散はない。今回の選挙は3年目に入った文在寅政権の外交、経済政策、雇用政策などの内政全般にわたる評価を意味した。北朝鮮との交渉の停滞、コロナ対策、曹国(チョグク)前法務長官のスキャンダル、慰安婦問題、徴用工問題をめぐる対日関係も争点となった。
与党側は苦境に立たされていたが、結果は180議席に加え「正義の党」、「開かれた民主党」を加えるとオール進歩陣営は189議席となり、改憲に必要な3分の2に手が届くという前代未聞の圧勝となった。廬武鉉政権時代から懸案だった検察改革、国家保安法の廃止も可能になった。
圧倒的な勝利だったが、あまりほめられた内容ではない。小選挙区制の弊害である。得票数と議席数がかけ離れた。同時に行われた比例代表制(比例代表は47議席)で各政党が獲得した票をもとに配分してみると、民主党と未来統合党は100議席ずつ、正義党が30議席、その他が70議席という計算が成り立つ。実際の議席との違い。これでは民意を正確に反映したものではない。
選挙区で与党候補が勝利したのは事実だが、野党側からすれば惜敗、与党にとっては薄氷を踏むような勝利だった。
野党側が競り負けたのは、かつて朴槿恵政権時代の与党としての反省が欠け、文権に対する誹謗中傷に終始し、保守政党として政策を提示しなかったからといわれる。事実、敗北した未来統合党の内部から、また実質応援団である保守系新聞(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)からも旧態依然として魅力に欠けた未来統合党に対する批判の声は高い。
事前の予想では保守の支持基盤に加えて、政治に強い不満を持つ若年層の動向が関心を集めたが、文政権をアカ呼ばわりする野党の程度の低さに中間層離れが進んだと言われる。もちろん、時代に逆行する動きにはローソク市民たちも危機感をつのらせ黙ってはいなかった。
選挙後、興味深いのは野党の「ていたらく」ぶりに助けられたのを自覚してか、民主党は世論を意識して謙虚さと慎重な政権運営を表明、大統領も当面する諸問題、コロナ対策、経済対策、なかでも若年層の雇用問題に全力を挙げる姿勢を表明したことだ。驕れる多数党は国民から見放されるという歴史を韓国は繰り返してきたからだろう。
<どうなる日韓関係>
日本の政府もメディアも韓国の総選挙について概して無関心だった。無関心を装いながら与党の敗北に期待していたふしもある。与党が敗北すれば日本に都合のいい変化が生まれる甘い期待があったのかも知れない。
韓国人の対日感情は悪くはないが、安倍政権に対しては保守層を含めて最悪である。従軍慰安婦問題、徴用工問題で見せた安倍政権の不誠実さは韓国民の怒りを買った。日韓関係が重要と考えるなら、今回の選挙結果を踏まえ、韓国政府と韓国民に対して誠実に向き合うほかはない。与党勝利の背景には慰安婦問題、徴用工問題、日本の経済制裁に対してスジを通した外交姿勢が評価されていることも忘れてはならない。
今回の選挙で慰安婦問題の運動をリードしてきた「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」前代表の尹美香(ユン・ミヒャン)さんが当選した。日本大使館前の集会で挨拶を交わす程度のお付き合いだが、女性の差別問題、平和問題での今後の活躍を期待したい。
<写真/日本大使館前水曜デモ/学生たちの前で挨拶する尹さん>
歴史を知らない日本人。歴史を学ぶ韓国人。歴史を知らないことを棚に上げて安倍首相と麻生副総理をはじめとする歴史改ざん者に厳しい目が注がれる。それは選挙前も後も変わらない。
今回の選挙の結果、韓国政府が対日姿勢を強めてくると予想する人がいるが、私はそうは思わない。政権運営に自信を持った韓国政府は「ゆとり」を持って日本に接してくるに違いない。感情的に「すべて解決ずみ」とだけ主張する日本政府はますます国際的孤立を深めていくに違いない。
<日本と韓国の違いはますます鮮明に>
「誰もが人間らしく生きられる社会」を公約に掲げた文在寅政権は、コロナ対策でも国際的な注目を集めた。国民の命を真っ先に、検査システム、隔離政策、情報の透明性さで日本とは格段の違いを見せた。野党は国民の不安に乗じてコロナ対策の不十分さをとりあげ、政権批判を繰り返したが、国民は冷静に政府の対応策に及第点をつけた。カナダ、ヨーロッパ、世界各国から韓国のコロナ対策を学びたいという声があがり、韓国政府は要望に応えたいと積極的だ。
株価中心、消費者物価の上昇、大企業の収益を重視するアベノミクスは破綻した。まさにアホノミクスだ。中小企業対策、国民の所得向上に力を入れる文在寅政権と明らかに方向が違う。所得格差の問題はわが国をはじめ世界的に深刻さを増しているが、文在寅政権は何よりも貧富の格差是正に重点を置く。至難の道だが、国民は政府を信頼し期待を寄せる。
<韓国から学ぶことはいっぱい>
投票率の高さは何よりも韓国の人たちの政治に対する関心の高さを示した。それは政治に対する期待と信頼を示すバロメーターでもある。
先輩たちから「民 信なくば 立たず」という言葉をよく聞かされてきた。論語しらずの私はその言葉を使ったことがない。しかし、最近無性に使いたくなってきた。歳のせいだろうか。いや政治のせいだろう。二枚のマスクと10万円。そのかわりに外出自粛を呼びかけられて不愉快でしょうがない。モリカケ疑惑、桜を見る会、あげくに検事総長の人事にまで口ばしを入れる政治に対する不信感。感染者、死者の数さえ疑わしい。コロナウイルスは恐ろしいがウソも怖い。為政者を信用できなければ政治は成り立たない。孔子は本当にいいことを言った。「信なくば 立たず」。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4710:200424〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。