尾身茂発言に驚く。これでは、国民の信頼を得られない。
- 2020年 5月 6日
- 評論・紹介・意見
- コロナ澤藤統一郎
安倍晋三には、とうの昔に見切りを付けている。この人物を信頼してはならない。現下の国民的な災厄に適切に対応する適性も能力も誠実さもない。しかし、チームとして事に当たる、官僚諸君や医療人は信頼に足りるのではないか。その期待は捨てていない。頑張っていただきたいと願っている。
問題は専門家会議(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議)に対する信頼の可否である。当初は、その分野での日本の最高知が集められているのだと思いこんでいた。だから政治性とは無関係に、無能な官邸にも適切なアドバイスができるだろうと期待は高かった。が、どうもそうではないらしい。次第に馬脚が現れてきた。そして、昨日(5月4日)の「緊急事態延長宣言」首相記者会見に陪席した尾身茂の発言は、国民の前に、「これはダメだ」「到底信頼しえない」ことをさらけ出した。
率直に申しあげよう。こんなにも注目された場で、こんなにも能力を期待される人の、こんなにもわけのわからぬ記者会見発言は前代未聞のことではないか。私が浅はかだった。思い起こせば、政権にくっついた「専門家」の不甲斐なさは、3・11原発事故でよく分かっていたはずではないか。安倍政権にくっついている「専門家」には、国民からの厳しい批判が必要なのだ。
官邸のホームページから当該部分を抜粋してみる。以下の質問は要約で、回答は全文である。原文は下記URLを参照されたい。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0504kaiken.html
質問 ビデオニュースの神保(哲生)です。
PCR検査の話、総理は御自分もどこに目詰まりがあるのかをいろいろ聞いてみたというお話がありました。PCR検査は感染状況を知る上でも、自分が感染していることを知らないで人にうつしてしまうケースがあるという意味でも非常に重要だと思うので伺うのですが、内閣総理大臣がPCR検査が少ないので増やせと指示をしても、今の日本は実力的にPCR検査を増やすことができないと総理はおっしゃっているのでしょうか。それとも、まだ、これまでは本気で増やすことをしてこなかったということなのか。そして、なぜ民間を使うという選択肢が出てこないのか。詳しくお話しください。
(安倍総理)
これはもちろん本気でやる気がなかったというわけでは全くありません。私は何回も、とにかく能力を上げていくと。実際、能力は上がってきているわけであります。国としてできることは、予算をつけて能力を上げるということでありまして、1万5000。しかし、1万5000、能力を上げたら、1万5000人分行くかといったら残念ながらそうなっていないのでありますが、多く見て、多くは東京に集中をしているわけであります。ですから、先ほど申し上げましたように、PCRセンターを20か所増やす中、東京に集中的に12か所増やしました。医師会にも御協力を頂く。言わばそういう体制をつくっても、なぜかと言えば、これはまず、それをPCRをやる方を迎えなければいけなかったわけでありますが、それをやる、言わば人的な目詰まりもあったわけでありまして、医師会の皆さんにも御協力を頂き、また、歯科医師会の皆さんにも御協力を頂くことになったわけでありまして、そういう意味において、全力を挙げていきたいと思っています。
補足的にもまた尾身先生に御説明を頂きたいと思います。
予てから、安倍は「PCR検査能力を上げていく」「1日2万件」と表明しながら、現実にはその半分にも到達せず、他人事のように「目詰まり」云々と言ってきた。質問の眼目は、この「目詰まり」にある。安倍晋三よ、本気でやる気があるのか、という問いかけなのだ。これに対する安倍答弁は、かろうじて最初の一文だけが理解可能であるが、それ以下は何を言っているのか分からない。忖度すれば、「これからは全力を挙げていきたい」というものだが、質問者の意図に的確に応えるなどという芸当は望むべくもない。この人、プロンプターやメモがなければ、この程度にしか語れないのだ。これが、わが国の行政府のトップの「能力」なのだ。
ここで尾身茂にバトンが渡される。以下、5パラグラフに分けて感想を述べる。
(尾身会長)
実は、もう民間の方は、先ほども申し上げましたように、3月6日から保険の適用が始まって、少しずつ増えております。今、いろいろ統計を我々は始めて、いわゆる感染研とか地方研でやられていることは分かっています。それと、民間の検査会社でやっているのも分かっていますが、実はこれはなかなか複雑でして、病院でやったものを、今、医師会なんかの御協力で保健所を通さないで行くというシステムができたのは皆さん御存じですけれども、入院されている患者さんは退院するまでに数回やることがありますよね。退院のために2回。そうすると、そのことが全部報告されてきてしまうと、分母、やっている件数が増えますよね。だから、我々、今、非常にジレンマで、今、大変難しいと思って、何とか解決しようと思っているのは、一つの報告、分母は感染研とか公的機関だけのものと、それから民間を入れると今度は増え過ぎてしまって、そこはオーバーになっているということが今、現実ですけれども、しかし、確かにトータルとしては、今日の専門家会議の方で見せましたけれども、検査件数が全く上がっています。
こりゃまったくダメだ。発言の意味が分からん。とても科学者の言葉ではない。少なくも、目に見えない、そしてワクチンも治療薬もないウィルスと闘おうという高度な知力を要するプロジェクトのチームリーダーの言とは思えない。この人の属するチーム内でのコミュニケーションができているとは思えない。
「今、いろいろ統計を我々は始めて、…実はこれはなかなか複雑でして」という文理からは、「保健所を通す検査」に、「保健所を通さない検査」が加わったから、「実はなかPCR検査の統計が複雑でして」、「非常にジレンマで、今、大変難しいと思って、何とか解決しようと思っている」というように読める。とすれば、この程度の統計処理を難しいというこの人の正直さは憎めないが、到底大事を託することはできない。
