きのうの首相記者会見になぜ尾身氏が隣に~「死亡率は、ヨーロッパの10分の1以下」というが、ご遺族が聞いたら・・・。
- 2020年 5月 6日
- 評論・紹介・意見
- コロナ内野光子
5月4日の記者会見でも、首相は、長々としゃべったが「前を向いて頑張ればきっと、現在のこの国難も乗り越えることができる」以上のメッセージは聞こえてこなかった。感染症対策、経済対策は「万全を期す」が、様々な判断は、地方に丸投げというスタンスは変わりない。また、今回の記者会見では首相の冒頭発言後の記者との応答には、「尾身会長」が同席し、首相と並び、たびたび発言をしていた。
「尾身会長」の同席は、4月7日の首相による地域限定の緊急事態宣言、4月17日の緊急事態宣言の全国拡大の会見の折も見られた。司会者は「尾身会長」と呼ぶが、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」では、副座長の肩書のはずで、会長でも座長でもない。なんで隣に座っているの?
これまで、私自身も曖昧だったのだが、もう一つ、専門家による会議、諮問委員会があったのである。それは、特措法の18条の規定による「基本的対処方針等諮問委員会」で、政府が緊急事態宣言を発する場合に諮問する委員会で、新型コロナウイルス感染症対策本部の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」とは別だった、ということが分かった。なお、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」というのは、特措法15条で設置を定める政府対策本部に「医学的な見地から助言する」という位置づけで、法律上の組織ではない(「専門家会議「宣言」変更判断に知見提供」『日本経済新聞』2020年5月1日)。
尾身氏は、その「基本的対処方針等諮問委員会」の方の委員長であって、司会者が会長と呼んだりするから混乱する。そして、会見の最後の方の「PCR検査が進まないのは、首相が本気に取り組んでないからじゃないか」という主旨の質問に対して、「やる気がなかったわけでなく、人的な目詰まりが原因だが、その解消に努めている」という主旨の回答をしている。そして、民間機関でのPCR検査については、尾身氏が代わり回答するのだが、その中で、「民間での検査も進んでいるが、それを分母に加えると・・・」と分かりにくい説明が続くが、「日本の人口当たりの死亡率がヨーロッパの10分の一以下」という主旨のことを繰り返していた。
「私は専門家として、一応事実としては、PCRは日本は最も少ない国の一つですけれども、人口当たりの死亡率、それから絶対数もヨーロッパの国の10分の1以下であるということは、これは事実です。しかし、だからといって、今のPCR体制がこのままでいいというように申し上げているのでは(ない?)」との発言に、私は、ドキっとしたのである。こうした発言を、死亡された人の遺族の方が聞かれたらどんな思いをするだろうか、ということだった。軽症者として自宅待機をさせられるなか、急変して亡くなった方、検査をしてもらえないまま重症化して亡くなった方などが報告される中、本人はもちろん遺族の口惜しさを想像したら、マスクや防護服さえない中で、医療従事者の方々の懸命な努力に思いをはせれば、なんとこころない言葉ではないか。学会や研究発表とは違う国民向けの会見の場という配慮に欠けていたのではないか。
さらに、上記の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」と「基本的対処方針等諮問委員会」のメンバーというのが前者の専門家会議の12委員が、すべて諮問委員会のメンバーにもなっているのはどういうことなのか。「専門家のご意見」を踏まえ、対策本部の議論を経て首相が判断し、国会へ報告するといった仕組みで、「緊急事態宣言」を発する場合は、「諮問委員会」に諮った上で、決断することになっている。しかし、専門家会議全員が諮問委員会の委員でもあるということは、内閣に助言・提言を参考にして決まった「宣言」を諮問委員会に諮り、了承を得るという「諮問」はもはや意味がない。もともと、日本の行政は、審議会・諮問行政ともいわる。各省庁の事務方が作成した「答申案」を各省庁が任命する者により構成された審議会・諮問会議などの長が大臣に重々しく答申することが慣例で、大臣に手渡す写真や映像がしばしば報道される。審議会・諮問会議は、省庁からは独立した組織であるはずだが、「有識者」や「専門家」は、省庁のに都合のいい人選で、重複も多く、会議は、実質的な議論の場ではなく、事務方案のペーパーの承認、権威付けに利用される場合が多い。
今回の新型コロナウィルス感染防止対策においても政府御用達の「専門家」は要らない。
初出:「内野光子のブログ」2020.5.5より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2020/05/post-e2af13.html
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〔opinion9723:200506〕
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