あるいは、「民間を入れると今度は増え過ぎてしまって、そこはオーバーになっているということが今、現実です」との意味は、こうであろうか。「これまでは、保健所を通した検査に限定することで、自分たちの対応できる範囲での陽性患者数に抑制してきたが、検査に民間が入ってくるとその意図が崩れてしまって、事態は大変難しい」 これも、バカげた話。PCR検査増加の必要についてまったく理解していないと言うことだ。
発言の趣旨が分からない。何が言いたいんだか理解し難い。問われているのは、これまでどうしてPCR検査に民間活用をしてこなかったのかということ。あなたは、民間の検査や報告を歓迎しているのか、「増え過ぎてしまって、そこはオーバー」だから邪魔で反対というのか。
それと、先ほど、そういう中でも実は日本の死亡率は、これは一番の我々の目標、全ての感染を知っているわけ、これはなかなか難しいですね。分かりませんが、死亡率という意味で、今のあれでも死亡のことはピックアップして、その死亡の数は、これはヨーロッパのほうに比べても10分の1以下ということですから、必ずしもPCR、私自身はPCRはもう少し、総理がこの前2万件と。そのぐらいまでは行ったほうがいい。それに今、努力をしています。ただ、それと同時に、私は専門家として、一応事実としては、PCRは日本は最も少ない国の一つですけれども、人口当たりの死亡率、それから絶対数もヨーロッパの国の10分の1以下であるということは、これは事実です。しかし、だからといって、今のPCR体制がこのままでいいというように申し上げているのでは。
これも、いったい何を言っているのか。何を言いたいのか分からない。分かるのは、PCR検査不足の言い訳をしようという魂胆だけ。聞かれているのは、PCR検査の実数が伸びない「目詰まり」の実態。安倍得意の論法ずらしと同様に、問題を死亡率にすり替える。類は友を呼ぶというが、なるほど尾身も安倍流なのだ。
もう一つは実は、PCRというのは、もう皆さんも御承知のように、やるのはそう簡単ではなくて、今、我々が、先ほど治療薬の話が出ましたけれども、私自身は治療薬の研究に直接は関わっていませんが、この5月あるいは6月で臨床治験の結果が出る。
これも、すりかえ論法である。しかし、PCRという検査を話題としているのに、唐突に治療薬の話。いったい、質問とどんな関係があるのか。質問に答える場での、このトンチンカンさは、この人には対話の能力のないことを表している。この人が臨床医であればインフォームドコンセントはできない。この人が教官であれば、生徒は不幸だ。そして、もしかしたら、今日本国民を不幸にすることにもなるのだ。
それともう一つ、今のPCR関係で非常に重要なのは迅速診断キットです。抗原。これが、まだ最終的な結果はありませんけれども、これは簡単です。唾液を取ってできますから、実は、これは日本がインフルエンザでずっとやってきた、あれなのです。それで、私はこのPCRはこれからも、PCRとこれは補完的な関係ですから、この迅速診断キットというのが私はかなり期待をしています。もちろん早計に簡単なことは言えませんけれども、今、私たちの入っているところでは、比較的、特にウイルスの排出の多い、これが一番感染をしやすいケースですよね。この人たちを探知するのは十分。もちろんPCRの方が感度はいいですよ。だけれども、感染の症状の始まる前、2日ぐらいが一番多いんですね。
このレベルのウイルスだと引っかける可能性があるということで、私自身はPCRはもちろん、これから様々な困難がありますけれども、努力して、2万件のところまでとりあえず行く。と同時に、迅速診断キットができると、かなり今の状況は変わるということがあるので、この2つを見ながら、また死亡率を、死亡率はだんだん今、死亡者は上がっていますから、死亡者をこのまま他の国に比べて少ないという維持をするためには様々な努力が必要だと思います。
この記者会見発言は一般国民に向けのもので、医療従事者向けでもジャーナリスト向けでもない。拙劣な日本語解説で、一定の知識なくしては内容を推察しえない。 迅速診断キットとは、「新型コロナウイルス検出PCR検査キット」のことではない。過日、楽天が「検査キット(COVID-19 PCR Testing Kit)」を販売するとして話題になったが、結局は販売は中止となった。尾身発言が言及したのは、そのPCR検査キットではない。そして今注目度の高い血清抗体検出キットのことでもなく、「抗原簡易検査キット」のことである。
果たして、どれだけの人が尾身解説を理解できたであろうか。また、知識あって、この人の言うことを推察できた人には、この発言は無用の長物である。
そして最後の「死亡率を、死亡率はだんだん今、死亡者は上がっていますから、死亡者をこのまま他の国に比べて少ないという維持をするためには様々な努力が必要だと思います。」は、ダメ押しの意味不明。
「死亡者の絶対数も、感染者に対する死亡率も、他国に比べて低く押さえるには今後の努力が必要」と言いたかったのだろうか。そんなことなら、あまりにも当然のうえ具体性がなくしゃべる価値も聞く価値もない。
これが、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議・副座長」であり、「基本的対処方針等諮問委員会・会長」の発言である。安倍の持ち上げに乗じられて、恐れ入ってはならない。目を見開き、聞き耳を立てて、よく言い分を吟味しよう。いま、国民の厳しい批判こそが必要である。遠慮などしている余裕はない。
(2020年5月5日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.5.5より許可を得て転載
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〔opinion9722:200506〕
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